軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

古き血統 ⑥

私は緊張していないのかと言われれば、緊張はしているのだろうけど、お母様たちの後に付いていって王様と簡単な受け答えをするだけだと単純に考えているから、それほど緊張している自覚は無い。

だから、取りあえず、ルナリアの脇腹へと手を伸ばす。

「ひゃん!」

指先で無防備な脇腹をブスリと突いたら、予想外に可愛い声を上げて飛び上がった。

20センチメートルぐらいは垂直に跳び上がったと思う。

足腰が強くて瞬発力があるだけに、ルナリアは垂直跳びの才能も持っているようだ。

予備動作無しで20センチメートルも跳んだということは、足首から爪先の力だけで跳んだのだろう。

待機場所に居る大人たちの視線が一斉に集まって、抗議の声を上げようとしたルナリアは注目に気付いて開きかけた口を閉じ、真っ赤になって抗議の涙目を向けてきた。

ゴメン、ゴメン。でも、緊張は解けたよね?

ルナリアで遊べるのは私の特権みたいなものだから反省はするけど後悔はしない。

「お前は何をやってるんだ」という、お母様の呆れた視線に、日本人ムーブで「サーセンw」と、ヘコヘコ頭を下げながら誤魔化し笑いで応え、垂直ジャンプで乱れたルナリアの髪を直してあげる。

むくれながらも髪を直させてくれるルナリアが可愛い。

謁見室の中から聞こえてくるざわめきが、突然、大きくなった。

また何か有ったのかな、と、不安に思った瞬間、ざわめきを掻き消して大きな拍手へと変わった。

いや、ちょっと違うか?

先導メイドさんもお母様たちも反応せず落ち着いているから、イレギュラーが起こったわけでは無さそうだと安堵の息を吐く。

事前に説明を受けた 次第(プログラム) では、王様が入室してきて、王宮官吏によって、今日、謁見が行われる事情説明が有って、戦勝報告のために方面軍ごとに呼び出される、・・・だっけ。

王様の目的は、ルナリアと私の爵位承継の承認に併せて私たちに“銘”の下賜を行うことだから、私たちの呼び出し順は、 最後(トリ) 。

呼び出しが掛かったら先導メイドさんが教えてくれるから、順番を間違えて謁見室に入ってしまう恐れは無い、とのこと。

そう安心して居たのに、謁見室から聞こえてきた拍手にバラつきが生じて音量が小さくなって、 響(どよ) めきが聞こえてきたので、違和感を覚える。

不安になってお母様の背中を見つめるけど、お母様に動じた様子は無い。

すると、謁見室の中から「わあっ」っと爆発的に湧き上がった拍手と歓声が聞こえてきた。

何だ、何だ? 何が起こった?

これは、良い方向でのイレギュラーが起こったのかな?

イレギュラーが起こる予定だとは聞いていなかったけど、あの王様なら、やり兼ねないよね。

仕込みの一つや二つ、増やすぐらいは、やりそうだ。

お母様たちも、王様から聞いているなら教えてくれれば良いのに。

拍手と歓声が収まって、再び響めきが起こった後、またしても拍手と歓声。

マイクやスピーカーなんて無いから、少し離れると中で何を言ってるのか聞こえなくなるんだね。

気になる・・・。

中で何が起こっているのか、めっちゃ気になるよ。

騎士団長閣下を先導してきたメイドさんが、スッと横へ立ち位置を移動して、「どうぞ」という身振りで赤絨毯を指す。

黙って頷いた騎士団長閣下たちが背筋を伸ばして赤絨毯の上を歩いて行く。

収まり掛けた拍手と歓声が再度湧いて、暫くするとピタリと静かになった。

これはアレだ。

王様と騎士団長閣下の遣り取りが行われているのだろう。

また、室内がワッと湧いたタイミングで、バルトロイ様たちの前に居る先導メイドさんが入室を促して、頷いて返したバルトロイ様たちが背筋を伸ばして入室していく。

そう言えば、昨日の襲撃事件でバルトロイ様が狙われた件って、何か分かったのだろうか?

アンリカさんが命を落とし掛ける、とても大きな被害を受けたウォーレス家としては、素通りできないというか、私自身の心情として、あるいは信条として、看過できない。

絶対に許せない。

私だって、一歩間違えば、数十人、数百人の被害者を生み出していた可能性が有る。

大量殺人犯になりかけたんだよ。

お母様が止めてくれなかったら、本当に危なかった。

また、あんな状況になったら、どうすれば良い?

自制心? 不動心? 平常心を養うの? それとも、慣れるの?

今の私では、大切な人たちを傷付けられて私が平気で居られるとは思えないし、到底、慣れる気がしない。

どう対策すれば良いんだろう?

「バルトロイ様が狙われた」というのも憶測でしか無いし、もしかしたら、無いとは思うけど、暗殺者が目測を誤っただけで、本当の狙いはテレサだった可能性もゼロでは無い。

だったら、もっと沢山の護衛をテレサに付ければ、と思うけど、王都騎士団では女性騎士の数が極端に低いらしいんだよ。

騎士団の訓練場へ道場破r―――、表敬訪問して、お手合わせ願った女性騎士さんたちの練度は、護衛任務を任せるのでは無く護衛してやらないといけないぐらいで、頭痛がするレベルだったと、ピーシーズのみんなが口を揃えて言っていた。

自他共に対してエゼリアさん並みに辛口評価のアリアナさんだけが言っているわけじゃないから、事実なのだろう。

剣や槍を使った近接戦闘よりも投擲や弓などの遠隔戦闘の方が得意な、わずか9歳のナンナちゃんでさえ、剣を使った模擬戦で快勝してしまうぐらい、と説明されれば、王都騎士団の女性騎士の質がどの程度のものなのかを理解せざるを得ない。

王都の騎士団の本拠地には“保守派”領地だけでなく”融和派”領地や”中立派”領地の出身者も多く混じっているのだから、平均値も当然ながら下がるのだろう。

一方で、男性騎士さんたちは、流石というか、確率論の問題というか、数万人も居れば、ピーシーズよりも強い人たちが何人も居たらしい。

レティアまでテレサに付いてきていた、仮称・王女殿下親衛隊の騎士様たちも居るものね。

あの騎士様たちって”保守派”領地出身者が殆どだったから、あれでも元から平均値は高かったんだよ。

この、女性騎士と男性騎士の格差の原因は、エゼリアさんたちに言わせれば、性差だとか待遇の差だとか、そんなものでは無く、スタート時点の覚悟からして違うせいだって。

騎士爵のような下級貴族家出身の人たちだけで無く、上級貴族家の非嫡出子が身を立てるために騎士団へ入団してくるのが多くて、半ば、玉の輿を目指して入ってくるような女性騎士が実力を付けるわけが無いと。

上級貴族家の子女なんて、家同士の契約で自由恋愛とは程遠い結婚をするのが普通らしいのに、将来有望な男性騎士に色仕掛けをしたところで正妻の座に納まれることも無いだろうし、既成事実を作ってお妾さんでも目指すのだろうか?

既成事実を狙っても、前世の母親みたいな失敗を繰り返してロクな人生を送らない気がする。

若くて綺麗でモテモテなんて時間は、そんなに長くないんじゃないかな。

あの人は、そうやって人生の坂道を全速力で転がり落ちていった人だし。

そう考えると、ウォーレス領の女性騎士は、結婚適齢に縛られない形で自分の価値を高めて良縁に繋げる戦略と言えるのだろう。

私の身の回りに居る女性騎士は、総じて評価が高い人たちばかりだよね。

多少、脳筋だろうが、私としては、こっちの方が圧倒的に好感度が高い。

それが、こっちの世界の普通なのかと言えば、そうでは無いみたいで、隣国と魔獣という二正面で戦い続けなくてはならないウォーレス領の常識は、同じ“辺境”地域の中でも王都では通用しないそうだ。

ウォーレス領から見れば「同じ辺境地域内」だけど、王宮貴族たちは「田舎」連呼でルナリアをプンスコと怒らせたのだから、感覚の違いは歴然だろう。