作品タイトル不明
蒼焔 ㉒
王様もセリーナ様の名前に苦笑する。
「セリーナの世代も、まだまだ影響力を残しておるからな」
「一部には、それ以前の世代も、ですわね」
スッと差し込むようにミリア叔母様が言ったひと言に、王様の口調が変わった。
「ああ。カレリーヌ殿も、まだまだ影響力を残しておるな・・・」
うん? 誰?
初めて聞く誰かの名前に、脱力してソファーの背もたれに体を預けた王様が遠い目をしている。
王様の反応から察するに扱いの難しい人なのかな?
お母様も、面倒くさそうに息を吐いている。
セリーナ様よりも前の世代ってことは、現代日本の感覚でも、それなりにご高齢のはずだよね。
よほど聞きたくなかった名前なのか、お母様が頭から振り払うように首を振った。
そこまで面倒くさい方なんだ?
「で? 何と“銘”を付けるつもりだ?」
「そうだのう・・・。何が良いかと思案したのだがな」
幾分かテンションを落として話題を戻したお母様から向けられる視線を、脱力から復活した王様が悪戯小僧を思わせる笑みで迎え撃つ。
「”蒼焔”というのは、どうだ?」
「ふむ・・・?」
「・・・”そうえん”・・・」
お母様は、吟味するように宙へと視線を漂わせている。
”蒼焔”―――、だよね?
青白い”恒星”の色から取った名前かな?
きっと、お母様の”白焔”とも掛けているのだろうから、“炎”ではなく”焔”なんだろう。
お母様との関連性を臭わせて牽制に利用するつもり、だろうね。
王様の目線が、お母様から私へ、そして、ルナリアへと移る。
「ルナリアよ。其方の身体強化術式も、かなりのものだと聞いて居る。まるで、 雷(いかづち) のような速さだとな。よって、今後の期待も込めて、其方にも” 疾雷(しつらい) ”の銘を与える」
「わたしにも!?」
おっと。驚いて素が出ちゃったね。
子供っぽさが出たルナリアに王様が目を細める。
「其方等は、表裏一体であろう? 王国の盾と剣ゆえな」
「ありがとうございます!」
「・・・おおっ。ありがとうございますっ」
分かってる! この王様、よく分かってるよ!
ルナリアは、お母様に憧れていたから、一歩近付いたし!
政治的な意味合いのものでも、ルナリアの実力が認められたのは私も素直に嬉しい。
ルナリアと私を不可分のワンセットで見てくれているのが、凄く嬉しい。
でも、ハロルド様は思案顔になってるね。
「”しつらい”・・・。”疾雷”か。閣下の”轟雷”に似た”銘”なのは?」
「ドネルクに代わる看板も必要になろう?」
うんうん。やっぱりルナリアの方も箔付けだったか。
それはまあ、そうなんだろうけど、分かっては居ても、ハッキリと認識させられちゃうと、冷静に戻っちゃう部分が有るよね。
おや? そうでもない?
ルナリアが喜んでるなら良いや。
ハロルド様は、まだ複雑そうなままだね。
「しかし、ルナリアは王都に居続けられるものでは無いが」
「必要な時に臨席を頼むことが有るやも知れんが、構わん。実際にはドネルクがおる」
「すると?」
首を振る王様に、ハロルド様は問う目差しを投げ掛ける。
「冒険者ギルドの話が出たのであろう? お陰でドネルクに持ち掛け易くなった」
王様の答えにハロルド様も納得したみたい。
事件現場で出た話を、なんで王様が―――、ああ。ミリア叔母様か。
いよいよ、王様の”目”と”耳”の役目を担っているっぽいね。
王城へ戻って直ぐに姿を消したのは、王様へ報告に来ていたのかな?
「これからも、テレサを支えてやってくれ」
「「はいっ!」」
と。いや、ちょっと待てよ?
王様からもテレサのお友だち認定を受けて返事をしたものの、・・・大丈夫だろうか?
「・・・うーん」
「何か不満か?」
おっと、いけない。
つい油断して、出てしまった態度に、王様が首を傾げている。
「・・・あっ、いいえ。そうではなく、予定に無かった謁見という公式の場での作法までは教わっていなかったので、大丈夫かな、と、不安になりまして」
「それは、其方の隣りに手本が居るのだから、学んで貰うしか無いのう」
人好きのする笑みを浮かべた王様から向けられる視線に、お母様が頷く。
「付け焼き刃だが、しっかりと教えてやる」
「・・・あ。はい」
今日の明日で覚えきれるかな?
やらなきゃいけないなら、やるしか無いんだけど。
「それでだ。無理を頼む代わりに、何か褒美をやろう」
「・・・ご褒美、ですか?」
「何が良い?」
ルナリアと私を見比べる王様に、シュバッとルナリアが手を挙げた。
「わたしは剣が欲しいです!」
「ヨシ。フレイアに与えたような“遺物”は残っていなかったはずだが、後で宝物庫へ案内させよう。それなりの名剣は有るから、好きに選べ」
「ありがとうございます!」
王様とルナリアがニッと笑い合う。
「フィオレよ。其方は何が欲しい?」
「・・・何が、ですか・・・」
「何でも良いぞ」
急に聞かれても欲しいものなんて思い付か―――、ハッ、閃いた!
「・・・そうだ、魔法道具が欲しいです!」
「“遺物”か?」
王様の眉尻が下がって困った顔になる。
「・・・いえ。先ずは、魔法道具の構造と古代文字を調べたいので、何でも構いませんから、お借りできれば!」
「構造と古代文字だと?」
目を丸くした王様は首を傾げた。
「神教会の魔法道具技術の独占状態を止めさせたいのさ」
「昔、どこかで聞いたような話だな?」
一瞬、遠くを見る目をした王様が、お母様へと視線を戻してニヤリと笑う。
「私が言わせたんじゃないぞ。自分で同じ答えに行き着いたんだ」
「ほう。これは楽しみなことよな」
「まったくな」
目を細めたお母様にぐりぐりと撫でられる。
「しかし、良さそうな魔法道具が有ったかのう?」
「それなんだがな。先刻の事件で魔法道具の使用が確認された」
思案する王様に向けていた目を、お母様が鋭くした。
王様の目も鋭くなる。
「それは“遺物”か? それとも模造品か?」
「まだ分からん。初めて見る効果で、バルトロイが直ぐ背後まで接近されて、危うく暗殺されるところだった」
「バルトロイが、だと?」
瞠目した王様に目を向けられて、ミリア叔母様が澄まし顔で首を振る。
「何分、不確定情報でしたので」
んん? そこまでは報告していなかったのか。
何でまた、そんな中途半端なことを?
気付いた疑問の答えが出る前に、バツの悪そうな顔をしたバルトロイ様が話を戻してしまう。
「お恥ずかしい限りで、フィオレ嬢が魔法道具の起こした効果に気付いて警告してくれなければ、毒に倒れていたのは私だったでしょう」
「また毒か。負傷したのがアンリカだという話までは報告を聞いておる。アンリカの容態は、どうなった?」
事件の発生までは報告が届いていたらしい王様が、お母様を見る。
「殿下とフィオレの解毒と治癒で、大事なく済んだ。血を流しすぎたせいで、今は貧血で寝込んでいるだけだ」
「そうか。助かったぞ。テレサ、フィオレ」
アンリカさんを助けるのは当たり前のことだし、アンリカさんは寝込んで居なかったけどね。
いや、お腹いっぱいになったら寝込むんだろうか?
名誉の負傷が台無しにならないように、余計なことを言わず、テレサと私は首を振る。
「フレイアの陰に隠れてはおったが、アンリカほどの者を失うのは国の損失ゆえな。バルトロイを失っても王国は厳しい状況に立たされたであろう」
王様はアンリカさんの価値も認めているみたいだね。
大きく息を吐いて肩の力を抜いた。
お母様は私の頭の上にポンと手を置く。