軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

古き血統 ⑧

「陛下。発言をお許し戴きたく」

「許そう」

お母様の張りのある美声が謁見室に響き、王様が応える。

「此度の件、私も些か遣り過ぎたかと。よって、特務魔法術師の任を返上いたしたく」

「そうか。特務の任を続けては、隠居にならぬしのう。相分かった」

ハロルド様のときよりも、明確に謁見室内の空気が緩んだ。

お母様の退任で恐怖の対象が居なくなることに安堵を覚える人が、これほど多いのかと驚いてしまう。

ムカッと来た。

お母様が、どんなに苦しんで憎まれ役を演じてきたか、この人たちは何も分かっていない。

アンタたち、悪いことしてるから、お母様が怖いんじゃないの!?

王様は、こんな人たちと王宮で戦っているのか。

そして、それはテレサの未来でもある。

凡庸を装って正面の敵を減らしつつ、宰相さんを隠れ蓑に、優位に戦う?

宰相さんとも、一度、会っておきたいなあ。

王様と宰相さんの二人が味方なら、自分の利益しか考えない貴族たちと渡り合っていくのが、少しは楽になるんじゃないだろうか。

要相談案件だな。

私の頭にジリジリと血が上っていく間に、一気に血を上らせた人たちが大声を上げる。

「お待ちください! 陛下!」

「ウォーレス家は南部の要! 王国の盾と剣が身を引いては、南部の守りが揺らぎます!」

「特務魔法術師は民草の支持が高く、民の反発を招く恐れがございます!」

あの人たちは”保守派”かな?

やっぱり、良識がある―――、というよりも、疚しいところが無い人たちなんだろうね。

「鎮まれ! 御前であるぞ!」

謁見室内の空気をビリビリと震わせるほどの大音声で膝を突いたままのお母様が一喝し、よほど驚いたのか、誰一人として声を発さずピタリと静かになる。

私も、びっくりして、一瞬、頭の中が真っ白になった。

その静寂を破ったのは、静かに響くハロルド様の落ち着いた声だった。

「つきましては、我らが跡を継ぐ者たちを陛下にご報告いたしたく」

「爵位を承継する、其方らの後嗣か。聞こう」

大きく頷いた王様の許しを得て、ハロルド様がルナリアと私に合図する。

横目に合図を確かめたルナリアが、少しだけ上ずった声を上げる。

「うぉ、ウォーレス侯爵ハロルドが娘、ルナリアにございます」

「・・・ピーシス子爵フレイアが娘、フィオレにございます」

間髪入れず、私も名乗りの口上を述べた。

ヨシ。スタートは問題無し。

「うむ。二人とも、顔を上げよ」

「「はっ」」

王様の許しで、ほんの少し顔を上げる。

角度にして、目安は5度ぐらい?

これ、お許しが出たからと言って、パッと顔を上げて王様の顔を見上げちゃダメなんだってさ。

「良い。もっと上げよ。其方らの顔が見えぬ」

「「はっ」」

ここまで言われて、ようやく王様の顔が見えるところまで顔を上げて構わない。

王様の目を見上げたら、鷹揚な感じで構えているけど、その目がイタズラ坊主みたいに笑ってる気がする。

確信した!

絶対に何か仕掛けてくるつもりだ!

「我が娘、テレサからも、其方らのことは聞いておるぞ。父母の不在を守り、攻め寄せたカリーク公王国軍を蹴散らして見せたとな」

「あ。は、はい!」

ザワッと、ざわめきが上がる。

名乗りも緊張でガチガチだったけど、目を細めた王様の予定に無かったお言葉で、本格的にテンパったらしいルナリアの頭が、視界の端でフラフラと揺れ始めた。

横目で盗み見ると、完全に目がぐるぐるになっていて、下手な受け答えを続けさせたら、おかしな言質を取られかねない気がしてきた。

何とかルナリアが立ち直る時間を稼ごうと、ルナリアに代わって私が口を挟みに行く。

「・・・幸運にもご滞在中だった王女殿下の、ご差配に従ったまでにございます」

「良い、良い。まだ幼きテレサでは、万全な差配でも無かったで在ろうに。それでも、敵軍を焼き払い、見事、南部国境を守り抜いて見せたと聞いておる」

「・・・勿体なきお言葉、感謝いたします」

感嘆に、ざわめきが大きくなった。

このタヌキ親父!

人の良さそうな顔で笑ってるけど、私たちの反応を見て、絶対に楽しんでるだろ!

余計な脱線をさせないように、さっさと終わる方向へ軌道修正させなきゃ!

「其方らならば、父母の跡を継ぎ、南部の守りを盤石としてくれよう」

「・・・ご期待に背かぬよう、身命を賭して務めさせて戴きます」

これでどうだ。

この流れなら、おかしくないはず。

「うむ。―――、そうだのう。戦勝の褒美と今後の期待を込めて、其方らに褒美を授けるとしよう」

「・・・有りがたき幸せにございます」

軌道修正に成功した?

ここで“銘”の話に繋げてくるのか。

「ヨシ。ウォーレス侯爵ルナリア。其方は昨日の騒ぎでも多くの不届き者を討ち果たし、見事な働きを見せたと聞く。まるで 雷(いかづち) のごとき速さで駆け抜け、民草を守り抜いたとな。よって、其方に“疾雷”の銘を与え、公爵位へ昇爵とする」

「へっ!? は、はい! ありがとうございます! これからも励んで参ります!」

一斉に、どっと響めきが上がった。

周囲の騒がしさに負けず、ちゃんとお返事できたルナリアは偉いよ。

ていうか、昇爵って何!?

そんな話、聞いてなかったよ!!

くっそぉ・・・!

ルナリアの目はぐるぐるで、ハロルド様の背中がピクリと動いたところを見ると、ハロルド様も聞いてなかったんじゃないの!?

私も一緒に驚いていたら、そのまま王様の矛先が私に向いた。

「そして、ピーシス子爵フィオレ。其方は昨日の騒ぎで不届き者どもを、母、フレイアから継ぎし“紅蓮”にて叩き伏せ、南部防衛でも敵軍をただ一人で焼き尽くして見せたと聞く。よって、其方に“蒼焔”の銘を与え、伯爵位へ昇爵とする」

こっちも昇爵!?

どうっと、謁見室に響めきが満ちた。

怒ってる!?

お母様の背中から、ぶわりと迫力のようなものが立ち上った気がする!

この王様、みんなの前でお母様を怒らせるとか、何してくれてんの!

さっさと返事して終わらせてしまえと、口を開きかけたけど、王様のお言葉は、まだ終わっていなかった。

「また、旧・コーニッツ子爵領、旧・ムーア男爵領の領地を其方に与える故、しかと治めて見せよ」

「・・・へっ!? は、はい! ありがとうございます! これからも励んで参ります!」

また、一瞬、何を言われたのか、頭の中が真っ白になったよ!

ピーシス家に自前の領地!?

しかも、コーニッツ・ムーア領って、最初に攻め落とした領地じゃん!

まさか、ウォーレス家とピーシス家の分断工作じゃないよね!?

有り得る!

この王様なら、有り得る!

王宮の謀に乗った可能性を否定できない!

どうすんの、コレ!

クソッ!

早く終わって!