軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ㉜

直ぐに調理は終わるだろうけど、待ってる時間が勿体ないな。

次の段取りでも考えておこう。

時短できれば良いけど、最悪、一からスープを作る必要があるかも知れない。

「・・・何か、スープベースのストックって有る?」

「お待ちください。誰か居ますか?」

すでにバターを溶かし始めているヘイナーさんが手鍋に目を落としたまま声を上げると、数秒ほどで厨房の扉がノックされた。

扉が開いて入って来たのは、おそらくは、先ほどのメイドさんたち3人、かな?

目が合った人ぐらいは何となく覚えてるけど、メイドさんたちは俯いていたし全員の顔までは覚えていない。

1人が扉を開けて入室し、寸胴鍋を抱えた1人が入室し、最後の1人が扉を閉める。

なんで、秒単位でお鍋まで用意できてるんだろう?

マヨネーズメーカーのテレビ番組を思い出した。

「出来上がったものが、こちらです」みたいな感じで。

寸胴鍋メイドさんが澄まし顔で私の傍までやって来て、お鍋の蓋を取った。

あ。この人、さっき目が合った人だ。

「こちらをお使いください」

「・・・ブイヨン系のスープかな」

作り置きか何かなのか、上澄みに浮いた脂が凝固しているところを見ると冷めてるみたいだけど、ジャガイモっぽいアレ以外にも、一口サイズにカットされた具材がゴロゴロと入っていて、普通に美味しそう。

スープが透き通っていて、手間を掛けて丁寧に灰汁取りしてあることを伺わせる。

お肉は何かの鳥の肉みたいだし、繊維が固い根菜も入って居ないみたいだし、消化に良さそうな具材ばかりに見える。

何より、調理時間を短縮できるのが助かる。

「・・・じゃあ、使わせて貰おうかな」

「どうぞどうぞ」

分量は私たち4人とヘイナーさんの5人分だよね。

もうちょっと大きな手鍋を借りた方が良いかな?

などと考えながら調理器具が掛かっている石壁の方に行こうとしたら、メイドさんたちがニコニコと笑っている。

オーケイ分かった。8人分だね。

追加で作らないとホワイトソースが足りないな。

グラタンのホワイトソースも残したいから、結構な量になるぞ。

もう一つ、竈に火を入れた方が良いかと考えたときには、先回りするように別のメイドさんが残り四つの竈の全部に薪を放り込んでいた。

なんで全部?

「・・・まあ、良いか」

思考を読まれてるようで怖いけど、時短だ。時短。

ストレスフリーで次の作業に取り掛かれるのは良いことだと自分を納得させる。

寸胴鍋よりは背丈が低い大きな鍋にスープを取り分けて、竈の一つで火に掛ける。

ベースになるスープの量は、ホワイトソースとミルクで倍量ぐらいにかさ増しするから4人分ほどだ。

直ぐに温まると思うけど、スープを温めている間に、ホワイトソースを追加しないと。

トータル16人前の分量から、私とヘイナーさんが二人前ずつ作ったホワイトソースを差し引いて、足らずは12人前か。

6倍量の分量で作れば良いんだな。

急がないと、と気合いを入れようとしたら、メイドさんたち全員がホワイトソースを作ってみるつもりらしい。

私の担当は?

ああ、そう。スープのお鍋ね。

じゃあ、メイドさんたちは4人前ずつだから2倍量だ。

「・・・12人分のソースを追加したいから、みなさんは4人分ずつ作って貰えますか。材料の分量は―――」

「2倍量で、よろしいのですね? 先ほどの手順と分量は把握いたしておりますので、フィオレ様は調理を進めていただければ」

「・・・えっ? アッ、ハイ」

厨房にも居なかったのに、なぜ把握しているのかは聞いてはいけない気がするから聞きたくない。

だって、常に監視されているとか、怖くて王都邸に泊まれなくなりそうじゃん。

火に掛けたばかりのお鍋は、まだ暖まるまで時間があるから、作業台へと移動する。

ホワイトソースなんて10分間も掛からずに出来ちゃうからね。

スープが煮立たない内に、先にチーズを確認しておく。

金属容器の蓋を開けてみると、水に浸かったボール状の白い塊が幾つも入っている。

「・・・モッツァレラっぽい?」

モッツァレラチーズって言うのは、フレッシュチーズとか生チーズとか呼ばれる熟成させていないチーズのことだ。

チーズのクセが分からないので、包丁を借りて、ひと摘まみほど切り取って食べてみる。

臭いは強くないな。

ちょっと酸味が有って、弾力があって、モッツァレラっぽいね。

問題は“何の乳か”が分からないことだけど、貴族家の厨房で使っている食材なのだから、おかしなものでは無いだろう。

ついでに濡れ布巾を捲って、生地の様子を見るのに指先でグッと押してみる。

弾力が出ていて押し込んだ指の跡が押し戻されている。

そろそろ良さそうだけど、先にシチューを完成させておくか。

竈へと戻るとお鍋から湯気が上がり始めている。

「・・・白ワインって有るかな?」

「どうぞ。こちらに」

「・・・あ、ありがとう」

なんで、もうボトルの栓が開いてるんだろう?

まあ、良い。考えるな。

きっと、仕事が早いだけだ。

栓を抜いたばかりにしては少し量が減っている気がするけど、たぶん、空気が乾燥していて蒸発したんだろう。

気にしちゃダメだ。

ヘイナーさんもメイドさんたちもホワイトソースの調理は終わったみたいで、私の手元に注目が集まっている。

「・・・じゃあ、スープにホワイトソースを8人分、入れるね」

メイドさん2人が作った分の8人前をスープへ投入して、ホワイトソースと同量ぐらいのミルクを目分量で投入する。

メイドさんが期待するような目で要求してくるから、白ワインはボトルの半分弱ぐらいを投入しておいた。

カップで言えば3カップぐらいだろうか。

加熱すればアルコール成分は飛ぶだろうけど、ルナリアと私はまだ子供だからね?

ソフトボール大のチーズの玉と包丁を持ってきて、溶けやすいように薄く小さく削ぎ切りでお鍋の中へと落として行く。

半玉分ぐらい投入すれば十分だろう。

コトコトと煮込みたいから、竈の鉄扉を開けて赤々と燃えている薪を1本に減らして―――、あ。ちょっと待てよ?

この薪、火を消すのは勿体ないな。

「・・・ヨシ。成功」

「ふぃ、フィオレ様!?」

落っことさないように気を付けつつオーブンの下段の鉄扉に手を掛けようとして、メイドさんが焦った声を上げたので顔を振り向ける。

「・・・うん?」

「それ、何してるんですか!?」

「・・・何って、薪をオーブンへ移そうかと?」

目を剥いたメイドさんが指しているのは、宙に浮いた薪。

パチパチと炎と一緒に火の粉が舞い上がるけど、厨房内へ飛び散ることは無く、閉じ込められた空間内で滞留している。

”恒星”―――、”蒼焔”の「核」の超重量を支えられるなら、他のものを支えられないはずは無いんじゃないかと思ったんだよね。

いつも最後に「ポロリ」してるのが気になってたし。

混じった毒だって「概念で掴める」んだから、概念として「飛び散らない」と定義してしまえば、私の魔力が及ぶ範囲内でなら物理法則には囚われないんじゃないかな。

確実に「私の魔力が及ぶ範囲内」にある空間は、「魔力の手の中」に決まってる。

思い付きなんてものは、ただの「閃き」だから、思い付いたときに試してみないと忘れちゃうしね。

他のメイドさんとヘイナーさんも、あんぐりと口を開けているね。

一応、反対側を振り返ってみるけど、お母様はルナリアとハロルド様と雑談中で、メイドさんの声で三人ともチラリとこっちを見たけど雑談に戻り、驚いているのは王都邸の面々だけだ。

今は驚いていても、ハロルド様だって私の思い付きに慣れたみたいだし、「なあに、却って耐性が付く」ってやつじゃない? 知らんけど。

「そ、そうじゃなく、どうして薪が浮いているんですか!?」

「・・・ああ、これ? “魔力の手”だよ」

「手? この手ですか?」

メイドさんが手のひらを見せて自分で指すから頷いて返す。

魔力の手は見えないからね。

宙に浮いていることに驚いたみたいだけど、残念ながら超魔術のハンドパワーとかじゃ無いんだよ。

「・・・そうそう。その手」

「そ、そうですか」

オーブンの下段の鉄扉を開いて覗き込むと、炎の上昇気流による吸引効果で窯内の炎が奥へと吸い込まれて行っている。

良い感じだね。

これなら、上段の窯も温度は十分に上がっているんじゃないかな。

最初にくべられた薪が燃え尽き掛けている下段の真ん中へ、燃え続けている薪を放り込んで鉄扉を閉める。

さっき驚かされた分のリベンジも完了。ヨシヨシ。

「・・・そろそろ、良いかな」

竈に戻ってぷくぷくと煮立っている手鍋を木勺で軽く掻き混ぜてみると、とろみが良い感じに出ている。

木勺に絡んだシチューの滴をポトリと手のひらに落として味見する。

うん。普通にクリームシチューだね。

元のスープが美味しく味付けされていたのだろうし、特に味の調整も必要ない。

問題なしと判断して手鍋を火から下ろす。

「完成ですか?」

「・・・うん。クリームシチューだよ」

期待した様子のメイドさんに頷いて返す。

「出来たの!?」

「ヨシ。味見だ、味見」

「良い匂いだな」

ルナリアとお母様は、待ってましたとばかりにテンションを上げ、ハロルド様も表情を緩めて匂いを確かめている。

クリームシチューって、匂いから美味しそうだからね。

じりじりとした感じで待たされていた腹ペコさんたちが元気を取り戻す。

「・・・出してあげて欲しいんだけど、お願いして良い?」

「はいっ」

メイドさんたちが食器棚に取り付いて、パタパタとシチューを提供する準備を始めるけど、相変わらず、みんな足音がしない。

でも、気が抜けているのか衣ずれの音は抑えられていないし、空気の動きというか、ちゃんと人が動く気配も察せられる。

やっぱり、あの気配の無さは、歩法や体捌きの、磨き上げられた技術なんだろうね。

そういう技術を磨き上げなきゃいけない職務というと・・・、そういうことなんだろう。