作品タイトル不明
蒼焔 ㉟
作業台の上に並べられた食材の検討作業に入る。
「・・・む。これ、ほうれん草っぽい?」
「それは、ホリンですね」
ホリン・・・。ホリン草?
ホーリン草かな。
葉っぱの端を千切って口に入れてみる。
葉の形から見ても西洋種に近いか。
ちょっと灰汁が強いから、湯通しして灰汁抜きしないと駄目そう。
「・・・ははぁ。こっちは?」
「カンラです」
これ、よくソテーに入ってる野菜だと思う。
生の葉を見たのは初めてだけど、ケールっぽい?
仄かに苦味がある野菜なんだけど、分かった。
「カンラ」って「 甘藍(カンラン) 」が訛ってるんじゃないかな。
アブラナ科っぽい葉だしね。
もしかすると、生食が可能な品種が存在するかも。
私の見立てが合っていれば、同じ原種の野草から品種改良されたキャベツやカリフラワーやブロッコリーが、どこかで手に入る可能性が有る。
野菜の名称にも地球の西洋名っぽい共通性が有ったり和名と共通していたりと、中途半端さが増したように感じるなあ。
西方や南方の国々へ行くハンスさんなら、どんな野菜が有るか知ってるかも。
あの人は商人だから流通している野菜の知識も幅広いだろうからね。
セリーナ様への相談案件に追加しておこう。
取りあえず、調理しても苦味が残るってことは灰汁が強いのだろうし、今回はパス。
「・・・ふむ。こっちは?」
「シーヴァです」
どう見てもタマネギだよね。
葉は長ネギっぽいけど、 鱗茎(りんけい) が小さめだから原産種に近いのかも。
原産種ってことは品種改良されていない野生種ってことで、野生種は灰汁が強い可能性が有る。
でも、水に晒すか湯通しして灰汁抜きすれば使えそう。
「・・・シーヴァ、ね。これは?」
「カロタです」
こっちは、どう見ても人参。
やっぱり根は小さめ、というか、こっちも西洋種に近いのかな。
残念なのは保存して時間が経っているのか、葉が枯れてしまっていることだ。
人参は葉も美味しいのだから、枯らしてしまうぐらいなら葉を先に消費してしまえば良いのに。
「・・・これは?」
成長不良な大根に見えるけど。こっちも根が小さいね。青首大根と蕪の中間ぐらい?
「ラデスです」
「・・・ラデス・・・、ラディッシュ?」
やっぱり大根か。
ラディッシュって蕪の小さい奴だから、大根の一種で合ってたよね?
こっちも葉が枯れてしまっている。
大根の葉も美味しいのに、勿体ないな。
「こっちは?」
「ボーボラです」
転生初日に見た、荷馬車が運んでいた真っ赤なカボチャは、ボーボラという名前だったらしい。
コンコンとノックしてみると、いかにも固そうな音がする。
茹でるのか煮るのか摺り下ろして使うのか、調理に時間が掛かりそうだから、今回はパスしよう。
「・・・うーん。こっちは?」
「シビィです」
私の頭2つ分は有ろうかという、細長い球状の野菜? 果実?
「・・・瓜? トウガン? これって甘いの?」
「甘くは有りませんね。ほんの少し青臭さが有りますが、あまり味は有りません」
だったらトウガンかな。
秋に収穫しても冬まで保つから「 冬瓜(とうがん) 」って和名なんだっけ?
探せばマクワウリやスイカやメロンみたいな甘みが強い品種が見つかるかも。
「・・・これは?」
「パパですね」
例の皮が黒いジャガイモモドキは、パパというのか・・・。
ツッコまない! 絶対にツッコまないぞ!
つい、ハロルド様の方へ目線が吸い寄せられそうになるけど、鋼の精神でジャガイモから目を離さない。
に、煮崩れしにくい品種っぽいから、ジャガイモで言うならメークインに近いと思う。
特にクセも無くて美味しいんだけどね。
ふう・・・。耐えきった。
こうして見ると、レティアで手に入る野菜って王都よりも少ないのかな。
王都の市場を覘いてみたいなあ。
国の中心だから各地の色々なものが集まるのかも。
野菜の種子を取り扱っている商店があるなら寄ってみたいけど、栽培のコツや問題点は生産者から聞き取らないと、ウォーレス領での普及は無理かな?
生産農家とも話す機会が欲しい。
この辺も相談案件だなあ。
「・・・うーん」
たかだか4人前だし、グラタンの具材で使うのに量は要らないんだよね。
マカロニの代わりに短く切ったうどんを使うつもりだから、嵩増しされるし野菜と肉はそんなに要らない。
それに、冷蔵庫とか食料保管技術が発達していない世界だと、半端に食材を使い残すと駄目になる可能性が高いから食材は使い切りたい。
「・・・ホリンとシーヴァとカロタを使わせて貰おうかな。1本ずつで良いよ」
ほうれん草と玉葱と人参ね。
無難なところを攻めた方が、当然ながらリスクは低い。
「承知いたしました」
「・・・ところで、このお肉は何のお肉?」
使用する野菜を指定すると共に、野菜と一緒に並べられている何かのお肉を指す。
解かれた包みの上にちょこんと鎮座している肉塊は、骨格からして鳥類だろう。
ブロイラーに較べると赤っぽい色のお肉に鳥皮らしき皮が付いていて、鳥肉で間違いないとは思うけど、念のために確認する。
「ピピオです」
さすが、異世界。知らない名前の鳥だな。
「・・・それって、どんな鳥?」
「このぐらいの小型の鳥で、塔の上で飼うんです」
メイドさんは両手のひらで20センチメートルちょっとの隙間を作る。
それは、頭から尾羽根までの体長だろうか?
羽根を毟られた丸裸での体長が15センチメートルも無いから、尾が短い鳥ってことは分かった。
首と尾羽根を足しても鳩ぐらいの大きさだよね。
飼育方法からして、たぶん、鳩っぽい?
日本では保護鳥だし、滅多に食べる人は居ないけど、世界的に見れば鳩は一般的な食材だったはず。
どうするかな。
脂を避けたいからモモ肉かササミだけで良かったんだけど、日本みたいに「鳥肉=ブロイラー」なんて国の方が少ないことを忘れてたよ。
それに、グラタンから骨付き肉が出て来られたら食べにくいよね。
「・・・うーん・・・」
「どうかされましたか?」
私の様子を見かねてか、メイドさんが助け船を出してくれた。
仕方ない。正直に相談するか。
「・・・王妃様に食べていただくのに、脂は消化が悪いから避けたかったんだよね」
「脂が少ない部位でしたら、モモ肉でしょうか」
メイドさんがピピオの両の手羽先を摘まんでバンザイさせる。
一応、それ、死体なんだから、お人形遊びみたいに動かして遊ぶの止めようよ。
地上を歩くことで脚が発達したニワトリに較べると、鳩はモモ肉も小さいね。
両脚分を足しても大人の握り拳ひとつ分も無いよ。
さらに骨を外せば半分ぐらいに量が減りそう。
蒸し鶏みたいにお肉の繊維を解して使うつもりだったけど、量が少なめなら細切れにした方が良いかな?
「・・・そうなんだけど、中途半端に使い残すと迷惑だよね?」
「何を仰いますか。必要な部位だけお使いいただいて結構です」
「・・・良いの?」
やりっ放しは気が引けるんだけど、メイドさんたちは首を振る。
「野菜もですが、残った部位は、お屋敷内で消費いたしますから、お気遣い無く」
「・・・分かった。ありがと」
ここはピピオのメイドさんの申し出を受け取っておこう。
一通りの食材チェックが終わったタイミングで、寸胴鍋さんからお声が掛かった。