作品タイトル不明
古き血統 ⑤
で、だ。
昼食を摂り終わったわけだけど、膨満感で私は身動きするのも億劫になっている。
椅子から動くのも辛いグロッキー状態だけど、だらけては居ない。
だらけては居ないけど、王宮から付けて貰っているメイドさんたちに、微笑ましそうに笑われている。
「・・・く、苦しい・・・」
「ええ~。あのぐらいで、何で?」
「・・・二人前も食べて、このルナリアの小さな体の、どこに、あれだけの食べ物が消えたの?」
腕を伸ばして両手でガッシリと両脇に指を立てたら、びくーん! と体を硬直させて飛び上がったルナリアが、身を捩る。
「きゃははははは! くすぐったいわ!」
「・・・ノーアもだ! あれだけの食べ物が、どこに消えたの!」
「にゃははははは!」
ルナリアの脇を開放して、ドレスを着せられてお人形みたいになっているノーアの脇の下をコショコショすると、ぶわっと長い尻尾の毛を膨らませて身を捩る。
確かに王宮で出される食事って、オシャレなのか何なのか、一人前の分量が少なくは有るんだけど、足りないと言って2周目を要求したルナリアに負けられないと私も挑んだ結果が、身動きするのも苦しくて辛いほどの膨満感だった。
出して貰ったお料理をお残しするなんて、私のポリシーに反するから食べきったけどね。
だって、食事量で差を付けられたら、将来のサイズに直結する可能性を考慮すれば、負けられなかったんだよ。
何のサイズか?
そんなの決まってる。おっぱいだよ!
ウォーレス領は胸の大きな女性しか目に付かないぐらいで、領主館の中は全ての女性が当たり前に、ゆっさゆっさと揺らして、周囲を威圧しながら歩いている。
私一人だけが大きく育たないなんてことは許されない空気なんだよ。
局地的成長不良は絶対に悪目立ちする。
最近、運動量が増えたせいか、ルナリアの食事量が激増していて、めっちゃ食べる。
ピーシーズも、めちゃくちゃ食べるけど、年齢差を物ともせず、ルナリアも同じだけ食べる。
さらに言えば、何気にノーアも大人と同じだけの量を食べて平気な顔をしている。
お母様も食べるし、ハロルド様も食べるし、エゼリアさんたちも、めちゃめちゃ食べる。
私だけが小食に見えるけど、私は一人前を平らげて「ちょっと足りないな」ぐらいで、しっかりと食べている。
みんな、おかしくない!?
一番、おかしいのは、ノーアだけど!
ノーアの体積と食事量の体積のバランスが、おかしいんだよ!
いや、ほんと。どこに消えてるんだろうか?
どう考えても、ノーアの胴体の大半が胃袋なんじゃないかと疑わざるを得ない。
食事量戦線において私の唯一の味方はテレサだけど、テレサは、今、ここには居ない。
もう一人、私たちサイドにレーテさんが居たはずなんだけど、あの人、王都に着いてから、姿を見ないんだよね。
テレサに聞いたら黙って微笑んだから、私もレーテさんの行方を聞くのは止めた。
あの笑みは「聞くな」という意味だったのだろう。
レーテさんのことだ。
きっと、どこかで元気に気絶しているはずだ。
「お前ら、そろそろ行くぞ」
「・・・あっ、はい」
「はーい!」
肋骨服に袖を通した私たちは、おかしいところが無いか、メイドさんたちがサッとチェックしてくれて、待っているお母様たちのところへと急ぐ。
お母様は黒っぽい肋骨服に、いつもの白いペリースで、ハロルド様は黒っぽい色の、2重になった大きな襟の内側だけが白い、膝丈コートのような上着を着ている。
何て言ったっけな。スカーフをネクタイみたいに襟元へ入れているハロルド様の、このデザインの上着も軍服だった気がする。
私たちが着ている肋骨服も軍服だからね。
日本だと、明治時代の頃の軍服が肋骨服だったはず。
みんな、お揃いで軍服だ。
テレサが言ってたけど、100年ちょっと前まで、騎士階級以上の貴族の軍服はハロルド様が着ているようなタイプが普通で、一般の兵士は立て襟の上着を着るのが普通だったみたい。
また100年前か。
文化的に革命でも有ったんだろうか?
ちぐはぐ感も有るんだけど、妙に地球の時間軸と文化的に近いものが、ちょくちょく有る気がする。
100年ちょっとの、その「ちょっと」が50年なのか20年なのかでも違うのだろうけど、肋骨服だって120年ぐらい前まではリアルタイムでも、その後は飾りの「肋骨」が無い軍服に変わっていったはず。
ん? そうすると、こっちの世界では100年ちょっとぐらいの間、文明度が停滞していることになるのか。
何だろう? この違和感。
昨日もヘイナーさんはシチューを知ってるのに、グラタンやクリームシチューは知らなかったよね。
グラタンも120年ぐらい前に広まった料理のはずじゃ無かったかな。
ホワイトソースは、グラタンどころか、もっと古いもののはずだけど、みんな知らなかった。
何だ、この、ちぐはぐ?
軍服の文化的な革命期と時期が近いってことは、もしかして、その当時の勇者が絡んでる?
その勇者の個人的知識に依存したものなら、この偏りというか、ちぐはぐ感も整合性が取れるんだろうか。
昨日、ヘイナーさんは、シチューのことを何て言ったっけ?
しち・・・、「シチウ」だっけ。
聞き流すレベルの違和感だったけど、何かレトロ感が有ると言うか、カタカナ語的な印象だよね。
時々、英語っぽい単語が使われていたり、私が話した単語が通じたり通じなかったりするのも、その勇者の影響だろうか。
現代日本の日本語って、カタカナ語や和製英語が同化して、日本語風の表現に困るときがあるからなあ。
世代格差(ジェネレーションギャップ) 的な違和感だと思えば整合性は取れるか。
先導メイドさんの先導に従って長い長い廊下を歩いて階段を降り、また長い長い廊下を歩いて階段を降りる。
私たちが食事を摂らせて貰ったお部屋は5階層だったから、テレサと一緒に歩かされたときよりも、いくらか短い距離で謁見室前のロビーに出た。
もう、どんな経路で歩かされたのか考えることを止めたから、長い廊下から与えられるプレッシャーは無かったよ。
壁のカウンター窓口はカーテンが全開にされていて、近衛騎士団の所属らしい軍服姿の騎士様に武器を預けさせられた。
ハロルド様もお母様も当たり前といった感じで剣を預けて、預かり証であろう札を受け取っていたから、そういう王宮内ルールなのだろう。
王様や各国の賓客の前で武器の携帯は拙いってことなのかな。
謁見室の中で武器の携帯を許されるのは警備を任されている近衛騎士団と、外国から来た賓客だけなんだってさ。
警備に就いている甲冑姿の騎士様たちが、数十人、立っているだけで、ロビーに貴族っぽい人たちの姿は無くて、大扉が開け放たれたままの謁見室の中から多くの人々が発するざわめきだけが聞こえてくる。
赤絨毯を踏まない位置で先導メイドさんがピタリと足を止めて、お母様たちも足を止めたから、私たちも一緒に足を止めているけど、ここが私たちの待機位置ということだろうか?
バトンタッチした別の先導メイドさんに先導されて、ノーアとピーシーズは一足先に謁見室の中へと入っていく。
大扉のアーチを潜る前にノーアが手を振ってくれたから、しっかりと手を振り返しておいた。
私たちがロビーへと入って来た廊下とは違う方向の廊下から足音が聞こえてきて、先導メイドさんに先導された数人がロビーへと入ってくる。
赤絨毯を挟んだ向こう側の、赤絨毯を踏む手前の位置で、ピタリと足を止めた。
向こうの先導メイドさんよりも頭2つ分ぐらい背が高い人は騎士団長閣下だ。
片手を挙げてハロルド様と挨拶を交わした騎士団長閣下は、見覚えのある4人のオジサンというか、白髪混じりの男の人たちを引き連れていて、全員がハロルド様とは色が違う、紺色の膝丈コートっぽい軍服を着ている。
襟の内側の色が違うのは何か意味があるんだろうか。
また、どこかから複数の足音が聞こえてくると思ったら、赤絨毯のこちら側、私たちが入って来た廊下とは違う廊下から、先導メイドさんに先導された数人がロビーへと入ってくる。
二人の男の人を引き連れたバルトロイ様だ。
バルトロイ様はお母様と同じ黒っぽい肋骨服に黒いペリースを掛けていて、お供の二人はハロルド様と同じく膝丈コートだ。
軍服の違いと襟の色の違いに法則性が有るように思うから、決まり事が有るのだろうね。
バルトロイ様たちを先導メイドさんも、赤絨毯を踏む手前でピタリと足を止めて、バルトロイ様たちも足を止める。
片手を挙げてハロルド様と挨拶を交わしたけど、バルトロイ様も言葉を発しない。
やっぱり、ここでの待機中には喋っちゃ駄目なわけだ。
いつもなら何か話し掛けてくるルナリアが静かすぎて大丈夫かな、と、隣を見たら、真面目な表情で真っ直ぐに前を見据えているから大丈夫そうに見えて、よくよく見ると目がぐるぐるになっているから、緊張して固まっているだけなんじゃないかな。
口上を噛むとか蹴っ躓いてコケるとか、失敗しそうだなあ。