軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ⑳

そうして、日が落ちる少し前の時間になった、今、私はこの国の最高権力者に会う。

先導メイドさんの先導に従って待合室を出て、暫く長い廊下を歩く。

これ、どっちを向いても同じにしか見えない統一されたデザインの廊下だし、先導している先導メイドさんが道を間違えていたとしても、私たちには分からないよね。

先導メイドさんも道に迷っている疑惑が浮上したけど、王城内の移動に慣れているアレイオス叔父様とミリア叔母様が何も言わないのだから、私が抱いた疑念は濡れ衣だろうか。

先導メイドさん。あらぬ疑いを掛けてゴメンナサイ。

いや。代わり映えしない廊下の景色が続く上に誰も喋らないから退屈だったんだよ。

ルナリアでさえ緊張しているのか喋らないものだから退屈―――、というか、私も緊張しているから、何か、拝謁とは違うことを考えていないと、おトイ―――、お花を摘みに行きたくなってしまいそうなんだよね。

ぞろぞろと歩いて、例の、ちょっと違う感じの甲冑を着た騎士様が、二人、両脇に立っている観音開きの扉の前に着く。

扉そのものは他の扉と代わり映え無く、騎士様たちが立っていなければ、他の部屋と全く見分けが付かない。

先導メイドさんが片方の騎士様に到着を告げると、騎士様たちが面甲のスリット越しにアイコンタクトした気配が有って、先導メイドさんから用件を受け取った側の騎士様が扉をノックする。

ノックのペースは先導メイドさんたちと同じような、ゆっくりとしたペースで、室内から張りのある男声がノックに応える。

やっぱり、このノックの仕方が王宮内の作法っぽいな。

内側から扉が開かれ、ノックした騎士様が室内へと向いて立つ。

「ウォーレス卿、ピーシス卿、クローゼリス卿、ファーレンガルド卿が、到着されました」

「入れ」

ノックに応えた声とは明らかに違う静かな感じの男声が入室を許可し、騎士様が道を譲って元の立ち位置へと戻る。

何か言えよ、って思わなくも無いけど、「入って良いぞ」ってことなんだろうね。

ハロルド様を先頭に、ぞろぞろと室内へ入る。

この部屋も、王妃様の部屋ほどでは無いけど、かなり広い部屋だ。

天井の高さも王妃様のお部屋ほど高くは無いけど、柱の無い空間の広さに、王妃様のお部屋と同様の巨大な梁が天井を支えているのだろうね。

壁に埋まった暖炉が二つ有って、壁一面が背表紙のビッシリと並んだ本棚になっていて、不揃いな手書きっぽい背表紙が並んでいることから、何らかの資料か書類のファイル的なものだと見当が付く。

ゆったりとした書斎的なイメージでは無く、実務的なオフィスっぽいイメージを強く受けるね。

レティアの領主館の領主執務室を大きくした感じだ。

ゲームやファンタジーでよく有る、ふんぞり返っているイメージとは懸け離れていて、王様が、事務仕事に追い回されているハロルド様と大差無い生活を送られていることは、簡単に想像ができる。

室内の壁際には、廊下の人たちと同じ甲冑に身を包んだ騎士様が二人、槍を手に、置物みたいに立っていて、それがお仕事とは言え、立たされ坊主に監視されながら、ずっと書類仕事をするのかと考えれば、王様というのも、もの凄くストレスが掛かる仕事なのだと、気の毒になってしまった。

部屋の奥。

大きな窓を背中に―――、「背中に」とは言っても、真後ろは壁で、窓の外から室内を覘いても座っている位置は見えなくなっているのだろうと推察できるけど、横幅5メートル近くも有りそうな大きな机に座っていたヒゲの男性が、目線を上げて椅子から腰を上げる。

ハロルド様が足を止め、私たちの傍を離れたテレサがハロルド様を追い越して、数メートル進んだところでクルリと振り返る。

テレサも感情を悟らせない微笑みの仮面を被ったプリンセスモードだね。

私たちと正対する立ち位置だけど、真ん中では無く端に避けていて、私たちの真正面に空けられたスペースには王様が立つのだろうと察せられる。

ミリア叔母様に背中を押されたルナリアと私は、ハロルド様と並んだ位置まで押し出されて、ルナリアと私を挟んだハロルド様の反対側の位置にお母様が立つ。

ルナリアと私を挟んだサンドイッチ状態だよ。

私たちの2歩分ぐらい後ろには叔母様夫妻とバルトロイ様が横並びに立つ。

机の向こう側を回って奥から歩み出してきた王様が、テレサよりも一歩前の位置で足を止め、それを合図にしたのか、みんなが一斉に片膝を突いたので、ルナリアと私も慌てて片膝を突いた。

左膝を柔らかい絨毯の床に突いて右膝を立て、左手は後ろ腰に、右手は右足の腿の上へ。45度の角度で上体を倒して頭を下げる。

「ウォーレス侯爵ハロルド、帰還いたしました」

「うむ。ご苦労であった。―――、して、こちらが、そうか?」

「は。―――、ルナリア」

「ウォーレス家、嫡子、ルナリアにございます」

「・・・ピーシス家、嫡子、フィオレにございます」

「うむ。遠路、大義であった」

私たちは下を向いているから王様とテレサの表情や目線は見えないし、事前情報の遣り取りが有ったことを伺わせる言葉の中略で分かりにくかったけど、話を振られたルナリアはタイミングを間違えずに名乗りを上げ、私もルナリアに追随する。

テレサが口を挟まず、王様からの労いだけが返ったということは、問題なく、挨拶パートのミッションは達成されたのだろう。

取り返しの付かないヘマをせずに済んで、心の中でホッと息を吐く。

たかが、挨拶。

でも、相手は、いつでも私の首ぐらいは物理的に飛ばせる、一国の最高権力者だ。

緊張するなと言われても無理だし、数時間前にヘマをやらかしたばかりだからこそ、さらに緊張した。

「其方等。護衛は良い。下がれ」

「―――、はっ・・・」

頭を下げたままで床の絨毯を見ている私たちに周囲の様子は見えていないけど、間の空き方から察するに、職務に忠実な護衛の騎士様が抵抗の意志を見せたのかな?

「良い。下がれ」

「「はっ」」

ほんの少し強めに繰り返された王様の命令で、今度は間を空けず、騎士様たちの返事が返った。

カチャリカチャリと騎士様たちの鎧の擦れる音が私たちの背後を移動していき、扉が開け閉めされる微かな音が聞こえた。

一拍おいて、王様が息を吐いたのが聞こえる。

「皆、もう良いぞ」

王様の穏やかな男声から、先ほどまでの事務的な固い声色が消えている。

微妙な違いだけど、そう感じた。

ハロルド様とお母様が立ち上がったので、ルナリアと私も立ち上がる。

王様はハロルド様よりも明らかに年上で、口の周りから顎に掛けて、ちゃんと手入れされた感じのヒゲがフサフサの人だった。

ぽっちゃりとまでは行かないぐらいだけど、ちょっと、ふくよかなイメージを受けるのは、どこからどう見ても人の良さそうな表情だからかな?

平凡を装った、敵を作らないスタイルの処世術、か。

そう聞かされている私たちは、警戒してしまう。

ルナリアも私も、背筋をピシッと伸ばして「気をつけ」の姿勢。

「そう、緊張せずとも良いぞ」

私たちに向けられたフレンドリーな笑みに、意識せず肩の力が抜ける。

緊張が解けてしまう時点で、私たちは王様の術中に掛かっているのだろうね。

ハインズ様が言っていたように、この表情が作られたものだとしたら、こんなの、王様の本心を見破れる人なんて居ないんじゃないだろうか。

王様の人となりを事前に聞かされていて、これなのだから、知らない人はコロッと騙されることだろう。

お母様も王様のことを、よく「タヌキ親父」と言っているし、相当な曲者だよ。

セリーナ様やミリア叔母様も感情と表情が一致しているのか分かりにくい人たちだから、本心を隠されると裏で何を画策されるか分からない怖さが有るんだけど、王様の仮面の分厚さは、セリーナ様たち以上なのだろうね。