軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ⑨

魔力の残量不足で最後まで治しきれませんでした! なんて事態が有ってはならない。

患部が見えないこと自体が効率を悪くする要因だけど、この点は目を瞑るしかない。

医療の素人が体内の患部を直接見るためだけに、お腹を裂くわけには行かないのだから、却下だ。

他の方法で、見えない場所にある内臓の破損を効率よく治すなら、どうすれば効率が良くなる?

その「他の方法」が分からないから、魔石の魔力を通した「力押し」で何とかしようとして来たわけだけど、今は魔石も体内魔力も無くて、その力押しが出来ない。

アンリカさん自身の魔力を使って魔力不足を補うことは出来ないかな?

いや、無理だな。

他者の魔力には干渉出来ないのだから、アンリカさん自身の魔力を使うことは出来ないだろう。

・・・いやいや、待てよ?

魔石の魔力は 質を似せれば(・・・・・・) 働き掛けることが出来るよね。

それって、魔力の「質の違い」が、「抵抗」というか、「摩擦」というか―――、そう、「反発力」のようなものになっているんだよね?

こんなものは、あくまでも、仮説だけど、生きている人間でも、魔力の「質」を似せれば反発力が減って、拒絶されずに働き掛けることが出来たりはしないだろうか?

「魔法の効き」が良くならないか? ってことだけど、それって、「効率が上がる」ってことだよね。

「他者の魔力には干渉出来ない」って「魔法の定説」が本当に正しいとしよう。

生き物は体内に自分の魔力を持っていて、今は、その魔力に保護された内側に患部が有るわけだ。

だとすれば、それは、その保護領域の外側から患部に治癒魔法を掛けても、跳ね返される分の 損失(ロス) が生じていると言い換えられるんじゃないだろうか。

ロスを無くせば、同じだけの魔力残量でも、患部まで届けられる治癒魔法の比率は増えるはずだ。

論理(ロジック) は間違っていないと思う。

やるしか無い。

アンリカさんの体に両手を翳し、目を閉じて、私とは違う魔力を知覚する。

馴染みが有る感じの暖かい魔力・・・。

これがアンリカさんの魔力。

嫌な感じはしないから、テレサの解毒魔法は、しっかりと効いていることを確信する。

絵の具を混ぜてパレット上に色を作るように、私の魔力の質をアンリカさんの魔力の質に似せていく。

質を似せるほど、アンリカさんの魔力を明確に感じ取れるようになってきた。

それまで反発のような弾力性を感じていた魔力の表面に、かなり似た質になった私の魔力の手が、ずぶりと沈み込む。

内側へ入ると、さらにアンリカさんの魔力を鮮明に感じ取れるようになった。

あ。ここだ、―――。

アンリカさんの背中から、僅かに魔力が漏れているように感じる。

お腹の傷辺りからも、背中よりも少ないけど魔力が漏れているように感じる。

背中の、この位置の腹腔内は、やっぱり肝臓ではないだろうか。

さすがの私も人体を斬り刻んだことは―――、有ったね。

有ったけど、あれは風ジェットカッター魔法でバッサリやっただけだから、解剖とか解体とかじゃないし、人体の内臓器官の正確な位置なんて把握して無いよ。

ええい、肝臓だ!

これは肝臓に違いない!

肝臓だと決めた!

迷いを捨てろ!

他者同士の魔力は反発し合う。

魔力の質が違うからだ。

でも、魔力の質を似せれば魔石の魔力に干渉することが出来た。

シカの解毒実験でも、同じことが言えた。

生きた人間にも魔石の魔力と同じことが言えるなら、治癒魔法が他者の魔力に包まれた肉体に作用する際に、質の違う魔力で働き掛けるよりも、同質の魔力で働き掛けた方が「効き」は良いはずなんだ。

この論理を信じろ。

私自身が「できる」と信じないと、魔法は上手く発動しない。

アンリカさんの魔力の内側で、治癒魔法を発動させる。

失血死の場合、血液の不足で臓器がショック状態を起こして死に至ると、何かの本で読んだ記憶がある。

献血でも、牛乳瓶2本分も血液を抜けば貧血状態に陥って、それ以上の献血は献血側の命に関わるから抜かないとも聞いた覚えがある。

今のアンリカさんの出血量は、牛乳瓶2本分どころでは無かった。

イメージするんだ。

先ずは肝臓を治して大きな出血を止める。

肝臓の組織を拡大して、あの針先が細胞を壊し、引き裂いて与えた損傷を、逆再生で損傷を受ける前の状態に戻す。

「・・・戻って!」

イメージの中で、引き裂かれた血管がくっつき、破損した細胞組織が再生する。

背中側の魔力の漏れが止まったということは、効いているものだと信じる。

信じるしか無い。

あやふやな記憶の中から、毒を受けた際のアンリカさんの様子を思い出す。

わずか数秒間ってことは無いだろうけど、みるみる内に顔色が真っ青になって胸を押さえていた。

あれは、呼吸が出来ない状態だったのか、酸欠状態に陥ったのか。

あの即効性・・・。

考えられる毒の効果として、呼吸器系か循環器系の麻痺?

赤血球を破壊して溶血性貧血を起こさせる毒や、逆に血栓を作って臓器を破壊する毒も有るけど、血液に作用する毒なら、あそこまでの即効性は無さそうな気がする。

テレサの解毒で苦しむ症状が緩和できたのだから、臓器を麻痺させる毒だった可能性が高そうか。

外傷による失血が一番の問題だけど、血栓を作られていたら後遺症に繋がる恐れが有りそうだから、逆回しのイメージに、血小板が結合して固まった血塊を解して「血をサラサラに」と付け加える。

質を似せて私が伸ばした魔力の手の周りには、アンリカさん自身の魔力がある。

しかし、意志の無い魔石の魔力と違ってアンリカさんの魔力は私の意志には反応しない。

定説にある「他者の魔力には干渉できない」とは、こういうことか。

魔石の魔力との違いを体感的に認識できた。

今は一刻を争う治療の最中だ。

余計なことを考えないように頭を振る。

イメージの中の治療が進むにつれて魔力が消費されている感触が有る。

実際に治療が進んでいるものと信じて魔力を注ぎ込む。

私の体内魔力がどんどん減る。

平衡感覚が無くなって、頭がクラクラする。

胸が苦しくなって、呼吸が浅くなる。

グッと奥歯を噛みしめる。

そのくらい、何だ!

その程度で、私はアンリカさんを諦めたりしない!

絶対に、治すんだ!

気合いで残った魔力を振り絞れ!

汚い「針」がバイ菌を持ち込んでいる可能性を無くしたいから、私の意志が届く範囲の魔力に「綺麗になれ!」と命じる。

ついでに、脊椎へと残り少ない魔力を送り込んで、魔力の手でにぎにぎと脊椎をマッサージしながら、「造血細胞よ、活性化しろ!」と念じる。

違ったかな・・・。

造血細胞って脊椎に有るんじゃなかったっけ?

「血が足りないなら増やしてしまえ」って、考えたんだけど、私は獲物の「命を奪う」のが専門で、「命を繋ぐ」ための知識は、アテにならないからなあ。

魔力の枯渇で体調を崩すなら、体内の魔力と肉体は、密接に関係しているはずだ。

だったら、逆説的に、体細胞を魔力で刺激して、活性化させることも不可能では無いはずだ。

魔力が枯渇したせいか、頭が働かなくなってきたから、ヤケクソで「アンリカさんの体よ、元気になれ!」と、全力で念じる。

きっと、出来る。

出来ると信じろ。

イメージが魔力に働いて奇跡を起こすのなら、元気になったアンリカさんの姿を、より、具体的に思い描けば実現するはずだ。

出血さえ止まれば、回復薬の即効性パワーで小さな傷は治るはず。

回復薬の力では足りなくても、致命的な出血さえ止まって時間を稼げれば、テレサの魔力が復活して治癒魔法を掛け直すことが出来るはず。

お母様も、直ぐにアンリカさんの元へ戻ってくるはず。

バルトロイ様も治癒魔法を使えたはず。

今だけ―――、この瞬間だけを「繋ぐ」ことが出来れば、アンリカさんを助けることが出来るはず。

お願い。

死なないで。

アンリカさん。

居なくならないで。

そこで私の意識は闇の中へと沈んでいった。