軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ⑤

「そこそこの腕だと聞いているぞ。殿下にルナリアの分も併せて、レティアから届いた手紙でも御大と奥方殿の自慢が凄かった」

テレサがルナリアと私の顔をチラリと見てきて、ルナリアと私も顔を見合わせて、三人、同時に吹き出す。

ああ、分かる、分かる。

そんな気配は有ったよね。

テレサの上達を報告する度に、セリーナ様は嬉しそうだったし、ハインズ様の関心も高かった。

王女という恵まれた立場に甘えずに、日々、コツコツと努力を重ねる姪孫が可愛くないわけが無い。

テレサ自身の前でデレデレになる姿を見せなくても、お母様たちへの手紙ではデレデレだったらしい。

もっと褒めてデレデレになりたくても、テレサの立場が、態度に表すことを憚らせていたのだろう。

ハインズ様とセリーナ様がテレサを大切に思っていることは、テレサが使う馬の全てを、無償でウォーレス領産の上質な軍馬に入れ替えていたことからも分かる。

高品質なウォーレス領産の軍馬は、領外へ出せば、メチャクチャな高価で取引される資産なのだ。

テレサに掛けている期待がどれだけ大きいかを、聡明なテレサに理解できないわけが無い。

咳払いして笑いを納めたテレサが、一転、申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「ありがとうございます。その・・・。お父様から、お母様の治癒のお許しをいただくのに、お二人の協力をいただけるとありがたいのですが」

「何だ。まだ陛下と話していないのか?」

お母様が怪訝そうに首を傾げる。

「治癒の件に関しては、お母様が、お二人の帰りを待てと仰られまして」

「アマリリア様が?」

ハロルド様とお母様が顔を見合わせる。

「ふむ・・・。王宮対策か? アレイオスとミリアで黙らせられないとは考えにくいが」

「お墨付きじゃないか? 私とバルトロイが立ち会えば、誰も文句を言えん」

「お墨付き・・・。 後に繋げる(・・・・・) ため、か?」

思案顔のハロルド様に推察を告げるお母様にも、王妃様の真意は測り兼ねるのか。

「後」って、どういう意味だろう?

質問が口から出そうになったけど、慌てて口を 噤(つぐ) む。

丁度、再び観衆が沸いて、バルトロイ様の姿が見えて下馬するところだ。

「ルナリアとフィオレの拝謁は終わったのか?」

「まだよ!」

「・・・アレイオス叔父様が引き伸ばしてたっぽい」

「ヨシ。アマリリア様の治癒の件は、拝謁の場で許しを得るとしよう」

お母様がルナリアと私をグリグリと撫でて、流れ作業でノーアもグリグリされる。

「お願いいたします」

「任せておけ。―――、おい、ミリア!」

テレサに向けてパチリと片目を閉じて見せたお母様が、騎士団長閣下たちと話し込んでいるミリア叔母様のところへと、ハロルド様を引き連れて移動する。

他の騎士様たちと何か話すことが有ったのか、叔母様と騎士団長閣下は、少し離れた場所に移動していたようだ。

お母様たちの後ろに付いて、私たちに向けて小さく手を振るエゼリアさんとアンリカさんも移動する。

私たちも胸元で小さく手を振り返す。

エゼリアさんたちと一緒にお母様の後を付いて行きそうになったノーアは、私のところで捕まえておく。

テレサとバルトロイ様のご挨拶の場にノーアは拙いかと考えたら、アリアナさんがサッとノーアを抱え上げて回収して行った。

また後でね。ノーア。

さすが、アリアナさん。

タイミング良く、お母様たちが場所を空けたテレサの正面へとバルトロイ様がやって来た。

お母様たちほどでは無いけど、バルトロイ様の顔にも疲れが見えるね。

テレサの正面に立ったバルトロイ様は左手を後ろ腰に、右手を胸の前に添えて頭を下げる。

いかにも武人っぽい敬礼じゃ無く、この優雅っぽい礼の仕方って、魔法術師の礼ってわけでもなく、貴族男性の礼だよね?

大人の空気を纏ったイケメンがすると、様になる。

フード付きのローブとかを着た怪しい格好の魔法使いの集団が、揃って、こんな感じの礼をする姿は想像できないし。

ご実家の領軍を率いて従軍していたのに、騎士でも魔法使いでもなく、貴族としての礼の仕方を選ぶところが、バルトロイ様の立ち位置を表しているようで面白いと思ってしまった。

「殿下。東部地域、並びに、北部地域の平定より、帰還いたしました」

「ご無事のご帰還、お喜び申し上げますわ。バルトロイ叔父様」

バルトロイ様は風貌からしてお上品さが滲み出ているし、いかにも貴公子然とした仕草が違和感無さ過ぎて―――

「・・・ん? あれ?」

バルトロイ様が下げた頭の向こうの景色が、水面を通して見たように歪んで見える?

バルトロイ様の背後、頭の高さよりも少し高いぐらいの位置だ。

気になってしまった私の目は、その「 歪(ひず) み」に釘付けになっていて、―――見てしまった。

「・・・バルトロイ様! 後ろ!」

「「「「「―――!」」」」」

周囲の目が、一斉に私へと集まる。

私が上げた警告の叫びに、即座に反応したバルトロイ様は、ご自身の体を盾にしてテレサを庇う形で振り返った。

テレサとバルトロイ様の間に有った空間の分、一歩、下がり、テレサを背中で押す格好になったバルトロイ様とテレサの距離がゼロになっている。

バルトロイ様の体が後ろ向きに移動した分だけ「歪み」との距離が開いている。

景色の「歪み」の中から伸びてきた右腕が空振りした。

何も無い空中に浮いたように見える右腕が握っているものは、抜き身の大型ナイフだ。

しかも、ナイフの刃が何らかの液体で濡れているように見える。

「何者だ!」

右腕はバルトロイ様の誰何に答えず、右腕の「歪み」とは別に、新たな景色の「歪み」が生じる。

今度は、バルトロイ様の、腰の高さぐらいの位置だ。

私の身長から見れば喉元ほどの高さだから、よく見えた。

「・・・―――、また!?」

新たな「歪み」の位置は私から見て真正面の、「右腕」から1メートルぐらい右斜め下。

一歩踏み込むように、「右腕」が前進する。

再び振り下ろされた大型ナイフを、抜き放った剣でバルトロイ様が弾き上げている。

「くっ・・・!」

鞘から抜いた動きそのままに斬り上げた格好で、バルトロイ様の右腕は剣を振り上げた状態。

脇が完全にガラ空きになっているところに、二つ目の「歪み」から新たな凶器が、ヌッと顔を覘かせた。

刃渡りが30センチメートルも有る「巨大な針」のような凶器の名前はパッと浮かばないけど、この「針」、鎧を貫き通す用途の武器に似ている。

「・・・バルトロイ様! 下!」

「何っ!?」

バルトロイ様の右腕は斬り上げた剣がまだ勢いを残している状態で、バルトロイ様の腹部を狙って鋭い動きで突き出された「針」は、剣を振り下ろして弾こうにも間に合わない。

バルトロイ様の背後にはテレサが居て、避けることも出来ない。

止めなきゃ。

一番近くに居るのは、私だ。

今、動けるのは私だけだ。

私の位置からであれば、あの「左腕」に飛び付ける

「左腕」の動きに意識を集中する。

「針」を握る「左腕」に抱きついて止めようと、私の足が動き出した瞬間、横合いからぶつかってきたバルトロイ様の体に、私はルナリアを巻き込んで弾き飛ばされた。

「―――、グゥッ!」

「・・・ぐっ・・・!」

地面に叩きつけられた痛みに奥歯を食いしばって耐え、上げた目線に入って来たのは、鎧の胴を貫通して、深々と脇腹を抉られたアンリカさんの姿だった。