軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化のとき ② ※アンサンブルキャスト面

「ノイエラも、まだまだねえ!」

「アリアナも、そろそろ降参~?」

纏め役のエゼリアと盛り上げ役のディーナが一定の拍子で煽りを入れる。

「負けるかあああああっ!」

「遅れてきてない~?」

妹のアリアナが煽りに抵抗して、姉のアンリカが更に煽る。

脳筋たちは実に楽しそうだが、王城という大真面目に国家の舵取りを行う重要な場所だけに、不真面目この上ないバカ騒ぎを見逃すわけには行かない。

どやしつけるターゲットが絞られたことを確認したフレイアが足を進める。

気配も足音も消して接近する技術を側近たちに仕込んだのはフレイアなのだから、当然、フレイア自身も同等の技術を身に付けている。

ロス家が得意とする隠密系の技術だが、敵への接近に極めて有用な技術なのだ。

有用なものにフレイアが興味を示さないわけが無かったし、ロス家に押し掛けてまでフレイアが得た技術は当然の如く側近たちにも伝えられた。

技術的には、体幹の置き方と足運びによる高度な身体制御によって、音や振動を極限まで小さく抑えるものらしい。

ハロルドには真似できないが、今さらだろう。

頭の中まで筋肉繊維が詰まった脳筋たちが横並びで腕立て伏せをしている前にフレイアが立ち、ハロルドの接近で気配に気付いたエゼリアとアンリカが顔を上げ、フレイアと目が合って凍り付く。

二人が動きを止めたことで、漸く状況に気付いたディーナとアリアナもフレイアの顔を見上げて凍り付いた。

「どうした。続けないのか?」

気配を抑えることを止めたフレイアの声が室内を支配している静寂を破る。

運動による発汗とは種類の違う脂汗が、一瞬で顔色を悪くした4人の顔をだらだらと伝い落ちる。

「い、いやあ。運動不足も解消できたし、そろそろ良いかなあ・・・」

「そ、そうね。いい汗かいたわね・・・」

「あ、アリアナの成長も確かめられたし、終わりましょうか・・・」

「ちょっ、ディーナさん! そこで、何で私の名前を!?」

ハロルドの立ち位置からはフレイアの表情は髪に隠れて見えないが、魔王のような顔をしているのだろうことは容易に想像がつく。

そうっとアンリカたちの背中から降りた子供たちが、抜き足差し足で逃亡を試みる。

「ルナリア。フィオレ。ナンナ。殿下もだ」

「「「「は、はいっ!」」」」

ビクゥッと体を震わせた子供たちが立ち止まって気を付けの姿勢になる。

「そこに座れ」

「「「は、はいっ!」」」

逃亡に失敗した子供たちは、その場で回れ右して大人しく絨毯の上に正座した。

「エゼリア。アンリカ。ディーナ。アリアナ」

「「「は、はいっ!」」」

フレイアと目を合わせないようにして中腰で逃亡を試みた脳筋たちも、その場で直立不動になる。

「お前らもだ」

「「「は、はいっ!」」」

ササッと戻って来た脳筋たちがフレイアの前に横並びで正座する。

「「「「「(―――、ハッ!)」」」」」

トコトコと小さな足音を立てて、小さな影がフレイアの足に抱き付いた。

思わぬ救いの猫耳の降臨に正座させられている面々が刮目する。

「かあさま」

「おう、ノーア。さっきは大人しくしていられて偉かったぞ」

「にゃ」

ぐりぐりと撫でられて尻尾の先を揺らしたノーアが、表情を緩めたフレイアに抱き上げられる。

「「「「「(おおお―――!)」」」」」

無垢な幼女は魔王の怒りをも鎮める超常の力を持つのだ。

感激に目を輝かせていた正座勢を、フレイアがジロリと見下ろす。

「で? お前らは、ケガ人の部屋で何をしている?」

「え、え~っと。看護?」

目を泳がせたエゼリアが、両手の人差し指同士で指先を付き合わせる。

フレイアの反応を悉知しているエゼリアでも、起死回生の言い訳は思い付かなかったらしい。

ディーナは正座した状態で器用に死んだフリをしていて、フレイアに叱られた経験が無い涙目のアリアナは恐怖で口から魂が抜け掛けている。

「お前らは?」

「・・・ふ、負荷が足りないと」

俯いてフレイアと目を合わせないようにしているフィオレの状況説明に、テレサとルナリアとナンナが俯いたままコクコクと頷く。

「ケガ人の、お前は?」

「う、運動不足の解消を、少し?」

「ほう? そうか、そうか」

「テヘッ」と誤魔化し笑いを浮かべるアンリカを見下ろして、フレイアが、それはそれは優しい微笑みを浮かべた。

だが、フレイアの目の光は1ミリも笑っていない。

笑っていないフレイアの笑みに、エゼリアとディーナが滝のように脂汗を流し始める。

決勝戦敗退者と声援を送っていた観客たちは、息を殺して全力で空気と一体化しようとしている。

空気になれたところで、空気ごと踏み潰し焼き尽くすのがフレイアなのだから、全く意味は無い。

過酷な懲罰的訓練から逃れる術が見つからず、絶体絶命の状況に全員が絶望的な表情を浮かべている。

「あの。失礼いたします」

そこへ、案内の女中が声を掛けた。

フレイアの目が女中へと移る。

脳筋どものバカ騒ぎに怒っていても、無関係な者にフレイアが害を及ぼすことは無い。

「何だ?」

「魔法術士団団長閣下が、タイアー様のお見舞いに、と」

不意に現れた救援部隊に、フレイアの視線から外れたエゼリアとディーナとアンリカが無言でガッツポーズを取る。

期待しているのは、有耶無耶か。

「バルトロイが?」

「ど、どーぞ、どーぞ! お見舞い、お受けいたしますわ!」

イチかバチかの勝負に出たアンリカが、余所行きの声を上げた。

声は余所行きだが、本人は正座させられたままだ。

「(よく言った! アンリカ!)」

「(さすが、アンリカさん!)」

「(ちょっ、姉様!?)」

勇者アンリカと懲りない脳筋どもをチラリと見て、フレイアが鼻息を落とした。

「間の悪いヤツめ」

「「「(最っ高の間です!)」」」

「よろしいので?」

フレイアの視界外で筋肉を誇示する女性騎士たちの様子に、目が笑っている女中が確認する。

ノーアを抱き上げたままフレイアが頷く。

「本人が受けると言っている以上、仕方あるまい」

「かしこまりました」