軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ⑱

「ミリア。今、影響力が強いのは誰だ?」

「筆頭は、ロンドベール公爵ね。もう直ぐ、侯爵か伯爵になるでしょうけど。“中立派”は各領地の派閥に関わらず仕事を集めやすいから、“中立派”が冒険者ギルドへの影響力を持ちやすいのよ」

「・・・そういう構造かあ」

道理では有るよね。

敵が少ないことの利点を活かしている。

可も無く不可も無くの営業マンみたいなものだ。

営業力は無くても、尖った営業をするわけでは無いから、需要が有れば幅広く客を拾えるってだけ。

利権として、冒険者ギルドを通じた人材派遣や物流を押さえて、中抜きでもしているのだろう。

中立的で間口が広い顧客の拾い方だから、現状は、偏った立場の側からは顧客満足度が低いから、平均的に均した評価は高くない、って感じかな。

リスクを押し付けられて、そんな人たちを儲けさせるのは、ちょっと業腹だな。

味方なら儲けさせても良いけど、冒険者ギルドを通さない人集めをした方が良いだろうか。

割の良い仕事を作り出して、「儲かる」って噂が広まれば、冒険者の数は集められそう?

ワナ猟の回収みたいに民間事業として成立すれば、領軍の負担が減って他にリソースを回せるよね。

冒険者ギルドに安全保障面での懸念があるのなら、野放しにせず、王家側で手綱を握っておくべき組織だと私も思う。

「何か考えが有るのか?」

「・・・考えってほどでは。ただ、実験してみたいことが有って、相談しようと思ってた」

思案する私の様子に気付いたお母様が助け船を出してくれる。

「何の実験だ?」

「・・・スライム畑」

私の答えにハロルド様が怪訝な顔をする。

「スライム? どういうことだ?」

「・・・畑に魔石を埋めておけば、スライム被害を押さえられるって聞いたから。多少、質の悪い魔石でも良いから、安く、大量に手に入らないかな、って」

相場価格が安いという闇属性の魔石もスライム畑で試してみるつもりだけど、呪われた農作物とか食べるのを躊躇いそうだから、ちょっと考えちゃう部分も有るんだよね。

だからこそ、色々な魔石でデータを取りたい。

効果が有っても、「ただし、高価な魔石に限る」では、収支が合わないだろうし。

必要な肥料の分量を量るように、効率的な魔石量も把握したいし、どの程度の品質の魔石なら収支が合うのか、その分岐点も知りたい。

領内の生産力が上がって潤えば、税を取りやすくなって領軍の人員を増やしても養えるはず。

いや。税率を上げなくても、領内の経済規模そのものが大きくなれば、勝手に税収も増えるのか。

むしろ、税率を下げることが出来れば、領民の労働意欲を高められるはず。

日本では「働き方改革」とか言って国民の労働意欲を削ぐことに国が必死になっていたけど、それって悪手だよね。

まあ、人から聞いた受け売りなんだけど。

昔は、会社員でも働けば働くほど給料が上がって儲かる運送業の仕事とかが有って、若い内におカネを貯めて起業する人が多かったと、取引先の社長さんに教えて貰ったことがある。

その当時は、若い人がバンバンおカネを使うから経済が回って、地方も豊かだったそうだ。

で。国が「絶対に働かせて堪るか」と明後日の方向へ頑張って国民の仕事を奪った結果、国民が貧しくなって、結婚する人が減って出生率も下がったと、社長さんはご立腹だった。

私が暮らしていた田舎町は、若くて優秀な人は、大抵、都会へ行って帰って来ないから、だんだん過疎化が進んでいたしね。

その社長さんも若い頃に頑張って稼いだクチだったそうで、今の若い子は縛り付けられるばかりで、将来の夢を見ることも出来なくなって可哀想だと嘆いていた。

儲けて豊かになりたい人はバリバリ働いて頑張るものだから、足枷を付けちゃいけないと。

話を聞かせてもらったときは、そんなものか、と、思っただけだったけど、今は置かれた状況が違う。

ウォーレス領も”田舎”だから、共通項は多いはず。

折角、成功者の体験談や失政に対する所見を聞かせて貰ったのだから、その知識を活かさない手は無い。

「領民に仕事を与えるのが為政者の仕事」って、お爺様も言っていたのだから、農地を増やして領民を豊かにする方向性は、間違っていないはずだ。

戦略物資の塩は兎も角、魔石回収なんて民間で賄えればその方が良いのだ。

領民も領主も儲かれば、民間の設備投資も公共事業も増やせて領内の経済が回る。

ピーシーズの増員だって、領内の財政状況は関係してくるはずだし、自由度が増える。

「ふむ・・・。領内の耕作地面積を広げたいのか」

「・・・仕事を増やして領内の経済を大きくしたい、かな」

理由を話すと、ハロルド様の目に理解の色が見えた。

「今のレティアは、仕事が多く有るんじゃなかったか?」

手紙にも、そう書いたから、お母様は現状を把握できている。

でも、私は、もう一歩先へと進めたい。

「・・・今は、それで良くても、元々、農業をしていた人は、農業に戻りたいと思っているかも」

「西部からの移住民の話か」

ハロルド様が片眉を上げる。

「・・・食料生産が増えれば、領内の流通価格が下がって領民の生活が楽になるだけじゃなく、余った生産品は輸出に回るだろうし、相場下落が王国内に波及すれば国外への輸出量が増えて、輸出品が通る“融和派”領地も多少は潤うはず」

「“融和派”を助けるのか?」

やっぱり、ちょっと否定的な反応かな。

自制心が強いハロルド様でも、ほんの僅かにだけど、声に棘がある気がする。

“融和派”と大きく一括りにすれば、大事な息子の命を奪った連中とも言えるものね。

拒絶反応が出るかも、とは思ってたけど、スライム畑ぐらいで拒絶されたら、治癒魔法術師量産計画なんて受け入れて貰えない可能性が高い。

だから、ここで理解を得ておく意味は有る。

「・・・助ける、のかな? どちらかと言えば、生命線を握ってしまえば、今回の戦争みたいなことは避けられるんじゃないかと思って。元々は“融和派”も同じ王国民だし、“飴”は必要かな、と。ウォーレス領内でも、仕事の選択肢が多ければ、魔獣の数が減ったとか掘れる塩の量が減ったとか、万一の不測の事態にも備えられるかなあ、って思った」

「奴等の生命線を握る、か。面白いじゃないか」

「慎重に掛からねばならんが、一理あるな」

一瞬だけ、意表を突かれたような表情を見せたハロルド様が、お母様の後押しに頷いた。

「耕作地を広げられるのなら、うちの領でも試してみたいものだ」

「・・・是非、協力してください。実験結果は多い方が良いですから」

ヨシ。ハロルド様とバルトロイ様は、興味を引けたよね。

思案顔のお二人を見ていた騎士団長閣下が、私へと目を戻してくる。

「その魔石集めに冒険者を使いたいと?」

「・・・はい。家族が辛い思いをするのは、もう嫌ですから」

食らえ! テレサ直伝、営業用スマイル!

この場に居る大人で、まだ引き込めていないのは騎士団長閣下だけだ。

ミリア叔母様もドップリと味方だし、騎士団長閣下も味方に付ければ、王様との交渉になった場合にも、いくらかは強気に出られるはず。

あれ? 効いてない?

営業用スマイルに耐性が有るのか、目を丸くしただけの騎士団長閣下は、私にはコメントを返さずに、再び従弟のハロルド様を見た。

「いつも、こんな感じか?」

「そうだな。大体、こんな感じだ」

「頼もしいことだな」

溜息雑じりに首を振られてしまった。

「・・・むぅー」

しくじったか。

上手くトドメを刺せなかった私の頭を、お母様がぐりぐりと撫でる。

「だが、ロンドベールが降爵すれば排除しやすくなるな」

「俺に冒険者ギルドを掌握しろと?」

ん? なんで冒険者ギルドの話に?

少し考えて、思い当たる。

ああ、そっか。

お母様もハロルド様もバルトロイ様も領地があるから、今の話の流れだと、領地を継がなかった騎士団長閣下に、お鉢が回ることになるのか。

確か、騎士団長閣下は実家の爵位を御兄弟に譲られたって聞いた気がする。

騎士団長閣下って、これが終わったら騎士団長を辞めるんだよね?

お母様は「暇になるだろう?」と、言外に、騎士団長閣下に言ったんだね。

「全体を見渡せば、まだまだ隠居は許されんだろうよ。前・騎士団長なら、荒くれの流れ者どもに睨みも利かせられるだろう?」

「そうだな。王都で睨みを利かせる者は必要だろう」

お母様とハロルド様の連携攻撃に、騎士団長閣下がジト目になる。

「それを隠居するお前たちが言うか?」

「私たちは表舞台から降りるだけだ。やるべきことは多い」

「私たちの娘は、まだ5歳だぞ? 任せっ放しになど出来るか」

「・・・あ。他にも相談案件が溜まってるんだった」

ぽふっと私も両の手のひらを打ち合わせる。

支援、支援、っと。

そうだよ。お母様たちが帰って来たから、やれることが増えるんだよ。

スライム畑だけじゃなく、シカ増殖の謎も解明したいし、治癒魔法術師量産計画にも協力して欲しいし、ピーシーズを増やさなきゃいけないし、エルフ文字と刻印術式も解明したい。

やりたいこと、やらなきゃいけないことは、沢山ある。

やれることが増えれば、テレサにフィードバック出来る情報も、きっと増えるはず。

「ほら。これだ」

振り回されて事務処理を押し付けられるであろうハロルド様が肩を竦め、複雑そうな騎士団長閣下がハロルド様の肩を叩く。

「まあ・・・、何だ。頑張れ」

言ったな?

他人事で居られちゃ困るな。

もっと、騎士団長閣下を巻き込む方法も考えよっと。