軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ⑭

近付いてきたバルトロイ様に視線を向けて、お母様がニヤリと笑う。

「ほらな。剣を学んでおいて良かっただろう?」

「ああ。君に言われて始めたが、身に付けておいて正解だったと、今日ほど実感したことは無いよ」

お母様が掛けた言葉に、剣を収めた鞘をポンと左手で叩きつつ、戻ってきたバルトロイ様が首を竦める。

今の今まで、バルトロイ様が強い魔法使いだってことを私も忘れてたけど、そう言えば、魔法使いなのに、バルトロイ様は剣で戦ってたね。

バルトロイ様って、魔法術師団の団長閣下じゃ無かったっけ?

何で魔法を使わずに、剣で?

「・・・お母様がバルトロイ様に剣を奨めた?」

「こいつは昔、“魔法術師が剣を学んでどうする”と言い放ってな。“死にたく無かったら身に付けろ”と言ったんだ」

うん? バルトロイ様の言い分は、間違っては居ない気がするけど。

でも、お母様が、そう言うってことは、ちゃんとした理由が有るはず。

「アカデミー時代のことだったかな」

「・・・そんなに、昔に?」

お母様とバルトロイ様が学術研究院に在籍していたのって、まだ、お母様が10歳ぐらいの頃って言ってなかったかな?

単純計算で、18年ぐらい昔のはず。

その頃から剣術にも力を入れていたなら、バルトロイ様もまた、お母様たちと同じように、魔法と剣術の両方が得意なのか。

魔法使いも剣で戦えなきゃいけない理由って何だろう?

「適切な距離を取れていれば魔法術師は強力だが、混戦に持ち込まれて懐に入られれば、魔法術師が術式を使うと味方にも被害が出る。王族のように“必ず守らなければならない対象”が至近に居れば、尚のこと、使えんからな」

「・・・ああ。誤爆するから」

私の、やらかし、そのままだ。

味方どころか、私自身も含めた周囲の全てを巻き込むところだった。

しかも、ちゃんと敵を倒すことさえ出来ていない、お粗末さ。

そうか。

魔法だけじゃダメなのは、そういう理由なんだ。

戦闘の現場では、魔法を使えれば良いってものでは無いんだね。

・・・近距離でも使える風ジェットカッター魔法で騎士様たちや兵士さんたちが驚いていたのは、この辺の事情も有ったわけか。

それに、さっきのバルトロイ様みたいに襲われている紙一重の場面だと、思考が追い付かないのかも。

体に染みついた反射的な動きでの防御なら、剣の方が早く防げるのは分かる気がする。

私なら、頭が真っ白になって、何も出来ずに刺されていただろうね。

「フィオレ。だから、お前も剣術に手を抜くな」

「・・・分かった。がんばる」

納得して頷く私に、バルトロイ様が目を向けてきた。

「お陰で命拾いした。フィオレ嬢、君の警告で助かったよ」

「あの声は、フィオレ嬢だったのか」

騎士団長閣下が目を丸くする。

「・・・はい。バルトロイ様の背後にナイフを持った“腕”が見えたので」

「腕だと? どういうことだ?」

怪訝な顔をする騎士団長閣下に、バルトロイ様も大きく頷く。

「確かに“腕”でした。宙に“腕”だけが浮いているように見えたのだが、あれは一体?」

「フィオレ。状況を詳しく説明できるか?」

皆さんの視線が私に集中して、お母様の問いに頷く。

「・・・テレサ、―――、王女殿下に挨拶されているバルトロイ様が頭を下げたときに、お顔に隠れていた背後の景色が歪んでいるように見えたんです」

「景色が歪む?」

騎士団長閣下が怪訝な顔をする。

分かるよ。

逆の立場だったら、私も、きっと、そうなる。

日本の映像技術を知っている私でも、映像記録の加工ではない実物で、どうやって、そんな物理現象を起こすことが出来たのか、理屈がサッパリ分からない。

「・・・はい。・・・そうですね。例えば、水中から、水面越しに景色を見ているような感じで、バルトロイ様の背後が歪んでいるように見えました。その歪みの中から、武器を逆手に持った“腕”だけが、こう、ニュッと出て来たんです」

あの「ナイフを握った右腕」の様子を身振りを添えて説明する。

カーテンの隙間から腕だけを出した感じ、と、例えた方が伝わりやすいのだろうか?

どう伝えるのが適切な表現なのか、自信が無い。

物理法則で理屈が説明できない現象だからこそ、どう説明すればいいものか悩ましい。

「私にも、“腕”は、そう見えました」

おお。バルトロイ様は分かってくれたよ。

魔法の第一人者であるバルトロイ様の証言で私の説明の正しさが補強されて、少し安心する。

難しい表情の騎士団長閣下が、もう一人の第一人者であるお母様へと目を移す。

「どう見る?」

「分からんな。そんな効果の術式は聞いたことが無いし、有り得るとしたら、魔法道具か」

「魔法道具・・・。神教会の手の者か?」

騎士団長閣下の眉間が険しくなって、一段と声が低くなる。お母様が私の顔を覗き込んできた。

「そいつが、どいつだか分かるか?」

「・・・あれ、だと思います」

ディーナさんが槍をフルスイングして男の悲鳴と同時に飛び散った血飛沫の行方を指す。

石畳の上に点々と残る、叩きつけたような血痕の延長線上に、他の襲撃者たちと似た、外套らしき衣服を着た人間が横たわっているのが見えて、石畳の上に大きな血溜まりを作っている。

ハッキリとした記憶では無いけど、確か、ディーナさんの攻撃が当たったらしき、何かが潰れた音と、男声の短い悲鳴が聞こえたはずだ。

あのときは、何も無い空中に鮮血だけが飛び散ったように見えたけど、戦っている人が居なかったはずの場所に、いつの間にか「人間丸ごと」の死体が転がっているのだから、アレが、「腕」しか見えていなかった襲撃者で間違いないはず。

「エゼリア。調べろ」

「はっ」

エゼリアさんが倒れている男の元へと向かい、エゼリアさんの背中を目で追った騎士団長閣下が、傍に控えている騎士様たちへと目を移す。

「お前たちも立ち会え」

「「はっ」」

指示を受けて二人の騎士様たちがエゼリアさんの後を追い、騎士団長閣下はお母様へと目を戻す。

「殿下を狙ったと思うか?」

「どうだろうな」

難しい顔のお二人は、襲撃の標的がテレサだった可能性から推考に入ったみたいだけど、私の推察は違う。

お母様を見上げて小さく挙手すると、気付いたお母様が頷いて発言を促す。

「・・・あの。・・・恐らくですが、狙いはバルトロイ様ではなかったかと」

「バルトロイだと? なぜだ?」

全員の視線が私に集まって、騎士団長閣下が代表するように私の考えを問う。

「・・・私が警告して、バルトロイ様が後ろを振り返ったときに、一歩、後ろに下がって、“腕”が空振りしたんです。あれは、バルトロイ様が攻撃を避けた格好に、なったとは、考えられませんか?」

「ああ・・・、そうだ。確かに、そうだった」

バルトロイ様に状況を問うと、記憶を探って思い当たったらしいバルトロイ様が固い表情で同意する。