軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

古き血統 ④

王城の1階層の奥、中央に聳える監視塔の足元に円形の広間がある。

王城の大手門である東出入口を入って真っ直ぐに伸びた広い廊下を突き当たりまで進むと、映画館のロビーのような空間が有り、このロビーには王城の東西南北すべての出入口から出られるようになっているらしい。

ロビーの壁には、2カ所、カーテンが閉められたカウンター窓口のようなものが有るから、チケット販売窓口か何かかと思ったら、あのカウンターの内側は棚が並んだ小部屋になっていて、剣をはじめとした武器の持ち込みを許さないための預かり所になっているらしい。

王城の上層階へ向かう階段ホールで武器を預けさせられるのと同じだね。

王宮内の警備は近衛騎士団の管轄だから、あの小部屋の管理者も近衛騎士団なんだってさ。

このロビーからのみ入れる大きな広間の正面入口は、東出入口から直進してきた突き当たりの大扉となる。

今、私たちが正面に見ている、この大扉が広間の正面出入口だ。

観音開きで上部がアーチ状になった大扉の高さは5メートルも有って、城門のミニチュア版のような扉を開放すると幅3メートルのアーチを潜るような形になる。

他国から訪れた賓客も、全てが、この扉を潜ることになるそうだ。

今日は、1日延期されていた戦勝報告の式典ということで、東出入口からロビーに入った位置から大扉へと、幅3メートルの赤絨毯が敷かれていて、この赤絨毯は入口のアーチを通り抜けて広間の中へと続いている。

赤絨毯の終点は、5段ある階段を上がった壇上に据えられた、王様専用の椅子―――、玉座となる。

ここが、式典に参列する予定の広間―――、謁見室だ。

玉座の後方右奥には王族と側近のみが出入りする出入口があるらしいのだけど、王様たち以外の者は、東側の正面出入口からの入室しか許されていない。

正面出入口から階段までの距離は、50メートル以上は有るかな。

柱の1本も立っていない室内の広さは、ちょっとした草野球場のグラウンドぐらい有ると思う。

奥の階段の手前、赤絨毯から1メートル下がったところからは、式典参加者の立ち位置を示すように床の石材の色が違っていて、式典が始まった後は、埃ひとつ落ちていない赤絨毯が敷かれた中央部と同じ色の床は、許可された者しか立ち入ってはいけないものなのだそうだ。

赤絨毯の立ち入り禁止区域を除いた両側のスペースを合計すれば、一千人やそこいらは参列できそうだよね。

「ほえ~」

「・・・はー」

並んでポケーと口を開けて上を見ているルナリアと私の様子を、お母様とハロルド様が苦笑しながら後ろから見ている。

人っ子一人いなくてガランとした広間には、今、私たち4人以外の人影は無い。

そんな場所で私たちが何をしているかと言えば、王宮の許可を貰っての、午後からの式典に備えた会場の下見である。

私たち二人の年齢を考慮して、という名目で特別に許可されたらしい。

一緒に付いてきたノーアやピーシーズはロビーで待機している。

「天井が高いわ」

「・・・横にも広いねぇ」

恐らく、この広間の天井の高さは20メートルは有る。

どうやって掃除するのか、採掘場のキャットウォークと同じぐらいの高さがある天井からは、馬鹿デッカいシャンデリアが幾つもぶら下がっていて、両脇の壁の高い位置にも点々と照明器具が生えている。

電気も通っていないのに、スイッチひとつで照明が点るわけが無く、あんなに高い位置の照明器具に、どうやって明かりを灯すのかと不思議になったけど、よくよく考えたら、多少の訓練を行えば、たかが20メートルの距離で魔法を発動するぐらい、どうってこと無かったね。

あの照明器具、どういったものかと気になっていたら、ハロルド様に思考を読まれてしまったようだ。

「あの照明器具は魔法道具でな。統一国家時代に西方から運ばれてきた“遺物”なのだ」

「・・・”遺物”ってことは、エルフ族!」

「そうだ。この王城の築城にはエルフ族やドワーフ族の力も借りたそうだからな」

「「ふあ~」」

そう言えば、この謁見室って、王城の中心にビョーンと聳え立っている監視塔の真下にあるんだよね。

王城の本体だけでも地上30メートルの背丈が有って、監視塔の高さは王城の5倍以上は軽くある。

石材を積み上げた塔で地上150メートルの高さって、・・・保つの?

いや、実際、500年間も保ってるんだから、保つんだろうけど、地上150メートルって、単純計算で40階建てのタワーマンションと同じぐらいの背丈だよ?

そこそこの太さがある円柱形の塔だけど、建材の強度や構造がどうなっているのかと不安になるんだよ。

しかも、塔の根っこに有るのは、大きな空洞の謁見室。

あの塔が上空の強風に煽られたりでバランスを崩して倒れてきたら、真下にいる私たちは・・・。

考えちゃダメだ考えちゃダメだ考えちゃダメだ!

きっとエルフ族とドワーフ族のファンタジー種族パワーで倒れることは無いんだ!

ぺっちゃんこになる恐ろしい想像を、頭を振って脳ミソの中から振り落とす。

「・・・あ、あの魔法道具って、明かりが点るだけ?」

私の行動に小さく首を傾げながらも、ハロルド様とお母様は疑問に答えてくれる。

「“ 光(ルーメン) ”の術式以外の効果が有るとは聞いたことが無いな」

「一度、“光”の術式を発動すれば、数時間は術式が維持されると聞いたな」

“時間に作用する”光魔法の性質を思えば、“持続”、というか、あの魔法道具は“光”の魔法に特化して“効果時間を引き伸ばす”のかな?

魔法道具の効果と、対応する魔法の性質が近ければ、作りやすい気がする。

もっとも、光魔法が”時間に作用する”というのも仮説の域を出ていないから、全ては想像に過ぎないんだけどね。

「はえ~」

「・・・はー」

口を開けて天井を見上げたままのルナリアと私にハロルド様が苦笑する。

お母様は、両手でパンと一つ手を打った。

「さてと。お前たち、教えた作法は覚えているか?」

現実に戻ってシュバッと手を挙げたのはルナリア。

はっ、そうだった。

呆けていて出遅れた私はルナリアに先を譲る。

「キョロキョロせずに、お父様たちに付いていって、階段の手前、5メテルまで歩いて、跪くのよね!」

「・・・名乗って、陛下からお声が掛かったら、少しだけ頭を上げて、顔は上げない」

「それだけだったか?」

じっと聞いていたお母様が、片眉を上げる。

「上体の角度は45度で、背中を丸めたり、ふらついたりしないこと!」

「・・・“銘”を賜ったら、口上を述べる」

「口上を言って見ろ」

「「有り難き幸せ! “銘”に恥じぬよう励みます!」」

実のところ、まだまだ子供で初めて公式の場へ出る私たちに、王宮から厳格な作法は求められていない。

ただ、ちゃんと出来ていないと笑いものになると言うだけだ。

良くも悪くも目立って注目されるウォーレス家と、良くも悪くも目立って注目されるお母様たちの顔に泥を塗らないように、私たちが、したいだけなのだ。

私たちは、名乗って、お礼を言う。

この2点だけを、こなせば良い。

”銘”を昨日のうちに教えてくれていたのも、初めての公の場で私たちが上がってしまうことも織り込み済みだったのだろうね。

王様の方も分かってくれていて、私たちが発言すべきタイミングで話を振ってくれることになっている。

「ふむ?」

「大丈夫じゃないか?」

「そうだな」

お母様がハロルド様の顔を見て、穏やかに笑っているハロルド様が頷いた。

「ヨシ。少し早いが、メシを食いに行くぞ。メシを食ったら身支度だ」

「「はーい!」」

隣り合って歩きはじめたハロルド様とお母様を挟んで、ルナリアと私も歩く。

何だか普通の親子っぽい初めての感覚に、くすぐったい想いがして、私の顔は緩みっ放しだった。