作品タイトル不明
蒼焔 ⑯
おお。把握してるんだ。
同じように戦っていても、キッチリと全体像を掴んでいるエゼリアさんの有能さが光る。
「多いとは思っていたが、暗殺者にしては、本当に多いな」
「私も何人か斬ったが、あの動きは、いくらかの訓練を受けた兵士のものだろう」
「ええ。個々の力量は大したこと無かったですが、一応、連携モドキのようなものは、していましたね」
目を鋭くしたハロルド様とお母様が顔を見合わせる。
暗殺者では無いってことかな?
立てた指を顎先に当てて、思案顔のエゼリアさんが小首を傾げる。
「連携モドキとは?」
「あの程度、ピーシス領だと、剣を習い始めたばかりの子供でもしますよ」
「お、おう。そ、そうか」
辛辣なエゼリアさんの言い方に、騎士団長閣下が引いている。
側近たちを取り纏める立場からか、こういったときのエゼリアさんは、何気にお母様よりも辛口だったりするからね。
個人の戦闘力が高くて突出しかねないお母様と側近たちを連携させようとすれば、エゼリアさんのように評価の目が厳しくなるのかも。
「カネで集めた冒険者なら、あの程度の連携でも、おかしくないんじゃないか?」
「冒険者ですか・・・。それは、どうでしょうか」
「どこかの領軍、ということか?」
「私は、そう感じますね」
ハロルド様の指摘にエゼリアさんは否定的みたいだね。
「決定的な判断材料は無さそうか?」
「はい。推測の域は出ません」
「奴等が兵士なのか冒険者なのかで、事の重要度が変わるのだがな」
エゼリアさんに断言されて、ハロルド様が難しい顔になる。
「それよりも、あれだけの人数が、どこから、どうやって入り込んだかが問題ではないか?」
騎士団長閣下が頭痛を堪えるような表情で深い溜息を漏らす。
王都の治安責任者としては、「誰が」よりも、「方法」に関心が行くのか。
「騎士団内部と守備隊の粛清は終えたはずなのだがな」
「王宮内はアレイオスが掃除していましたよ」
ミリア叔母様の追い打ちに、騎士団長閣下の渋面が酷くなる。
「ならば、手引きする者も無く襲撃に及んだのか?」
「戦力評価が根本的にお粗末で、殲滅させられたがな」
「王国の中枢戦力が集結した場を襲うには、40人や50人では奇襲性しか優位点が無いな」
お母様とハロルド様の評価に騎士団長閣下は首を振る。
「成否は別として、襲撃を実行できたことだけは事実だろう」
厳戒態勢とまでは言わなくても、軍の凱旋という国威発揚の軍事イベントなのだから、平時よりも警備体制は厳重だっただろうし、内通者を疑う騎士団長閣下の懸念は的を射ているように思える。
騎士団長閣下が心配するのも仕方ないかな。
同じように襲撃事件を起こせるのなら、王様やテレサは王国民の前へ顔を出すことも出来なくなりそうだし、他の要人も王都内を安心して移動することが出来なくなりそうだもんね。
でも、組織的行動を成立させる立場のエゼリアさんの意見は違ったようだ。
首を捻っていたエゼリアさんが口を開く。
「個人単位か、数人ごとの小集団単位で王都に入ったのでは? 恐らく、どこかの領軍の部隊が、冒険者か何かを騙って。私は、そこまで組織的に練られたもののようには思いませんでしたが」
「なぜ、そう言える?」
確信が有りそうなエゼリアさんの意見に、騎士団長閣下が首を傾げた。
「武器と服装です。同じ場所で同じ訓練を受けた者は集団生活をすることから、好む武器の特徴、好む衣服が似通います。衣服は、その辺のどこででも手に入って差違など殆ど無いように思われるのでしょうが、衣服選びの特徴は出ます。自分の命を預ける武器は、もっと顕著に、重さや長さの慣れ親しんだものに近いものを選びますから、連中が使っていた武器を並べて比較すれば、近似傾向が明らかになると考えます」
エゼリアさんのデキる女感が凄い。
マーケティング担当者の市場分析を聞かされたような気分だよ。
デキる女の意見を、数秒間、吟味したハロルド様と、お母様が頷く。
「それは確かに、普通の冒険者には無い特徴だな」
「最低限の作戦行動訓練を受けていれば、分散していても、目標地点だけ間違えなければ集結は可能だな。しかも、王国民なら王都の下見ぐらいは問題無く出来る」
答えが出たと判断したのかな?
ハロルド様とお母様が揃って口角を引き上げる。
盲滅法(めくらめっぽう) に探すより、アタリを付けて探す方が効率はよさそうかな?
そういう意味での笑みなのかどうかは分からないけど。
治安組織に入り込んだ 内通者(スパイ) が絡む、根の深い犯行を疑った流れをぶった切る、「そこまで大したこと無いんじゃない?」という意見でも、妥当性が認められればサラリと飲み込めてしまうのが、ウォーレス領だよね。
騎士団長閣下は、そう簡単に飲み込めないみたいだけど。
お母様たちの意見に目を瞠った後、腕組みで空を見上げたり目を瞑って俯いたりしていた騎士団長閣下は、降参するように首を振った。
「納得が行き過ぎて、ぐうの音も出ん」
「そうなると、あの男だけが異質だな」
騎士団長閣下の追認でハロルド様の目が路上に横たわる「針」の男へと向けられ、バルトロイ様も頷く。
「ああ。魔法道具と言い、使っていた武器と言い、あの男だけ西方の臭いが強すぎる」
「アレだけが暗殺者か?」
次の「すべきこと」が見えたと判断したのか、お母様が顔を上げる。
「ミリア」
「ええ。情報を集めてみるわ」
薄く笑った叔母様がお母様へ頷き返す。
もしかして、ミリア叔母様って諜報組織の親玉的ポジションだったりする?
そう言えば、アレイオス叔父様も間諜を使ってるっぽかったものね。
何、その怖い夫婦。
アレースお兄様も、叔母様たちみたいに、なるんだろうか?
私が落ち着かなくなりそうだから、アスクレーくんは健やかな脳筋に育って欲しいな。
息を吐いて気分を切り替えたらしい騎士団長閣下が次の行動指針を示す。
「俺は各第3城門の入都記録を浚ってみよう。どこから来たかを絞れるかも知れん」
「では、私は“大人の時間”でもするか。狙われたのが本当に私なら、効果的かも知れない」
表情を引き締めたバルトロイ様は 拷(ごう) も―――、ゲフンゲフン。“大人の時間”か。
何気にバルトロイ様も、フレーズを気に入ってるよね?
そのバルトロイ様のヤル気に水を差したのは、お母様だ。
「ダメだ。お前には大事な仕事が有る」
「大事な? ・・・何だ?」
「拝謁だ。付き合って貰うぞ」
ピシャリと返されたバルトロイ様が首を傾げる。
ああ、そっか。
事件よりも、お母様はテレサとの約束を優先してくれたんだ。
もしも、王妃様の治療が成功して、社交界への復帰が現実的になったら、王宮内のパワーバランスは王家に傾くはず。
細部まで目が届かないのを良いことに利権を貪ろうとする王宮貴族たちが、身動き取れなくなるのだ。
社交界とは、国内外の陰日向の情報が飛び交い、政治や外交を裏から動かす場なのだと、ミリア叔母様を見ていて私にも理解できている。
「なぜ、私が拝謁に?」
「済まないな。王国の安定のためだ」
「ハロルド卿まで、そう言うなら、まあ、私は構わないが」
ふっと笑みを浮かべるハロルド様も、テレサとの約束を優先してくれている。
テレサの願いと状況を聞いていないので有ろうバルトロイ様は、それでも了承した。
さすがハロルド様だよ。
お母様だけだと納得しそうになかったことを、ハロルド様の信用一つで承諾させちゃった。
ハロルド様は調整するのが上手いから、反発を受けにくいのかな。
お爺様もハインズ様の右腕として調整を担っていたみたいだし、私もお手本にしなきゃ。
などと、大人たちの話を聞きながら手元で弄くり回していた魔法道具から、魔石を押さえてペンダントと一体化させていた金属部品がポロリと外れた。