軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ㉞

「見せて見ろ」

「・・・はい。どうぞ」

「ふむ・・・」

私から棒を受け取ったお母様は、棒の表面をじっと観察している。

これは、切断面を見てるのかな?

お母様は森で敵兵を斬ったときにも切断面を観察してたよね。

「ほれ」

一つ頷いたお母様が棒を返してくれた。

「・・・どうだった?」

「切断の精度が上がったようだな。以前よりも斬り口が綺麗になっている」

「・・・精度?」

「斬る」という単純作業に、そこまで精度が関係するんだろうか。

しかも、魔法で?

「同じ剣で斬っても、腕が未熟だと刃がブレて斬り口が汚くなるんだ」

「それは有るな。熟達すると斬り口は綺麗になるものだ」

「斬り口が汚いということは、余計な負荷が掛かっているということで、小さな負荷でも積み重なると疲労に繋がる」

お母様が何を気にしていたかをハロルド様が補足してくれる。

「うむ。疲労が溜まると戦い続けられなくなって、生存率の低下に繋がる」

「・・・そっか。理には適ってるね」

今、お母様は戦場に立つ前提の、魔法の熟練度を見極めようとしていたのか。

金属疲労みたいなものだ。

小さな負荷が蓄積して耐久性を削る。

戦場での疲労の蓄積は命を削っているのと同じになると。

技術を磨くのは疲労を抑えるという意味も有るのか。

継戦能力が高いということは、私自身の生死に直結するんだね。

疲労の蓄積という観点から魔法の在り方を考えたことは無かった気がする。

一発で敵を吹き飛ばすことばかり考えて、その後のことを考えてなかったかな。

魔石の魔力を使えるお陰で体内魔力の負担は少なく抑えられているけど、最初はそうじゃ無かった。

消費量が少ないとは言え、魔石の魔力を使っても体内魔力は消費する。

お母様たちが教えてくれていることは、もの凄く大事なことだ。

TPOに合わせた魔法の選択だけじゃなく、熟練度も必要だよね。

熟練度を引き上げるには・・・、練習を重ねるしか無いか。

「重ねた努力は自分を裏切らない」って、前にも教えて貰ったよね。

練習を重ねれば、心にも余裕を持てるようになるだろうか?

同じような失敗を繰り返す無様は避けたいしなあ。

「フィオレ様。湯が沸いてきております」

「・・・あっ、いけない」

寸胴鍋さんの声に思考の淵から引き戻される。

「行ってこい」

「・・・うんっ」

お母様に送り出されて作業台の前へと戻る。

「再開しますか?」

「・・・ちょっと急ぐけど、見ててね」

打ち粉をしたまな板の上で丸っこい塊の生地にも、延ばし棒に引っ付かないように、たっぷりと打ち粉を振るい掛ける。

真上から打ち粉塗れの生地を、ギュッギュッと横向き寝かせた棒で押さえる。

位置を変えながら押し潰していくと、生地は背丈を低くして長く延びる。

生地の向きを90度変えて、また延ばす。

四角くなった生地の上で水平にした棒を転がして、一定の厚さになるようにグイグイと延ばす。

生地の向きを変えて、またグイグイと延ばす。

生地が棒にひっつくと形が崩れる原因になるから、たまに打ち粉を振りつつ延ばす。

目指す生地の厚みは3ミリメートル。

くるくると生地を棒に巻き付けて、さらに伸ばす。

大事なのは一定の厚さを維持することで、グイグイしていれば、その内、厚みは薄くなる。

まな板に生地を広げて、手のひらで表面を撫でてみる。

微妙に凸凹が残っている感触が有るけど、大きな厚みの差は無さそう。

動画投稿サイトの手打ちうどん動画で学んで、自家製に何度か挑んだ経験が有るだけの素人仕事にしては、上出来じゃない?

これでも今まで作った中での最高傑作だ。

延ばし終わった生地の出来に満足する。

「触ってみても?」

「・・・どうぞ」

延ばした生地の表面をヘイナーさんが撫でる。

「薄いですね」

「・・・一定の厚みに延ばすことに注意して。目標は、厚み3ミリメテルだよ」

「そんなに薄く?」

目を丸くするヘイナーさんに頷く。

「・・・この後、茹でるんだけど、分厚いと火の通りが悪いし、食感が固くなるから」

「そういうものですか」

自分の分の生地は打ち粉を振りつつ、つづら折りに折り畳んで、延ばし棒をヘイナーさんに手渡す。

「・・・やってみて。私は隣で切ってるから」

「承知しました」

延ばした生地を放っておくと乾燥して切るときに割れやすくなるから、さっさと切ってしまう。

切る幅も厚みと同じ3ミリメートル。

包丁の刃が斜めにならないように、垂直に生地を切ることに集中する。

しっかりと研がれて手入れされているプロの道具は、家庭用の三徳包丁よりも切れ味が良くて、刃を引かなくても圧力だけで押し切れる。

この包丁、本当にメッチャ切れるよ。

身体強化魔法を使わなくても楽に切れる。

私が生地を切り終わった頃には、ヘイナーさんも延ばし作業を終えていた。

「どうでしょうか?」

「・・・良いんじゃないかな」

手を伸ばしてヘイナーさんの生地をサラッと撫でてみたら、私が延ばした生地よりも凹凸が少なくて滑らかなぐらい。

「・・・じゃあ、幅も3ミリメテルで切ってみて」

「やってみます」

つづら折りに折り畳んだ生地をヘイナーさんはトントンと、軽快に淀みなく切っていく。

何てこった。

私よりも幅が均一で綺麗に切ってるよ。

「・・・うーん。基礎技術で負けてるっぽい?」

初めての作業でも、私よりも上手く仕上げられるってことは、そういうことなんだろう。

私の呟きにヘイナーさんは表情を緩めただけで、笑わずに流してしまった。

これが大人の対応ってやつか。

「切り終わりました」

「・・・次が最後の手順。茹でるよ」

ヘイナーさんが木箱を移設してくれて、お湯を沸かしてくれている大きな寸胴鍋を覗き込むと、大量の熱湯がぐらぐらと沸いている。

四人前には多い気がするけど構わない。

お湯が少ないとうどんの投入で温度が下がって、茹で期間が延びるだけじゃなく、ベチャついてしまうからね。

ヘイナーさんと私が作った手打ちうどんを全部お湯へと投入する。

「どのぐらい茹でれば、よろしいのですか?」

「・・・10分間ぐらい茹でて、少し透明感が出て芯が無くなれば茹で上がり」

10分間というのは、あくまでも目安だ。

小麦粉の種類によるものか生地が固めに思うから、もしかすると、茹で時間も長めになるかも。

「私が見ておきます」

「・・・ありがとう。お願い」

監視対象が寸胴鍋だけに、寸胴鍋さんにお任せするのがベターだろう。

「次は、いかがいたしますか」

「・・・何か具材は有るかな?」

別のメイドさんの問いに答えると、私の言い方が抽象的すぎたのか、首を傾げる。

「どういったものを?」

「・・・鳥肉が有れば鳥肉を。無ければ脂が少ない肉を。それと、野菜は何が有るかな?」

具体的に言い直すと、メイドさんは記憶を探りながら指を折り始めた。

「今の在庫は、ホリン、パパ、シーヴァ、カロタ、ラデス、ボーボラ、シビィ、カンラですね」

「・・・ううう・・・。み、見せて貰って良い?」

「お持ちします」

初めて聞く名前ばかりで、一気に羅列されても覚えきれないよ。

うどんを茹でている以外のメイドさん2人が奥の扉の向こうから、両手いっぱいに食材を抱えて持ってきてくれた。