作品タイトル不明
蒼焔 ⑦
――――――――殺してやる。
みんな、殺してやる。
大きく息を吸い込む。
「・・・“恒星”――――――――――――――――――――っ!!」
吐き出した叫びとともに、体内の熱が弾けて溢れ出す。
体の奥底から湧き上がる魔力は肉体の枠を超えて濁流のように噴き出した。
何度も何度も繰り返して脳裏に焼き付いたプロセスは、自然に再生されて一瞬の内に現実世界で形を取る。
溢れた魔力は巨大な“手”となり、伸ばされた“手”の中に渦巻く濃密な魔力は凝縮して、「水素」と共に「核」を生み出す。
疑似重力によって密度を上げた「水素」はパチリと散った火花に引火し、「核」に向かって落ちてゆく。
膨大な重力と圧力によって燃えさかる熱は、青みを帯びた白い“恒星”となって王都の上空に顕現した。
視界が白く染まるほどに強い「日差し」の中、抜き身の剣を振りかざした誰かが向かってくる。
フードの下の殺意に満ちた目と、目が合った。
血走った目の背後にも、外套をはためかせて迫る人影が見える。
――――“敵”。
コイツらは私の邪魔をする気だ。
振り上げられた剣が日光を映して銀色の閃きを反射する。
グンとスピードを上げたのは身体強化魔法か。
急速に間合いが詰まるけど、それじゃあ遅い。
何度も何度も繰り返してきた体験が、自然と右手の先に風を生み出して高速の渦を作っている。
右手を振って邪魔なモノを払えば、二つになって、どこかへ飛んで行った。
カッターに巻き上げられた血飛沫が霧状に散らされて風に舞う。
飛んで行ったナニカの後ろに有った人影は、背丈が半分ぐらいになっていて、バタバタと動いていた足を縺れさせて下半分だけが転がった。
上半分がどこへ行ったかなんて知らないし、どうでもいい。
――――“敵”。
私の頭の中には、それしか無かった。
次は、どれ?
ふわふわと現実感が無い地面を踏んで次の“敵”を求める。
「―――フィオレ!!」
「・・・はっ・・・!」
私を呼ぶお母様の声が耳に入って、お母様の姿を探す。
ぼーっとした頭で周りを見回す。
あれ? 私、何してたんだっけ。
ああ、そうだ。
敵を殺さなきゃ。
敵は、どこ?
お母様、どこに居るんだろう?
ああ、居た。
お母様が上を指さしてる。
上?
―――、うっ!
「・・・ぅわっ! マズっ!」
一気に意識が覚醒した。
広場の直上、いつもより低い高度に、煌々と“恒星”が青白く輝いている。
視線を落とせば、熱に灼かれて、真夏の路面みたいに石畳の地面から陽炎が立ち上っている。
周りを見渡せば、唖然と口を開けて頭上を見上げている群衆や、落ち着き無く足踏みしている軍馬の上の騎士たちが、手で目元に影を作っている。
数秒前まで危険な戦場から逃げだそうと押し合っていたので有ろう群衆は、前が詰まって足を止めていたので有ろう馬列の隙間にまで入り込んでいて、軍馬も身動きが取れないから暴走していないだけだ。
あの状態では馬上の騎士たちも馬から降りようにも降りられないはずだ。
肌がじりじりと炙られて熱い!
いつもよりも近い―――、いいや、大きい!?
何!? あれ!!
自分が創り出した“恒星”に背筋が凍り付く。
こんなに人が集まっている場所で、あんなものが爆発したら、大惨事になる。
敵も味方も群衆も、私自身だって生き残れるビジョンが頭に浮かばない。
「・・・ひっ!」
慌てて上空に向けて“恒星”を遠ざけるけど、慌てたせいか、いくらも遠ざけていないうちに“手”からポロリと“恒星“が落ちてしまった。
魔力の供給が断たれれば、起こる現象は、いつもの爆発だ。
視界の端に、お母様が空へ向かって、剣を握っていない方の腕を振るったのが見えた気がする。
備えていても衝撃波で視界がブレて、足元が揺らいだ。
周囲のあちこちから悲鳴が上がる。
通り沿いの窓ガラスが割れて、路面に降り注いでいる。
「ズドオオオオオオオオオン!」と、脳髄を揺さぶる爆発音に耐えられず、尻餅をつく。
くらくらする頭を抱えて熱い路面に伏せ、数瞬で押し寄せた爆風をやり過ごす。
あれ? 思ったより、爆風も熱も激しく無い?
顔を上げて周りを見れば、爆風が過ぎ去った広場に立ったままで居たのは、“紅蓮”や“白焔”に慣れているお母様と側近のみんな。
そして、ピーシーズだけだった。
襲撃者も、襲撃者と戦っていた騎士様たちも、地面に倒れ込んでいる。
ああ、馬も殆どが立っているね。
行軍中だった馬列は100メートル以上の範囲で多くの騎士様たちが落馬したみたいだけど、馬ごとひっくり返った騎士様は少なかったようだ。
興奮した軍馬を落ち着かせようと手綱を引いていたり、宥めようと愛馬の首を撫でていたりだ。
異常事態にも即座に対応を始めているのは、さすがに軍隊だね。
ただ、炎に灼かれて甲冑が熱を持ったのか、慌てた様子で兜を脱いで投げ棄てている騎士様が何人か居る。
あっ! そう言えば、ルナリアはどこに?
上体を起こして、少しだけ見晴らしがよくなった広場を見回す。
パニック状態は“恒星”が爆発する前よりもマシなぐらいだ。
突然の戦闘に恐慌を起こして逃げ惑っていた観衆たちは、地面に叩き伏せられた恐怖で縮こまっている。
衝撃波で三半規管がヤラレて立てないだけかも知れないけど、ウロチョロされるよりは転がっていてくれた方が邪魔にならなくて良い。
爆風が駆け抜けた余波の中でも姿勢を低くして髪を靡かせたお母様たちは、身を起こしかけた襲撃者たちを斬り伏せ続けている。
私と同じように衝撃波や爆音で倒れていて運良く爆風を避けられた襲撃者たちが、足元も怪しく、ふらふらと立ち上がり始めた。
そこへ跳び込んでいったのは小さな影だ。
「イェヤアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「「ぐわっ!」」
ルナリアが真っ直ぐに突き込んだ剣が、襲撃者たち二人を纏めて串刺しにする。
跳び込んだ勢いもそのままに、貫いた敵の胸部に着地したルナリアは、敵の体を足蹴にして剣を引き抜き、飛び退る。
猫のように空中でくるりと体勢を変えて綺麗に着地する。
小さな体躯と身体強化魔法の筋力を併せたアクロバティックな機動に、全体重を乗せた刺突。
敵が崩れ落ちるのも待たずに再び飛び込んで、擦れ違いざまに首元を目掛けて一撃ずつ剣を振るい、血飛沫を上げさせた。
ふわりと浮く鮮やかな金髪と宙を舞う鮮血が、場違いな美しさを感じさせる。
倒れる敵を見向きもせず、血振りして剣に纏わり付く血液を飛ばしたルナリアは、低く腰を落とし、次を目指して跳び込んでいく。
呆けている場合じゃ無い。
私も戦わなきゃ。
両手のひらで自分の頬を張る。
大人用の剣を振り回す敵を相手に、私のナイフでは不利だ。
ルナリアのような機動力が無い私では、 腕の長さ(リーチ) の差で負ける。
風ジェットカッター魔法を発動しようとしたところに、また一人、敵を串刺しにしたルナリアの声が飛んでくる。