軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒼焔 ③

凱旋した討伐軍の第1陣を飾ったのは王都騎士団らしい。

馬列の先頭で軍馬に跨がっているのは、兜を脱いだ全身甲冑に身を包む偉丈夫だった。

あちこちから飛んでくる声援に、時折、軽く手を挙げて応えておられるようだ。

「叔父様ですね」

「・・・あの方が・・・」

あれが、お母様たちも一目を置く、物理的戦闘で王国最強の武人と呼ばれる方。

王都騎士団の団長を務めるテレサの叔父様。

手を振るテレサの姿を認めたらしい騎士団長閣下は、直ぐ後ろに馬を付けて居た側近らしき人に顔を振り向けて、声を掛けてから馬列の進路から逸れる。

先頭を行く大将が護衛らしき数騎だけを連れて抜けても、馬列は足並みを乱さず王城へ向けて直進していく。

待ち構えていた騎士様の傍で手綱を引き、足を止めた馬から降りて騎士様に手綱を預けた。

国家の英雄が至近へと来て観衆が沸き、片手を挙げて歓声に応えている。

律儀にファンサービスを終えた騎士団長閣下が、しっかりとした足取りで真っ直ぐにテレサの前へと歩み寄って片膝を突く。

「殿下。只今、帰還いたしました」

「ここは公式の場では有りません。お立ちになってくださいませ」

臣下の礼を取る騎士団長閣下に、テレサが困ったような笑みを浮かべた。

テレサの言葉に顔を上げたけど、体の大きな男性だと、膝を突いても目線の高さは私たちと変わらない。

「そうだったな」

フッと表情を緩めた騎士団長閣下が、すっくと立ち上がってテレサを見下ろす。

「お帰りなさいませ。叔父様。ご無事の帰還、とても嬉しく思いますわ」

「テレサも元気そうで安心したぞ」

武人らしい力強さで姪に笑みを返す。

目の前で見ると、本当に大きい人だな。

テレサの頭がお腹の辺りまでしか無いのだから、身長は2メートルを超えているはずだ。

縦横奥行きの全部が分厚い感じで、ここまで体格が良い人に会ったのは、ハインズ様以来だろうか。

全体的に線の太い、精悍な顔立ちの男性だ。

ハロルド様よりも少し年上の厳つい人だけど、姪を見る目差しは暖かく、柔らかい。

ハインズ様とお爺様が鍛えた方だとは聞いていたけど、身に纏っている空気が、いかにも武人らしくて、ハインズ様やお爺様と、とても似ている。

心持ち薄い色の短く刈った金髪に暗い緑色の瞳が、ウォーレス家と血の近いリテルダニア王国の色で、テレサの近親者であることがよく分かる。

この方はセリーナ様の甥で、ハロルド様の従兄に当たるんだっけな。

「叔父様は、ルナリア嬢とは面識がございましたか?」

「いや。ハロルドから自慢話を、散々、聞かされていたが、会うのは初めてだな」

「でしたら、こちらが、ルナリア嬢ですわ」

透かさず、乗馬服姿のルナリアがカーテシーする。

「ルナリア・ウォーレスにございます! お見知り置きくださいませ!」

「ドネルク・リヒテルダートだ。なかなかの根性と素質があるレディーだと聞いている。将来を楽しみにしているぞ」

「ありがとうございます! 励みますわ!」

太陽のような笑みを浮かべたルナリアに笑い返した騎士団長閣下の目が、ルナリアの隣へとスライドして来る。

「すると、こちらのレディーが?」

「紹介しますわ。こちらが、フィオレ嬢。ピーシス卿のご息女ですわ」

テレサの紹介を受けて、私もカーテシーする。

「・・・お初、お目に掛かります。フィオレ・ピーシスにございます。どうか、お見知り置きを」

「ドネルク・リヒテルダートだ。君のことは色々なところから聞いている。あのフレイアを骨抜きにした才女だ。今後にも期待しているぞ」

「・・・も、勿体ないお言葉、ありがとうございます。ご期待に添えるよう励みます」

色々なところって、ドコ!?

誰から何を聞いてるのか気になるよ!

背中に冷や汗が流れるのを感じながら、引き攣りそうな表情筋を叱咤して、全力で笑みを維持する。

騎士団長閣下の背後で歓声が一段と大きくなった。

私たちの目線が歓声に引き寄せられ、背後に目線を遣った騎士団長閣下が口角を引き上げる。

「来たな。再会に水を差すわけに行くまい」

丁度、行軍する王都騎士団の馬列が途切れたところで、続いて現れた第2陣の姿に私の胸もドキリと跳ねる。

人垣の向こうに、軍服に片肩掛けの白い外套を載せた金髪女性の姿がある。

「・・・お母様・・・!」

「叔母様!」

大きく手を振るルナリアの姿に気付いた馬上のお母様が右手の手綱を軽く引き、馬首をこちらへ向けた。

エゼリアさんたち側近がお母様に追随し、ピーシス隊本隊は王都騎士団のように、止まらず王城へと向かっていく。

馬上に有る、それぞれの顔を確かめて、全員が揃っていることに安心して膝の力が抜けそうになる。

今回の戦争では、連戦を重ねた割に、死者は10名も出ていないと聞いているけど、負傷者は100名近く出ていたはず。

あの回復薬の即効性で戦線復帰できない負傷ということは、よほど大きな負傷だったということだ。

身体の欠損ほど大きなケガを治せる自信は無いけど、可能な限り負傷者の治療を私も手伝おう。

今回は気温が低い冬場の、国内での戦争だったから、亡くなった騎士様や兵士さんの遺体をウォーレス領へ連れ帰ることができたそうだけど、これが暖かい季節や国外での戦争だったら、遺体が傷んでしまうから、故郷へ連れ帰ることも出来ずに現地で埋葬して、遺髪や遺品しか持ち帰ることが出来ないことも多いのだそうだ。

どれだけウォーレス領軍が強くても、戦争で有る以上、死傷者がゼロなんてことは有り得ないし、いつ、誰が帰ってこなくなるかも分からない。

戦争なんて起こらないに越したことは無いし、避けられないなら、一方的に勝てる状況を作り出さなければならない。

私の身近な誰かが居なくなる状況なんて受け止めきれる自信が無いからこそ、戦う前の下準備が重要なのだ。

どれだけ下準備をしても万全には程遠いし、何が起こるかなんて分からない。

ウォーレス領のみんなが、常に戦争に備えているのは、そういうことなのだろう。

みんなの生存を確かめることが出来たからこそ、私が背負うべき責任を、改めて強く認識する。

お母様が手綱を引いて馬の足を止めた。

ルナリアも私も、駆け出したいけど、テレサに倣って動けずにいる。

ひらりと下馬したお母様は手近な騎士様に手綱を押し付けて、私たちに向かって歩いてくる。

少し、痩せたかな・・・。

表情を緩めているけど、目の下に薄く隈が出来ていて、溜まった疲れが全身から滲み出して居るように見える。

お母様に続いて下馬したエゼリアさんたちも、疲れは見えるけど、誰も大きなケガをしている様子は無い。

やっとだ。

やっと、帰って来てくれた。

グッと胸が詰まる。

「お母様」と叫びたいけど、喉が詰まって声が出ない。

視界が滲んできて、お母様たちの姿が、よく見えない。

人前で、品がよくないとは思うけど、袖口でぐしぐしと零れる涙を拭う。

お母様が私たちの前へ立った。