軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ⑪ ※アンサンブルキャスト面

「どうなった?」

グッタリ横たわっているアンリカの体を支えているディーナに目を遣ると、顔色を悪くして、動転の色が見えるディーナが、フレイアの声にハッと我を取り戻す。

「殿下が毒を受けたアンリカさんの解毒を行ってくださって、魔力切れになった殿下に代わってフィオレ様が治癒を行いました。そのまま倒れられたので、恐らくは、魔力切れを起こしたものかと」

「そうか。殿下に、お怪我は?」

ディーナの説明にフレイアは頷く。

フレイアの視線を受けて、テレサは首を振った。

「わたくしは襲撃者の攻撃から庇っていただいた際に、突き飛ばされて転んだ程度ですわ」

「アンリカの傷はどこだ?」

「右脇腹を刺されて、フィオレ様はアンリカさんの背中を気にされていたので、もしかすると、背中まで貫通していたのかも知れません」

ディーナの証言を聞き取りながら、アンリカの体へと目を向ける。

「腹は―――、ここか」

アンリカの血で手が濡れることを躊躇わないフレイアはアンリカの腹部を弄った。

ディーナの状況認識の通り、鎧下の右脇腹に指が通るほどの穴が開いている。

傍らに転がっている甲冑の胸当てにも同じ辺りに貫通痕が残っているので、刺された箇所は、ここで間違い無かろう。

フレイアのサーベルでは長すぎて、この場では扱いにくい。

フィオレの腰に提がっているナイフを鞘から抜いて、分厚い鎧下の腹部を裂く。

「ふむ・・・。治っているな」

べったりと血で汚れては居るが、刺されたであろう付近に傷口は見当たらない。

「回復薬は?」

「解毒術式の後に飲ませました」

「ディーナ。もっと体を起こせ」

「は、はい」

指示に従ってディーナはアンリカの肩を支えて上体を起こしてやる。

フィオレが気にしていたというアンリカの背中を弄ると、腹部よりも背中の方が鎧下に染み込んだ血液量が多い。

濡らして絞る前の手ぬぐいのように血を含んでいる鎧下の、背中の右寄り、肩甲骨よりも下の辺りに、腹部と同じような穴が見つかった。

「ここだな」

ナイフで鎧下の生地を裂くと、腹部同様、アンリカの背中に傷は見当たらない。

フィオレは、アンリカが腹腔内の臓器に損傷を負っていることに気付いて治療したのだろう。

念のため、背中側の傷があったであろう付近に手のひらを翳し、フレイアは治癒術式を施す。

「アンリカ」

「・・・・・はい・・・」

フレイアの呼び声に、アンリカが薄く瞼を開く。

「痛みは有るか?」

「・・・・・頭がガンガンします・・・」

「頭だと?」

外傷が有るようには見えないが、アンリカの髪の間を弄って傷を探す。

「・・・・・月のものが酷いときみたい・・・」

「それは、貧血だな。しっかり食えば治る」

溜息を吐きつつ笑みを浮かべたフレイアは、ぐりぐりとアンリカの頭を撫でた。

28歳になるフレイアにとって、アンリカたちは3歳の頃から共に居るのだから、人生の殆どの時間を共に過ごしてきた姉妹のようなものだ。

昔は、よく、こんな風に頭を撫でたものだが、アンリカたちの頭を撫でなくなったのは、いつの頃からだったろうか。

お互い、いい大人になって、さすがに出来なくなったのだったか。

フレイアたちの後ろをくっついて回っていた4つ年下のディーナも一人前になって、憎まれ口を叩くようになったが、肉親と同じぐらいにアンリカの身を案じているのはディーナかもしれない。

しょっちゅう訓練場で勝負に興じているのも、じゃれ合っているようなものなのだ。

腕を伸ばして、青い顔でそわそわしているディーナの頭もぐりぐりと撫でる。

「今のところ命の心配は無かろう。王城へ運んでやれ」

「はいっ!」

パッと表情を明るくしたディーナはアンリカの腹部に体を潜り込ませ、一気に肩へ担ぐ。

「・・・・・ぐえっ・・・」

腹部にディーナの肩が食い込んだアンリカが苦しそうな呻き声を上げるが、ディーナは一顧だにしない。

自分の乗馬に向かって、アンリカを左肩に担いだディーナが駆けていく。

その後ろ姿を見送ったフレイアは、フィオレの傍に座り込んだままのテレサへと目を戻した。

「殿下は、立てるか?」

「はい。わたくしは問題ありません」

落ち着いた目差しで気丈に頷く第3王女の姿に、フレイアは目を細めた。

“友の娘”は、しっかりと“友”の性質を引き継いでいるようだ。

覚悟の無い、その辺の御令嬢では、こうは行かない。

動揺が無いわけではないのだろうが、支えてやる者が居れば、王国という“大きな荷物”を背負っていくことも出来よう。

「ならば、王城へ戻った方が良かろう」

「アンリカさんに付いていきますわ」

心の揺らぎを見せず凜とした態度を崩さないテレサの頭に、フレイアは手を伸ばした。

テレサを撫でようとして、自分の手が血で汚れていることに気付いたフレイアは、顔を顰めてその手を下ろす。

労ってやりたかったが、“友の娘”とはいえ、さすがに自国の王女殿下の髪を血で汚すわけには行かない。

フレイアの様子に残念そうな笑みを浮かべたテレサが腰を上げる。

アンリカが作った血溜まりに両膝を突いていたテレサのドレスは、スカートの前面、膝から下が赤くべったりと濡れている。

まだルナリアが戻って来ていないが、暫く見ない間に、また随分と成長の跡が見えた。

ウォーレス家の後嗣として、十分な資質を示して見せたと言える。

一先ずの戦闘の終わりが見えた今の状況なら、ルナリアにはピーシーズの3~4人も付けていれば問題は無いだろう。

ルナリアの周囲には、まだフレイアの側近たちも残っている。

向こうが片付けば、エゼリアたちはフレイアの傍へと帰ってくる。

それならば、と、アンリカの容態に最も気を揉んでいるで有ろう少女に指示を出す。

「アリアナ! 殿下が王城へ戻られる! 何人か連れて護衛に就け!」

「は、はいっ!」

所属領の現当主・フレイアの直命を受けたアリアナと、近くに居たクラリカとメイリスが、手にした剣を鞘に収めつつテレサの傍へと戻ってきた。

ピーシーズはフィオレの直下に付けてはいるが、領主の命令はフィオレの命令よりも優先される。

未だ警戒を解かないアリアナたち3人がテレサの傍に付いた。

王女殿下の帰城指示を聞いた騎士団所属の護衛騎士たちもまた、テレサの元へ駆け戻る。

テレサの周囲を固めた一団が第1城門の内側へと移動していった。

最低限の対処を終えたフレイアは、横たわったままの娘へと目を落とす。

「全く、この馬鹿者が」

フィオレを抱き起こしたフレイアは、腕の中に有る温もりに安堵を覚えつつも零した。

自身の乗馬パンツに擦り付けてベタ付く血を拭った指先で、娘の乱れた髪を整えてやる。

ぴくりと体を震わせたフィオレが薄く目を開いた。