軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ㉓

「それで、だ。魔石の交換で、問題の魔法道具の検証実験が行えそうなんだが、効果の確認が終わったら、解析と研究をフィオレにさせてやってくれないか?」

「ふむ。アカデミーは 煩(うるさ) そうだが、“フレイアが解析に当たる”とすれば、黙らせられよう」

王様の了承を勝ち取ってくれたお母様が私を見下ろす。

「それで良いか?」

「・・・ありがとう、お母様! ぜひ、お願いします!」

「構わん。魔法道具の使用を見破った当事者なら、適任で有ろうよ」

事件の話題が続いている間にと、テレサとアイコンタクトする。

小さく頷いたテレサが、ぐっと前へ身を乗り出す。

「でしたら、お父様。わたくしにも褒美をいただけませんか?」

「其方にもか? 構わんが、何を求める?」

目を丸くした王様に、テレサは真剣な目で向き合った。

「お母様の治癒を、わたくしにさせていただきたいのです」

虚を突かれたような表情を見せた王様から視線を向けられて、お母様が大きく頷いて返す。

「アンリカが食らった即効性の毒を、殿下が解毒して見せた」

「・・・私も確認しました。私がアンリカさんの治癒に当たる前に、解毒は終わっていました。テレサが治療を行う際には、私もテレサに協力します」

「神教会の治癒を受けたことの有る領民の話だと、司祭に劣らない腕だって言われていたわよね!」

ルナリア、ありがとう!

そこも、推しておくセールスポイントだった!

お母様のテレサへの支援に全力で乗っかった私たちに、それぞれ頷いて返した上で、王様は優しい目でテレサを見た。

「そうか。―――、テレサよ、フィオレと共にアマリリアの治療に当たってくれるか?」

「「はいっ!」」

テレサと私の返事がハモる。

テレサとルナリアと三人で笑い合う私たちから、王様は視線を移す。

「フレイア、バルトロイ。悪いが、其方らも立ち会ってやってくれるか」

「 端(はな) より、そのつもりだ」

「王宮の治癒術師を黙らせるのは、私にお任せを」

王様から視線を向けられたお母様とバルトロイ様も頷いて返す。成り行きを見守る姿勢だったアレイオス叔父様が挙手した。

「殿下の治癒術式が噂になれば、神教会の圧力が強まると考えられますが、如何いたしましょうか?」

「テレサが狙われる恐れが高くなるか・・・。面倒な坊主どもよな」

深刻そうな思案顔になった王様に、ミリア叔母様がニコリと笑い掛ける。

「そのことなのですが、セリーナ様から、一つ、面白い提案がございまして」

「セリーナ殿が?」

王様からの視線を受けて、私の向かい側に居る叔母様が、私を手のひらで示す。

「フィオレちゃんが、治癒魔法術師を増やす方法を見つけました」

「何だと? 増やせるのか」

王様が目を瞠った。

ここで叔母様は勝負に出るのか。

なら、私も全力で乗っからなきゃ。

笑みを崩さない叔母様が、セリーナ様のように、にんまりと目を細める。

「ハインズ様と母も、有用性を認めていらっしゃいます」

「ほう。ハインズ殿とシェリア殿もか」

ここかな?

王様も一目を置いている様子の人たちの名前を列挙されて、王様の思考が前向きになっている間に、と、私も勝負に出る。

「・・・テレサが腕を上げた方法を、ピーシス家の女性騎士候補とテレサの護衛騎士さんたちに教え込んでみたところ、ルナリアと私も含めて1日で12人が治癒魔法の発動に成功しました」

「何と。それほどか」

唖然とする王様に、叔母様が畳み掛ける。

「そこで、殿下とフィオレちゃんが発見した方法を王家に報告し、王家が惜しげも無く公表した、という形で、派閥を問わず、希望する国内貴族の全てに治癒術式普及の役割を担わせては如何かと」

「“融和派”にもか?」

顔を見合わせる王様とハロルド様に向けて、計画を聞いているので有ろうアレイオス叔父様が口を開く。

「むしろ、小麦の他に輸出する商品が無かった“融和派”ならば、積極的に宣伝し、国外からの希望者に斡旋して利益を得ることでしょう」

「国内貴族に恩を売り、王国は国内の安定と同時にテレサの安全を得られると?」

趣旨は理解してくれたみたいだけど、私が目指す計画のキモは、もう一歩、踏み込んだ場所にある。

「・・・もう一点。国内に治癒魔法術師が増えれば、ケガや病気で働けなくなる王国民が減って王国全体の生産力が上がります。生産力の向上は技術を広めた他国にも同じことが起こりますが、それと同時に、神教会の資金源と神秘性に打撃を与えられると考えます」

「ふむ・・・。神秘性を謳う宗教は厄介なもの故な。今までに倒された国々は大抵が、”それ”で浸透されておる。神教会の力の根源が弱まれば、王国に靡く国外勢力も増えるか」

情報を吟味する王様に向けて、バルトロイ様が挙手する。

「陛下、お待ちを。友好国が増えれば武力侵攻に備えた緩衝地帯は増えますが、神教会と勇王国の暴発を招きませんか?」

「どのみち、じわじわと浸食されて王国の敵は増え続けていくのだ。いずれ、ぶつかる。旗幟を鮮明にさせて緩衝地帯を作れるなら、直接の正面衝突までの時間は確実に稼げよう」

「しかし、国外にも情報を流せば、先んじて情報を得た王国の優位性が失われませんか? 同じ懸念はウォーレス領にも言えるはず」

バルトロイ様の懸念は、ご尤も。

「・・・あ。それ、大丈夫です。練習や訓練に使うケガ人を、最も多く、安定的に確保できるのは、たぶん、ウォーレス領ですから。まあ、”ケガ人”と言っても、人間では有りませんけど」

「安定的に確保、とは?」

「人間では無い、とは?」

本気で意味が分からなかったらしいバルトロイ様とハロルド様が、揃って首を傾げる。

「・・・ウォーレス領では、魔獣を実験動物に使える方法を確立できています」

「待ってくれ。魔獣を実験動物に、とは、どういう意味だ?」

バルトロイ様は、頭痛を堪えるように指先で眉間を押さえる。

ハロルド様は、「アレのことか・・・」と、こめかみを揉んでいる。

「・・・バジリスクの毒でバイコーンを麻痺させて治癒魔法の練習台に使うんです。テレサも、その方法で練習回数を重ねて腕を上げましたよ?」

「ほぉ。そんなことが可能なのか」

王様は興味深そうだね。

「・・・さらには、実験に使ったバイコーンのお肉は輸出用の干し肉に加工して、安めの値段で西方諸国へ売るので、万が一の事故も王国民には出ませんし、お肉も無駄にしません」

「一体、何をやっているんだ・・・」

「はっはっはっは」

楽しそうに笑う王様と渋い表情で首を振るバルトロイ様の、反応の格差が凄い。

「・・・ウォーレス領での遣り方が他国へ漏れたところで、魔獣の棲息域は人間がどうにかできるものでは有りませんよね? 王国とウォーレス領の優位性は揺らぎません」

王様から向けられた目線に、テレサ直伝の営業用スマイルで、ニコーッとトドメを刺しに行く。

「バルトロイよ。お前の負けだな?」

「はあ・・・。まるで、昔のフレイアと話しているようです」

おおっ、高評価!

さすが、イケメンはお目が高い!

「・・・ありがとうございます!」

「褒めていないぞ?」

「・・・そうなのですか?」

「残念そうな顔をしないでくれ」

戦争の疲れが溜まっているらしいお疲れモードのバルトロイ様が肩を落とす。

ぬか喜びさせるなんて酷くない?

「懐かしいのう。フレイアに論破された、あの頃のアカデミーの荒れっぷりは、今、思い出しても笑えるぞ」

「決闘沙汰まで起こるのですから、笑い事では有りませんでしたよ」

「・・・おおぅ」

決闘って、あの決闘? お母様の負ける姿が1ミリも想像できないよ。

バルトロイ様のボヤキに王様が首を振る。

「技術の発達に新旧の軋轢は付き物だ」

「・・・いっそのこと、アカデミーの方々や王宮の治癒魔法術師の方々にも、見ていただけば良いのでは?」

「良かろう。情報を流しておく」

王様って、結構、ノリが良いね。

決断力が有ると言った方がいいのかな?

こんな人を凡庸だと思わされてるとか、国として損失じゃないの?

「陛下。では?」

アレイオス叔父様の声に、一同の目が王様へと集まる。

ニヤリと王様が笑った。

「サリトガからも各方面を動かさせよう。聞けばアレも勝手に動くだろうが、アレの得意分野だ」