軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化のとき ① ※アンサンブルキャスト面

国王執務室を出て、案内の女中に行き先を告げると、女中が一礼して先導に立つ。

王都を離れて長いハロルドは王城上層階の配置に関する記憶が怪しくなっているが、職務上、頻繁に訪れていたフレイアは、王族居住区画に至るまで、“表に見える部分”に限っては、ほぼ全容を把握している。

それでも、短気なフレイアでさえ、王城内では勝手な行動を取らず、案内の女中に従うようにしている。

長々と続く複雑な廊下は、扉の位置から室内の大きさや形状が判別出来ない作りになっていて、そこかしこに、隠し部屋や隠し通路が設けられていて、どこに何人の近衛部隊が潜んでいるか分からないのだ。

迂闊な行動を取ると、特務魔法術師の肩書きを持っていたフレイアでも揉め事になる。

上層階に勤める近衛騎士や女中は選りすぐり中の選りすぐりで、相互の監視さえ任務の一つとなっていると聞いている。

アマリリアから教えられた情報だから、その確度は極めて高いだろう。

暫く歩くと、廊下の先から“誰かが騒ぐ”声が聞こえた気がして、フレイアがピクリと右目を眇める。

足を進める度に、空耳では無い確信に変わり、フレイアの目が据わり、額の端に血管が浮く。

フレイアと並んで歩いているハロルドは、フレイアが纏う空気の変化を感じ取って横目で伺い、何となく状況を察する。

ハロルドも十分に耳が良いのだが、環境の変化を感じ取る勘の良さでは昔からフレイアには敵わない。

念のため、体内魔力を活性化させて聴力を強化してみると、向かう廊下の先から騒ぐ複数の女声が聞こえてくる。

音が籠もっていることから廊下では無く、室内で何かが行われているのだろうと分かる。

分かるのだが、騎士団の宿舎や領軍の兵舎では日常茶飯事でも、室内とは言え、王宮貴族や王宮官吏の立ち入りすら制限される王城の上層階で、バカ騒ぎなどするものだろうか。

そんなバカ騒ぎが出来る精神の強さを持っている女性たちなど、そうは居ない。

そうは居ないが、心当たりならハロルドにも有る。

溜息を落としながら、近い未来に起こる事態を予想したハロルドはこめかみを揉む。

そうして、一つの扉の前で案内の女中が足を止めた。

扉をノックしようと上げ掛けた女中の手をフレイアが止める。

フレイアの形相を目にしてしまった女中が無言で目を剥き、額に脂汗を滲ませながらフレイアに場所を譲った。

無言のままドアノブに手を掛けたフレイアが、躊躇いなく扉を押し開け、室内に飛び交っている女声が大きく鮮明になる。

賓客が滞在することも多い王城の上層階ともなれば、ドアの立て付け一つ取っても素晴らしく、ドアノブが動く音も、留め金が外れる音も、蝶番が軋む音も無い。

盛り上がっている室内の者たちは、誰一人として、ドアが開いたことにも気付いていない。

室内の人口密度は予想外に多く、20人近く―――、いや、フレイアの側近とピーシーズと子供たちが揃っているのなら、20人以上の女性が集まっているのか。

フレイアとハロルドが入室すると案内してきた女中が速やかに、音も無く扉を閉めた。

「どうした、アリアナ! もう降参か!?」

「まだまだああああああっ!」

「アリアナさん、頑張って!」

「あっはっは! まだまだ鍛え方が足りないわね!」

「ほらほら、遅れてるわよ、ノイエラ!」

「1892! 1893! 1894! 1895!」

室内にいる全員の熱中した視線はベッドの陰になっている床の方向へと向いている。

そして、子供たちの声で数え上げられる数字と明るい声援に合わせて、アリアナが寝ているはずの、無人のベッドの向こうから、テレサと、ルナリアと、フィオレとノーア、ナンナの横顔が、ひょこっ、ひょこっ、ひょこっ、と、上下に出て来たり引っ込んだりしている。

声の発生源と子供たちの顔の位置から察するに、テレサとディーナ、ルナリアとアンリカ、フィオレ・ノーアとエゼリア、ナンナとアリアナ、の組み合わせか。

大体の状況を察して、ハロルドの頭痛が酷くなる。

昨日、生死の境を彷徨ったケガ人が寝ているはずの部屋で、一体、何をしているのか。

「ぐぎぎぎぎぎ・・・!」

「ノイエラさん、終了~!」

顔を真っ赤にして歯を食いしばっていたノイエラが、べしゃりと潰れ、笑顔のピーシーズが判定を下す。

「も! ムリ~~~!」

「ちょっと、ノイエラ、早くない~?」

「あはははは!」

先に、へたばっていたらしいイディアが、自分のことを棚に上げて、絨毯の上で転がっているノイエラをからかっている。

フレイアの側近たちとフィオレの側近たちが、仲良くバカ笑いを上げているのだ。

一見、傍観者にも見える全員が汗だくなのだから、傍観者に見えるだけで、そこにいる全員が先に脱落した参加者だったことは明らかだ。

この部屋が、つい昨日、生死の境を彷徨ったばかりの負傷者の、仮の病室だとは微塵も思えない。

「1896! 1897! 18―――、あっ」

腕組みで黙って見ているフレイアの視線を感じたのか、フレイアとハロルドの姿を認めたフィオレが驚いた表情で凍り付く。

凍り付いたが、凍り付いたままフィオレは変わらず、ひょこっ、ひょこっ、と、上下している。

珍妙な滑稽さに笑ってしまいそうになるのだが、ここでハロルドまで笑ってしまうと間違いなくフレイアが爆発する。

フレイアの反応を気遣って、賢明なハロルドは全身全霊をもって笑いを飲み込んだ。

「「「「「えっ? ―――、!」」」」」

フィオレの様子に気付いたフレイアの側近たちとピーシーズもまた、フィオレの視線を追って顔を振り向けた瞬間、フィオレと同じような表情で凍り付く。

テレサとルナリアも気付いて凍り付いたが、フィオレと同様に、ひょこっ、ひょこっ、と、上下し続けている。

状況の変化に気付いていないのは、背中に乗せた子供たちを上下させ続けている脳筋どもの頂点たちだけだ。