軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

古き血統 ⑫ ※アンサンブルキャスト面

敬愛する姉から向けられた目をミリアは受け止める。

心に受けた衝撃は抜けきっていないのだろうが、姉の目に前向きな光を見出してミリアは胸を撫で下ろす。

この姉ならば、そして、あの義娘ならば、受け入れて、きっと乗り越えてくれるはず。

フレイアの迷い無き声が妹の耳朶を打つ。

「ミリア。事件は、いつの話だ?」

「1年と少し前、とのことよ。避暑で王城から実家へ里帰りする道中に襲われたらしいわ」

「あの国の夏は暑いからな。王城に籠もりきりでは居られんか」

出征経験で現地の気候を知るハロルドが眉根を寄せた。

現地の住民で有ればこそ、行動の予測も出来るのだろう。

フレイアも眉間を険しくする。

「奴隷商人を始末したのが事件の4ヶ月後ぐらいだな」

「運ばれてきた距離と日数を考えれば、ズレは誤差の範囲で時期が合いそうだ」

かの国から王国南部まで、距離にして一千数百キロメテルは有る。

大河を越える必要も有れば山々を越える必要も有る。

奴隷制度を持つ国は兎も角、幾つもの国境を越え、数十もの関所を越えれば3ヶ月や4ヶ月は掛かろう。

暫し瞼を閉じたフレイアが目を開き、再びミリアを見る。

「エクラーダ王国は、どうなった?」

「王家の一族郎党、傍系に至るまで皆殺し。こちらで放っていた間諜からの報告とも一致するわ。カレリーヌ様の見解では、近く併合されて勇王国の一地方になるだろう、と」

見立てを聞いたハロルドが嫌そうな顔をする。

「傀儡の衛星国として緩衝地帯に使わないということは、西方の連中はリテルダニア王国への侵略の意志を未だ捨てていないわけだな」

フレイアは舌打ちしたくなるのを堪えた。

統治者が代わるだけなら良い。「厄介なこと」とは、これか。

「フィオレの存在が彼の地に知られれば、亡国の民が集まって来る可能性が有るな」

「国と血統は跡形も無く消え去ったが、再興の旗頭にされる恐れが有るわけか」

フレイアと視線を合わせたハロルドも頷く。

我が意を得たりとオーグストが指を立てる。

「“紅蓮”を継承させた以上、隠し通せるものでも無かろう? その上、治癒術式だ」

「カレリーヌ様は、守りたければ囲い込めと仰っていたわ」

そうだった。

治癒術式が使えることを公にしたのはテレサだけでは無かった。

オーグストとミリアの言葉にハロルドがこめかみを揉む。

「王国にとって有益で有り、テレサにとって換えの利かぬ者ゆえな」

「それで、領地と爵位か」

”王国にとっての有益”を重視するのはカレリーヌだ。

オーグストの行動にも間違いなくカレリーヌの思惑が絡んでいるはずだ。

難しい顔のフレイアが溜息混じりに首を振る。

オーグストの言い分も分からなくは無い。

フィオレの処遇はルナリアに影響し、テレサにも影響する。

亡国の民だけでなく、治癒魔法術師の計画も有って、フィオレの周囲には有象無象が増えるだろう。

フィオレとルナリアがテレサと懇意で有ることが公にされた以上、ルナリアに近付こうとする者も増える。

治癒術式で価値が上がったテレサに近付こうとする者は、もっと増える。

ルナリアの爵位が貴族家最上位で有れば、爵位を傘にルナリアを押し退けて余人がテレサとの間に割り込むことは困難になる。

フィオレにしても、上位貴族の伯爵と下位貴族の子爵では、押し退ける難易度が雲泥の差となる。

公爵令嬢だったアマリリアと子爵令嬢だったフレイアの間に割り込んで掻き回そうとした令嬢が、どれほど居たことか。

ルナリアとフィオレが一蓮托生で在り続けようとする以上、そして、テレサとルナリアの関係が強固である限り、王国とフィオレの関係も近く在り続ける。

子供たちの間に有る障壁を無くして関係を維持し続けるために、爵位は有効に働くことだろう。

それだけ王国はルナリアとフィオレを重視しているのだ。

爵位の話は、その必要性を理解した。

しかし、新領地を押し付ける理由としては今ひとつ弱い。

まだ何らかの思惑が有るはずだ。

フレイアは目元をキツくする。

「守りを深くしろと? それとも、フィオレの王国への執着を強くさせろと?」

「領地を治めるためにルナリアと離れることを、あのフィオレが受け入れるとは思えんが」

「それだがな。ピーシス家の傍系の昇爵を認めよう。委任統治させればフィオレがレティアから離れる必要は無かろう? 流れてきた民の受け入れ先も作れよう」

人の良さそうな笑みを浮かべたオーグストをフレイアが睨む。

「委任統治は良い。だが、傍系の昇爵だと? 何が目的だ」

「う、うむ。目的と言うほどのものでは無いのだがな。血族に与えられる物を持っておく必要は有ろうかと思うてなあ」

タヌキが人畜無害を装ったところで、そんなものに騙されるフレイアでは無い。

よほど、言いにくい話なのか、オーグストが目を逸らす。

ならば、話を持って帰ってきた当人に聞くまでだ。

険しくなったフレイアの目が横滑りする。

「ミリア?」

「あ~~~・・・」

視線を泳がせるミリアに向けられているフレイアの目が、苛立ちが加わって、さらにキツくなる。

「目を逸らすな」

「言う! 言います! 分かりましたから!」

これ以上は姉を本気で怒らせると観念したミリアが白旗を揚げた。

「肖像画と情報を戴くための、カレリーヌ様からの条件だったのよ」

申し訳なさそうにミリアは眉尻を下げた。

新領地を押し付けるのが、”コレ”との交換?

「条件とは?」

「ドネルク様が騎士団を退かれるでしょう?」

話の飛躍に首を傾げながらも、フレイアとハロルドが頷く。

「そうだな」

「カレリーヌ様は、エクラーダ王国が倒されるまでの経緯を重く見ておられて、神教会の橋頭堡にされるような者は王国に要らないと」

「神教会の橋頭堡? ロンドベールのことか」

フレイアの目が狩人のような光を帯びる。

先代だったか先々代だったかの奥方が西方から嫁いできたとかで、あの領地には、王国内では珍しい神教会の施設が有る。

その施設を拠点に神教会が布教活動を行っていることは周知の事実だが、古くからの精霊信仰が根強いリテルダニア王国では布教活動が 捗捗(はかばか) しくないことも王国側は掴んでいて、見逃されてきた。

エクラーダ王国が倒されたことで、カレリーヌは神教会の浸透に対する危惧を深めたようだ。

「出来ることなら潰せと」

「潰すところまでは―――」

ハロルドから向けられた視線にオーグストが頷く。

「難しいだろうな。そこまでの口実になるほどの痕跡を残すようなヘマはしておらぬだろう」

「だろうな。多少、臭うところは有ったが、そこまで明確な悪事の情報は得ていない」

目を細めて思案したフレイアの目がミリアへと戻る。

「ロンドベールを弱らせるとなると―――、 冒険者組合(ギルド) か?」

「ええ。ロンドベールの影響を排除して、ドネルク様に掌握させろと仰せよ」

「王宮が指名して押し込んでしまえば、上手く掌握するだろうよ」

フレイアのドネルクに対する評価にミリアが首を振る。

「事務方の王宮官吏を引き抜いて付けることを提案したのだけれど、それでは足りないと言われてしまったわ」

「事務方に無い能力が欲しいと?」

ハロルドが首を捻る。

「魔獣素材流通の掌握に乗り気でいらっしゃるのと、有事には騎士団からの要請で冒険者を予備戦力に組み込みたいと仰ってね」

「冒険者を予備戦力に、か。非戦闘員よりはマシだろうが、戦争では使い物にはならんぞ」

戦争を生活の糧としている傭兵と違って、狩猟や採集を含めた雑事の請負を主な仕事とする冒険者は、戦場での集団戦闘訓練を受けた経験がないのが普通なのだ。

個人の戦闘能力だけが高くとも、配属部隊との連携が取れず、作戦行動の足並みを乱す恐れが有る。

顔を顰めるハロルドに、ミリアは首を振る。