軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ⑮

バルトロイ様が180度方向転換すると同時にテレサを隠すように一歩下がったから、避けられた、もしくは、目測を誤って“腕”は空振りしたんじゃないだろうか。

間近で見ていた私には、そう見えた。

テレサを狙ったのなら、テレサからの距離が遠すぎるし、もっと近くからテレサ目掛けて凶器を振り下ろすと思う。

その考えを伝えると、騎士団長閣下が唸った。

「だから、狙いはバルトロイだったと」

「私か・・・?」

バルトロイ様が首を傾げる。襲撃時の状況には同意したけど、自分が狙われる心当たりは無いみたい。

お母様がバルトロイ様に向けていた目を私へと戻す。

「その後は、どうなった?」

「・・・“腕”が、もう一度、武器を振り上げ直して、振り下ろしたところを、バルトロイ様が剣で弾き上げられました」

「その通りだ。抜き打ちでナイフを弾き上げた」

バルトロイ様が頷く。

今、思い出しても、よく反応したよね。

本業が魔法使いでも、バルトロイ様もまた、戦場で戦う人なんだと感じさせられる。

「・・・その時に、こう、バルトロイ様の右腕が下から上へと振り上げられた状態で、脇が空いたところへ、もう一カ所、低い位置に景色の歪みが見えたんです」

バルトロイ様の立ち位置から見れば、二カ所目の”歪み”は右脇腹の斜め前でだった。

下から斬り上げる身振りでバルトロイ様の状況を説明すると、お母様はバルトロイ様に向けて首を傾げて見せた。

「どうだ?」

「私は気付いて居なくてな。フィオレ嬢が“下だ”と警告してくれたんだ」

バツが悪そうに眉尻を下げたバルトロイ様が私を見下ろす。

あれは仕方無いんじゃないかな。

何も無い空中の、それも、視界の外からの攻撃なんて、気付かないのが普通だろう。

私だって第三者視点で二カ所目が正面に見える位置に、へたり込んで居たから、たまたま気付いただけで、あの襲撃者と戦っている当事者だったら、間違いなく、見えていなかったはず。

「・・・そこに、アンリカさんが飛び込んだみたいで、ルナリアと私とノーア、―――、妹はバルトロイ様の体にぶつかられて、転けて、顔を上げたら、バルトロイ様と王女殿下も一緒に転けていて、アンリカさんが刺されていました」

「なるほどな。そういう状況か」

「クローゼリス卿も、よくぞ、無事で済んだものだ」

状況を把握した騎士団長閣下やハロルド様が頷く。

「彼女のお陰だ」

バルトロイ様が座り込んでいるお母様とお母様にしがみついている私へと目線を下ろす。

その静かな目には、深い感謝が表れているように見えた。

「それと、アンリカ嬢、だったな。彼女が身代わりになって、私と殿下を救ってくれたのだ」

「その武器が、これか?」

頷いて返したお母様が、手に取った奇妙な形の武器を示す。

アンリカさんの腹部を刺し貫いた、あの「針」だ。

よくよく見ると、本当に「太い針」のような形状をした武器。

直径2センチメートルは有ろうかという鋭い四角錐の、刃渡りが30センチメートルもある、金属製の細い「杭」にも見える。

その「杭」を握る 柄(つか) と、「杭」と柄の境目に申しわけ程度の 鍔(つば) が生えていた。「杭」には、べったりとアンリカさんの血が貼り付いている。

「見ない形の剣だな。―――、いや、剣なのか? これは」

「西方の、―――、何と言ったかな」

ハロルド様の疑問を受けて、お母様が騎士団長閣下を見上げる。

「“スティレット”、だ。刺突専用の、要は“鎧通し”だな」

「板金鎧を貫通できる刺突武器ですか」

バルトロイ様の手からハロルド様の手へ、ハロルド様から騎士団長閣下へと渡されて、騎士様たちの手へと渡って、それぞれが難しい顔で矯めつ眇めつする。

「フレイア様」

「どうだった?」

戻って来たエゼリアさんから掛けられた声に、お母様が顔を上げた。

「身元が分かりそうなものは所持していませんでしたが、こんな物を所持していました」

エゼリアさんから手渡されたのは、首に掛けるためか革紐の輪が付いた、直径10センチメートルほども有る大ぶりなペンダントのようなもの。

私に引っ付かれたままで、私の頭越しに鋭い目でペンダントの表裏を確認したお母様がバルトロイ様へと差し出して、バルトロイ様が受け取る。

バルトロイ様の手にあるペンダントを注視すると、縦長で楕円形のメダル状になった金属板にエルフの古代文字のようなものが彫り込まれていて、真ん中に毒々しい濁った紫色の魔石っぽい石が嵌まっている。

お母様並みに博識なはずのバルトロイ様が首を捻った。

「何だ? これは」

「分からん。初めて見る形だが、魔法道具だろうよ」

「・・・魔法道具!」

やっぱり!

魔石っぽい石が嵌まっているから、そうじゃないかと思ったんだよ!

「針」と同じように大人たちの手を一回りしたペンダントが、再びお母様の手へと戻ってくる。

「本当に魔法道具か・・・。いよいよ、神教会の臭いがしてきたな」

ハロルド様の溜息交じりのボヤキを耳にしつつも、興味津々な私はペンダントから目が離せなくなっている。

だって、魔法道具だよ!?

本格的な不思議機能を持った魔法道具は、王国には入ってこないものだと思っていたし!

そんな場合じゃ無いと分かっていても、沈んでいた気持ちが上向く。

テレサのブローチは一文字しか古代文字が刻まれていなかったと聞いているけど、このペンダントには、少なくとも十数文字の古代文字っぽい刻印が見て取れる。

普通に考えて、文字数が多いのだから、このペンダントの方が高性能なはず。

これの構造と製造方法を解明できれば、神教会や勇王国の影響下に有る地域と縁を切ることができるかも知れなくて、魔法道具を国内製造できるようになれば、高品質な魔石資源を、ほぼ独占できる王国の立場は一気に強くなる。

私の考えを理解しているお母様が、私の手にポンとペンダントを載せてくれた。

「壊すなよ? いや、もう壊れているのかも知れんが、一応、証拠物件だからな?」

「・・・はいっ!」

うっひょー!

思わぬところで魔法道具の実物に手で触れられた!

みんな、ごめん!

こんな時に不謹慎だけど、何とか、これを解明したい!

こうやってお母様が魔法道具を見せてくれたということは、この場では、もう私はお役御免ってことだよね!

大人しくしていろと子供にオモチャを与えるように、あしらわれている気がしなくも無いけど気にしない!

鼻息も荒くペンダントを弄くり回し始めた私を見下ろしつつ、難しい顔のハロルド様が口を開く。

「クローゼリス卿。狙われる心当たりは?」

「無い。殿下も、閣下も、フレイアも居る場で、なぜ私なんだ?」

首を振るバルトロイ様から目線を外して、お母様は傍に立つエゼリアさんを見上げる。

「襲撃者は、何人、生き残っている?」

「7~8人かと。ざっと40人以上は居ましたから、2個小隊規模ですね。良いところ、増強部隊です」

サラリと言うエゼリアさんの答えに、大人たち全員が眉を顰める。