作品タイトル不明
蒼焔 ⑲
今、私は、向かい合ったルナリアと、お互いが着た衣装を見せ合っている。
「どう!?」
ドヤ! という顔で腰に両手を当ててペッタンコの胸を反らすルナリアは、軽いウェーブの入った金髪を、お母様みたいに首の後ろで一纏めにしていて、鮮やかな赤い生地に金糸を混ぜ込んで撚り合わせた撚り紐の、いわゆる肋骨服と呼ばれる上着に黒い乗馬パンツに脛丈のブーツ姿だ。
肋骨服っていうのは、ボタンの代わりにダッフルコートみたいな横向きの留め具が、いくつも付いている、詰め襟っぽく立った襟首の軍服だね。
肋骨服の両肩には胸の留め紐と同じ撚り紐で飾られた肩章まで付いていて、何なら、袖口にも肩章と同じようなデザインで太い帯状の飾りが施されていて、欧州貴族っぽい雰囲気を出している。
そう言う私も同じデザイ肋骨服を着ていて、ルナリアとの違いは生地の色が青空を思わせる明るい青色ってところだけ。
私もルナリアと同じように後ろ髪を首の後ろでキュッと一本に纏めていて、お母様みたいな格好をしている。
「・・・うんうん。いい感じ、いい感じ」
「フィオレも良い感じよ!」
「二人とも良い感じですわ」
胸の前で両手を打ち合わせたテレサは、目をキラキラさせている。
「・・・ありがと。テレサも、いつも通り可愛いよ」
「本当ね! 可愛いわ!」
「あら。お上手ですわね」
お調子ではなく、淡い黄色地で首元が詰まった上品なドレスに身を包んだテレサは、手槍さえ持―――、ゲフンゲフン。
何も手にしていなくても、正真正銘のリアルプリンセス感を出している。
勘付かれる前に思考を改めた私と二人を、高級そうなソファーから眺めているお母様と、いつの間にか戻って来ていたミリア叔母様も、満足そうに頷いている。
拝謁に同行してくださるハロルド様とバルトロイ様は、甲冑を脱いで、アレイオス叔父様と一緒にお茶を飲んでいる。
ほんの2時間ほど前まで、お二人もお母様も、凱旋してきた馬上に在ったのだから、腰を落ち着けてお茶を飲むのなんて、久しぶりなはずなんだよね。
みんな、衣服もパリッとした綺麗なものに着替えてるけど、こんな服も戦場へ持って行っていたのかと思ったら、王都邸に置いてある衣服を、それぞれの王都邸の人が王城へ届けに来たみたい。
「大きさは、ピッタリだったな」
「直ぐに小さくなるだろうから、心持ち余裕を持って作らせたのに、結構、ギリギリだったわよ?」
「それも、そうか」
子育ての先駆者の意見に従う姿勢を見せたお母様を、目を細めて叔母様が見る。
「思い出すわあ。姉様の拝謁のときは格好良いと思ったけど、今、見れば可愛かったのでしょうね」
「そう言えば、ハロルドだけでなく、ミリアも王城まで引っ付いて来ていたな」
「そりゃあ、悪い貴族に姉様が嫌がらせされないか心配だったもの」
ミリア叔母様がフフンと胸を張る。
お姉ちゃんが大好きな妹だったことが感じられるね。
「陛下に無礼を咎められないかと、私はヒヤヒヤしていたがな」
「私も後で聞いて度肝を抜かれたものだったな」
ティーカップ片手のハロルド様のボヤキに同調したのは、子供の頃からお母様を知るバルトロイ様。
お二人の反応に首を傾げたのはアレイオス叔父様だ。
「そうか? 私の父はフレイアの度胸を褒めていたが」
「陛下が狭量な男なら、特務なんぞを引き受けずに済んだのだがなあ」
男性陣の感想を聞いて、珍しいことに、お母様もボヤく。
やっぱり、爵位を継ぐ女性はドレスで拝謁に臨むのが普通なんだね。
お母様が男装で拝謁に臨んだのは、やっぱり、王様や王宮に対する挑発だったみたい。
何やってんの、お母様!
お母様の口ぶりだと、ハインズ様が言っていたように、凡庸を装っていないときの王様は、度量の有る、王様らしい王様なんだろうね。
その王様に、私たちは、今から拝謁する。
王様の執務室に近い待合室の扉が、ゆっくりとしたペースでノックされた。
このノックのペース、王妃様のお部屋にお邪魔したときも、こんな感じだったよね。
ノックひとつにも、王宮には作法が有るんだろうなあ。
室内に居る全員が扉へと注目し、ミリア叔母様の返事で微かな音を立てて扉が開いた。
「皆様。陛下がお待ちです」
一歩、入室して、静かに一礼したのは、さっきもアンリカさんの容態を見に行ったときにお世話になった先導メイドさんだ。
城門へ向かうときにも先導してくれた美人さん。
お茶を飲んでいた面々がカップとソーサーをローテブルに置き、スッと立ち上がる。
手招きされた私たちも、テレサの後ろに付いて、お母様たちのところへと集合する。
いよいよか。
この状況に至るまでにも、少し、ドタバタは有ったんだよね。
午前中の騒ぎで戦勝報告の謁見は明日のお昼に延期されることが報され、魔力枯渇で回収された私は、まだフラフラして足元が怪しかったことも有って、お母様の馬に同乗させて貰って王城へと戻った。
お母様の予想通り、王様は、私たちが身支度をしている間に、凱旋した討伐軍の閲兵だけを行われたそうだよ。
お母様と私を乗せた軍馬が王城へと着く前には、ルナリアたちも馬車で私たちに追い付いてきていて、ミリア叔母様は王城へ着いた途端にスッと何処かへと姿を消し、ルナリアたちも一緒に、5階層に用意された部屋でベッドに寝かされているというアンリカさんを訪ねたら、寝かされているどころか、ベッドの上でカトラリーを両手に握り、山盛りの食事を口一杯に詰め込んで、 栗鼠(りす) のように頬袋を膨らませているアンリカさんの姿が有った。
なんか、昔のアニメ映画で、こんなシーンを見た気がする。
お母様は、アンリカさんの元気な姿を確かめて、クスッと笑っただけで何も言わず、ヒラヒラと手首を振るお母様からお許しが出たと判断したのか、アンリカさんは頬袋を膨らませる作業に戻った。
えっ!! それで良いの!?
ついさっきまで、死にかけてたよね!?
はぁ・・・。血が足りない? ええ・・・?
室内には、夜衣姿のアンリカさんのお世話をしながら説教しているディーナさんと、騒がしい二人の姿に苦笑しているテレサと、頭痛を堪えるようにこめかみを揉んでいるアリアナさんと、ディーナさんのお手伝いをしているクラリカさんメイリスさんの姿も有った。
王城へ戻ったときには極度の貧血と乗り物酔いで死にかけていたアンリカさんは、ディーナさんとメイドさんたちの手で素っ裸に剥かれて、自分の血に塗れてベタベタになった体を拭かれている間に強烈な空腹感に襲われ、寝かされるどころかメイドさんたちに食事を要求して、ディーナさんの説教を右から左へと綺麗に聞き流しながら食事を胃袋に詰め込んでいたらしい。
テレサは万一に備えてアンリカさんの傍に付いていてくれていたみたいで、嬉しくて嬉しくて、抱きしめようとしたら、私が血塗れだからとハグを拒否された。
そういうテレサも血でスカートが汚れたドレス姿のままだから、似たようなものなのに不可解だよね。
元気そうなアンリカさんの姿に私の涙腺は再び崩壊して、一段落したところで、テレサとルナリアと私は丸洗いのために6階層の浴室へとメイドさんたちに拉致された。
手際よく洗われて、スッキリとしたところで用意されていた衣服に袖を通したのが、今、私たちが着ている骸骨服とドレスだよ。
もう、目が回るような展開の早さで、まともに困惑している暇も無かった。
何に驚くって、アンリカさんの復活の早さと回復薬だよ。
泣きすぎて瞼が腫れぼったくなっていた私は、お母様に回復薬を口に突っ込まれて、回復薬の後味と臭いで吐き気を堪えている間に瞼の腫れが引いていた。
こんなのにまで効くのか、回復薬。
お母様たちとの再会に、襲撃事件に、アンリカさんの治療と、ここまで立て続けに色々と起こって、国家イベントの謁見が順延されたのに、今日、拝謁するの? と、思ったら、明日、謁見が行われるからこそ、今日、拝謁しておかないといけないんだって。
「明日、謁見が有る」という王宮の事情と「今日、拝謁する」という私たちの状況は、繋がっているようで、繋がっていなくない?
何だかなあ・・・。嫌な予感がするよ。
政治的な臭いがプンプンとする気がするのは、私の気のせいじゃないと思う。