軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ⑰

「・・・あ」

「どうした?」

表面からは見えていなかった金具の裏側が見えて、ペンダントに魔石を固定する仕組みが分かる。

魔石を固定している金具を少し上に引っ張って右に捻り、更に少し上に引っ張って左に戻すという、絶妙に簡単なようで複雑な手順で動かすと、ポロリと外れるのだ。

金具がポロリすると、魔石もポロリする。

早速、バレたので、潔く、分離したペンダントと金具と魔石を示して見せる。

「・・・お母様。取れた」

「壊すなと言っただろう」

怒っている感じでは無いけど、お母様が眉根を寄せる。

「・・・そうじゃなくて。これ、魔石を交換できるんだと思う。この魔石、空っぽだから、短時間で魔力を使い切るぐらい魔力消費量が多いんじゃないかな」

「ほう? 魔石を交換すれば、魔法道具の効果を検証できるわけか」

真意を理解してくれたお母様の手に、ペンダントと金具と魔石を渡す。

それと、弄っている間に気付いたことを報告する。

「・・・たぶん? それと、この魔石の魔力、変な感じがする」

「どれ。――――、ああ、これは闇属性の魔石だな」

手にした魔石に意識を集中したお母様が、結論に至って、ポンと私の手に空の魔石だけを乗せる。

魔力が空っぽでも、魔石から属性の気配ぐらいは感じ取れる。

「・・・おおっ。闇! これが!」

「闇属性の魔石自体は珍しい物ではないぞ」

「・・・そうなの?」

なんだ。珍しくは無いのか。

残念さ、とかが有るわけでは無いんだよ。

闇属性の魔石って、私も、どこかで感じた気配の気はするんだけど、どこだか思い出せないんだよね。

悪意というか、「嫌な」気配では無くて、何だか「久しぶり」って感じ?

「手に入れやすいのは“ 悪霊(レヴァナント) ”などの 死霊(アストラル) 系だが、たまに“ 不死者(ゾンビ) ”からも採れるな」

「・・・へぇぇ。手に入れやすいのか」

森でも、まだ、幽霊系は見たことが無いな。

どこで手に入るんだろう。

「呪詛系の魔法道具にしか使えないとかで、他に使い道が無いから流通相場も安いんだ。よって、儲からないから在庫が余る」

需給バランスの問題だね。

豊作の野菜みたいなものだ。

売れないものは安くなるのが道理。

需要が少なくて利益が薄ければ取扱量が減るのも道理。

余った商品は、さらに安くなる、デフレスパイラルだ。

需要があっても供給量が多かったりで需要を上回れば、同様に市価は安くなる。

「しかし。闇属性の魔石を使っているということは、この魔法道具は呪詛系というわけだ」

「・・・うーん? 呪詛系で、姿が消える・・・?」

お化けが消える、的な?

呪詛って呪うんだよね?

意味が分かんないな。

「ただの一般論だ。闇属性の魔石を使う魔法道具は呪詛系の、ロクでもない物が多い、というだけだ」

「・・・ふむ。ふむ。呪詛系でも呪うわけじゃ無いと」

例の“奴隷環”とかいう魔法道具は闇系と死霊系の魔法を使ったもので、あれは動力が被使用者の体内魔力で魔石は使っていないんだっけか。

つまりは、魔法道具の影響を受ける対象次第や使用方法次第で動力が変わるのかな?

魔法道具の用途と魔石の属性が合っていないと性能が落ちるとか言ってなかったっけ?

でも、“奴隷環”みたいに魔石を使わなくても発動するのが刻印術式だとすれば、属性の決定は魔石に頼らず刻印術式側で出来るってことだよね。

やっぱり、刻印術式の情報が足りなさすぎるな。

魔法道具の構造やシステム構築の法則性を解明するには、統計的にデータを取って試作と実験を重ねるしか無いか。

実験結果から法則性を導き出すとなれば時間が掛かりそうだけど、他に手が無ければ、やるしか無い。

この魔法道具、借りられないかな?

あれ? そう言えば、レティアの領軍が押収した”奴隷環”を保管してるって、言ってなかったっけ。

見比べられる魔法道具の実物が、もう有るじゃん。

私がつらつらと思考に浸りそうになっていたら、難しくなった顔のバルトロイ様がお母様をじっと見ていた。

「“遺物”だと思うか?」

「そうであれば脅威度は低いが、そうでなければ、とんでもない脅威になるな」

脅威度ってことは、使用方法、―――、いや、戦略? 戦術的な意味かな。

バルトロイ様は数の問題を心配しているんだろうね。

「魔法道具の起動実験と陛下の判断が必要になろう」

「戦勝報告の謁見どころでは無くなったな」

だよねえ。国家レベルの大問題だよ。

あそこまで綺麗に人の姿を消せるなら、使い道なんて、大体、決まってくる。

ハロルド様とバルトロイ様が嫌そうな顔で首を振るけど、私もお母様の意見に同意だ。

変則的存在(イレギュラー) なら一度倒すだけで済むけど、 量産品(マスプロダクツ) の魔法道具なら、この姿が見えない厄介な敵と継続的に戦うことになって、防衛体制を根底から見直す必要が有るし、暗殺を恐れて、おちおち家でも寝ていられなくなる。

どうやら、突発的事態に弱いらしい私としても、大問題だよ。

こんなのにポコポコ出て来られたら、すごく困る。

これが「どういった物なのか」を検証して対応策を決める必要があるよ。

「仕方あるまい。暗殺者と、それを手引きした勢力が、まだ王国内に残っている可能性が有るのなら、それは、内戦が継続中、だということだ」

「危険な魔法道具まで王国内に持ち込まれたとなれば、看過できんか」

ええ? まだ戦争が続くの?

「それと、冒険者どもだ。潜入した連中の隠れ蓑になるなら、扱いを考えねばならんな」

「仕事が多いな。身を引いても、まだまだ楽はさせて貰えんか」

苦虫を噛み潰したような顔で騎士団長閣下が首を振る。

それよりも、だ。私はお母様の顔を見上げる。

「・・・冒険者って、あの武装した平民の?」

「ん? ああ。武力を持たない平民層や、戦力が足りない下位貴族層の不足部分を請け負う仕事だ」

「・・・傭兵みたいな感じ?」

おや? ステレオタイプの”冒険者”では無い?

私の聞き方が間違っていたようで、お母様は首を振る。

「傭兵とは少し違うな。戦う相手は人間ばかりでは無いぞ。戦争など常に有るものでは無いから、戦争が無いときには魔獣素材や薬草類の調達で“魔の森”へ踏み込むことも有る」

「・・・荒事専門の何でも屋さん?」

「何でも屋? そうだな。広汎な知識が必要だから、それほど簡単な職業でも無いんだがな」

ははぁ。ファンタジー系の定番イメージ通りか。

人間相手が傭兵で、相手を問わないのが冒険者って感じなのかも。

知識が無いと、私みたいにキノコの見分けも出来ないだろうし、「知識が必要」って言うのも理解できる。

今の状況では、結構、危険な職業、と認識しておけば正解だったのだろう。

「まあ、そんな感じの連中だ。カネ次第では有るが、使える奴は、そこそこ使えるぞ」

「・・・その人たちが、隠れ蓑になった?」

お母様が「そこそこ使える」と言うぐらいだから、冒険者にも実力が有る人は居るんだな。

ちょっと、興味ある。

「冒険者そのものが隠れ蓑、というわけでは無いが、流れ者が多くてな。冒険者を管理し、仕事を斡旋する冒険者 組合(ギルド) という組織が大陸各地に存在するんだ」

「・・・おおっ。冒険者ギルド!」

テンションが上がった私の声が大きかったのか、大人たちの視線が私に集まる。

「その冒険者ギルドの掌握を強化すべきでは無いか、という話だ」

「アレも不正の温床になりやすい組織だからな」

不正の温床?

各地の権力者との癒着的な?

ファンタジー的に複数の国家を股に掛ける、横断的・国際的な組織だとすれば、「不正」と言ってもスパイや密輸入って意味かも知れないな。

だとしたら、結構、問題のある組織なんじゃ?

お母様が叔母様を見上げる。