軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ㉛

1時間も有るのだから、待ち時間の間に次の仕事を進めよう。

「・・・ううん。待ってる間に別の物を作るつもり。ホワイトソースって知ってる?」

「ほわいと? どう言ったものでしょう?」

おや? 「ホワイト」が分からない?

日本以外からの拉致被害者は居るって聞いたけど、英語は知られていないんだ?

何だろう、この中途半端感。

「・・・ソースだから、それそのものだけを食べる料理では無いんだけど。白いやつ」

「どう使うのですか?」

「・・・グラタンとか、シチューとか、だね」

「ソース」は分かってそうなのに、ヘイナーさんの瞬きの回数が増えた。

これは分かって居なさそうだな。

小首を傾げていたヘイナーさんがポンと手を打った。

「しちゅー? ああ、シチウですか。シチウは分かります。煮込み料理ですね」

「・・・ふむ? シチューは分かるんだ。ん? シチウ? ま、いっか」

今はツッコんでいる場合じゃ無い。

初めて王都に来たルナリアと面識が有ったのだから、ヘイナーさんがレティアへ帰って来る機会も有るのだろう。

気になることは、時間に余裕が有るときに聞き出せば良いや。

「その、“ぐらたん”とは、どう言った料理でしょうか」

「・・・チーズを載せてオーブンで焼くんだよ」

正確には「お焦げ」って意味の料理だから、チーズが載っていなくてもグラタンって呼ぶんだっけ?

ヘイナーさんが首を捻る。

「恐らく、存じ上げない料理ですね」

チーズを載せて焼く料理が無い?

いやいや。ローストビーフ的な料理がレティアで出て来たことは何度も有るし、オーブンが有るのだから無いってことはないはずだ。

呼び名が違う可能性が高いか?

完成品を見れば、「ああ、コレ!」って言い出すかも知れないし、ここは流しておこう。

「・・・そう。じゃ、作ろう」

「ソースの材料は何を使いますか?」

「・・・小麦粉と、バターと、ミルク。チーズは、もう少し後で良いよ」

「小麦粉とバターとミルクとチーズですね」

「・・・火を熾すよ。薪を使うね」

「はい。どうぞ」

鉄蓋を開けた竈の一つに薪を3本放り込んで、「米」の字みたいに薪をクロスさせる。

ここで一つ、実験。

魔力の手の中に薪を包み込んで、アンリカさんの治療で試したように、今度は自分の「魔力の中」で薪が燃えているイメージをして、「火」の魔法を使ってみる。

あのときの効果上昇が気になってたんだよ。

魔法で「火」を熾して 火口(ほぐち) の火を薪に移すのが今までの遣り方だったけど、ダイレクトに薪が燃えるなら、火魔法の使い方に広がりが出ると思うんだ。

魔力の手で薪を掴んで、手の中で「火」を熾す。

結果、火口を使わずに、ボッと 薪全体(・・・) に火が点いた。

「・・・おっ。成功」

「先ほどの水術式もですが、お見事な無詠唱行使ですね」

すぐ横で見ていたヘイナーさんが、感心したように頷いている。

「・・・無詠唱なら、ルナリアも出来るよ?」

「そうなのですか? 素晴らしいことです」

ヘイナーさんは柔らかく笑いながら頷く。

そうだね。ていうか、ルナリアの無詠唱は知ってたんじゃ無いの?

そんなことよりも、今の。

もしかして、“人体発火”みたいにオカルト的な火魔法が出来るんじゃ?

だって、魔力の手は目に見えないんだから、敵と睨み合っている内に魔力の手で包み込んでしまえば、たぶん、いきなり人が燃えるように見えるんだよ。

やっぱり、効果も上昇していると思う。

実戦で使えないものか後でお母様に話してみよう。

おっと、オーブンにも火を入れておくか。

オーブンは直ぐに温度が上がるものじゃ無いからね。

オーブン下段の鉄扉を開けて、5本ほど放り込んだ薪に、さっと火を点けておく。

私がオーブンに火を入れている間に、竈の前に木箱が移設されていた。

この手際の良さよ。

「・・・じゃあ、バターを溶かすよ」

「随分と弱火で溶かすのですね」

別の手鍋に拳大のバターを放り込んで竈の火に掛ける。

借りた木勺でバターを転がして、溶けたバターに小麦粉を振り入れる。

「・・・バターが焦げると色が残るから。焦がさないようにして小麦粉も溶かすんだよ」

「この分量は、どの程度でしょうか」

「・・・うろ覚えだけど、軽く一掴み分ぐらい。見た目で同じぐらいの分量で良いよ」

料理なんて、そんなもん。

お金を取って食べさせるわけじゃ無いんだから、美味しければ、それで良いんだよ。

レシピに纏めて、安定的に同じ味を再現できるようにするのはプロの料理人さんのお仕事だからね。

竈の中の温度が上がりきっていなくて薪が3本では火力が弱いけど、それが良い。

「加熱は、どの程度まで?」

「・・・小麦粉が溶ければ良いよ」

手鍋の中を見せると、小麦粉がバターを吸って馴染み、ベースト状になっている。

「こんな感じになったら、塊が残らないように少しずつミルクで溶かして、お塩をひと摘まみ。後は、焦がさないようにコトコトと煮て、とろみが出るまで混ぜ続ける」

「ミルクの量の目安は、どのくらいでしょうか」

喋っている間にもミルクの温度が上がって手鍋の淵に沸々と泡がつき始めた。

「ミルクを入れる前の10倍ぐらいかな」

「10倍量ですね」

鍋底に貼り付いた部分が焦げないように、木勺で刮ぎ落とす感じで混ぜ続ける。

「焦がさないように、という部分が難しそうですね」

「・・・急ぐ必要は無いんだから、危ないと思ったら火から外せば良いよ? 濡れ布巾を用意しておいて、危ないと思ったら濡れ布巾で冷ましても良いだろうし」

「それもそうですね」

ぷくぷくと泡が膨らんで、トロッとしてきたので手鍋を火から外す。

どのぐらいの固さかを示すために木勺を持ち上げると、とろーっとソースが鍋の中へ落ちる。

冷めればバターの油脂分が固まって、もう少し固い感じでプルプルのゼリー感が出るはず。

「・・・これがホワイトソース」

「ほわいと、とは、どういった意味なのでしょう?」

脳内で手順を反芻している様子を見せながらも、ヘイナーさんは質問してくる。

初めて目にするものを前にしていても、当然のようにマルチタスクを発揮してくるハイスペック・モテ紳士。

「・・・じゃあ、白ソースで。そういう意味だよ」

「分かりやすくて良いですね。ソースを味見しても?」

「・・・どうぞ」

私の了解を得たヘイナーさんは、魔法のようにどこかから取り出したティースプーンで、木勺に貼り付いたソースを少し取って口へと運ぶ。

「ふむ・・・。バターの風味にミルクのまったりとした味わい、ですね。軽い塩味でチーズのコクが加わる程度なら、しつこく無さそうです」

どこかの料理評論家みたいなテイスティングの分析を口にするね。

「・・・骨を煮出したスープベースなんかを、このソースとミルクとチーズで延ばせば、クリームシチューになるよ。とろっとして優しい味が特徴で、隠し味に白ワインを少し入れれば味に深みが出て、香り付けにもなるから」

「それは良いですね。ミルクスープとは少し違った感じですが」

「・・・小麦粉とチーズで、とろみが付くんだよ。具材に絡みやすいから薄味でも十分に美味しい」

「研究のし甲斐が有りそうですね」

ヘイナーさんが満足そうに頷いているのを見てか、お母様が参戦してきた。

「私も味見してみよう。何か作ってくれ」

「そうよ! 味見したいわ!」

「・・・だってさ」

ルナリアも参戦してきたので、二人を目で示す。

何か寄越せ、という二人の意見にハロルド様も頷いている。

分かる分かる。

料理してるのを見てるとお腹が空いてくるよね。

バターを使ってるから匂いも強いし。

「良いですね。私もソースを作ってみましょう」

ヘイナーさんはホワイトソースに挑戦するみたいだから、竈の前を開けて木箱も退ける。