軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ ⑳

「・・・ほほぅ」

「なんか、豪華ね!」

王都って、レティアの町よりもゴミゴミしたイメージだったけど、王城の前庭は、正面玄関ともなると想像以上にお洒落な感じだった。

イタリアだったかの王宮やインドの霊廟が、こんな前庭を持っていなかったかな。

なんか、もう、“ザ・王宮”って感じ。

いや。王宮なんだよ?

ただ、街からダイレクトに王城へ入った感じだったから、王宮ってイメージじゃ無かったんだよ。

この前庭は、インターネットで見た外国の王宮に見劣りしない豪華さで、ここが本当に王宮なのだと実感させられた。

「国外からの賓客も、この場所で受け入れますからね」

「・・・なるほどなあ」

素直に感心している私たちの様子に、ミリア叔母様が目を細めている。

「後ろを見てご覧なさい」

「「後ろ?」」

振り返って見えるものは、今、出て来たばかりのエントランスだ。

何かを抱えたお仕着せの人たちが走り回っている姿が見える。

「上よ。上」

「「上?」」

叔母様に指摘されて視線を上げると、エントランスの頭上の少し高い位置に、大きなバルコニーが張り出している。

車寄せの 庇(ひさし) かと思っていたら、違ったらしい。

「この広場は、閲兵式にも使われるのよ」

「はえ~」

閲兵式と言うと、行進する軍隊を王様が眺める軍事パレード的な・・・?

将軍様や総書記みたいな軍事独裁政権のイメージが浮かんで、頭を振って掻き消す。

違うか。

私は王国を、そこまで偏った統治形態だと認識しては居ない。

ずらっと整列した騎士様たちを、バルコニーから王様が激励する絵面を脳裏に想像する。

これは、アレだ。

「・・・ああ、出陣式みたいな」

「そうよ。王都騎士団が出陣する際にも、陛下が観閲されたわ」

つい、日本的な言葉選びになったけど、こっちでも出陣って単語は有るんだな。

王様が激励スピーチとか、するのだろう。

帰還してくる討伐軍はウォーレス領軍だけでも1万騎だから、全部で2~3万騎は居るはずだけど、この前庭の広さで収容できるのだろうか?

アプローチは城門まで続いて居るのだから、間隔を詰めて整列させれば収容できそうか。

馬って歩きながらでも糞をするから、式が終わった後の掃除が大変そうだよね。

「出迎えが終わったら、王城へ戻って貴女たちは正装に着替えなさい。次期当主の肩書きで、ルナリアちゃんとフィオレちゃんも謁見室での戦勝報告への参列が許可されたわ。あと、今回は特別にノーアちゃんとピーシーズもね」

「・・・おお。承知しました」

ノーアも参加させて貰えるのか。

3歳のノーアが、どの程度、覚えていてくれるか分からないけど、滅多に機会の無い経験は、どんな勉強よりもノーアやピーシーズの糧になるはずだ。

叔母様たちの気遣いが嬉しいし、王様たちの期待の大きさが窺える。

「戦勝報告って、何するの?」

「各方面軍の司令官が陛下に報告するのよ。それが終わって、漸く、戦争は終わり」

ルナリアの問いに、謁見室へと向かう廊下を見ながら、ミリア叔母様が穏やかな声で答える。

そっか。

やっと終わるんだね。

私の胸中にも、じわじわと実感が湧いてくる。

「・・・お母様も出る?」

「もちろん。西部方面はハロルド兄様が司令官で、姉様は副官の一人だったから、主役の一人よ。他には、中央および北部方面の司令官で騎士団長閣下と、東部方面の司令官でバルトロイ様も報告されるわ」

「やったわ! お父様たちの晴れ舞台が見られるのね!」

パパ大好きっ子のルナリアの喜びようを見ていたら、私も楽しみになってきたな。

「・・・エゼリアさんたちは?」

「一緒に参列するわよ。陛下の御前へ進むのは姉様たちだけだけど、方面軍の幹部だもの」

「そうなのね!」

「・・・おおぅ」

みんなが無事に帰ってきてくれれば、それだけで良いと考えていたけど、みんなが栄誉に浴することが出来るなら、それはそれで嬉しいものなんだね。

俄然、楽しみになってきた!

「ほら。ピーシーズと合流して、第1城門へ向かうわよ」

「「はいっ」」

叔母様が踵を返すのを認めた先導メイドさんが、再び先頭に立って先導する。

勢い込んだものの、馬車なんて無いんだけど城門まで歩くの? と思ったら、ミリア叔母様たちは左へ曲がった。

王城の壁際に近すぎて気付いていなかったけど、芝生エリアの向こう側の通路に大きな馬車が何台も停まっていて、馬車の傍にノーアを連れたピーシーズが揃っている。

アレイオス叔父様の姿は無いから、まだ王宮内を走り回っているのかな?

「ねえさま」

トコトコと歩いてきて抱き付いてきたノーアの柔らかい体を胸に抱き留めて、頭を撫でる。

「・・・おはよう。ノーア、ちゃんと眠れた?」

「にゃ」

「・・・よぉし、ヨシヨシ。良い子だね」

腰を屈めて頬ずりすると、ノーアがくすぐったそうにする。

先導メイドさんとは、ここでお別れのようだ。

上層階のややこしさについて語り合う機会は、お預けになるね。

いや、まあ。お出迎えが終わったら、直ぐに再会するんだろうけど。

昨夜は一緒に寝られなかった分、満足が行くまでノーアを撫で回して、馬車の傍に控えていたお仕着せオジサンの案内に従って、開けられたドアを潜って馬車に乗る。

なんか、この馬車、大きくない?

4頭牽きの、座席が3列になった、かなりの大型で、2台に分乗するだけでノーアを含めた私たち4人とミリア叔母様とピーシーズ10人が余裕で乗れてしまった。

横に4人の3列で、この馬車には大人12人が乗れるようだ。

繋がれた馬が縦横に2頭ずつで馬車本体も長いから、馬車の長さは10メートル以上だよ。

「この馬車、すっごく大きいわね!」

「賓客用ですわよ。側近や護衛を連れた方も多いですから、この大きさが必要ですの」

「・・・へぇ」

ルナリアが目を輝かせて、テレサがドヤる。

聞けば、王宮専用仕様の特別サイズなんだって。

国外からの賓客だと、信用できる人間は母国から同行してきた身内だけで、必然的に大所帯になるから、このサイズが必要になるらしい。

マイクロバスとまでは言わないけど、この馬車は大型ワンボックスカー的な位置付けだと理解した。

ここまで大きな馬車を見るのも乗るのも、テレサとミリア叔母様以外は初めての経験だ。

ピーシーズも、みんな珍しそうにしている。

「・・・こんなのが王都内を走ると迷惑なんじゃ?」

「この馬車が王都を走る際には要人が乗っているのは確定ですから、衛兵が大通りの通行を制限しますの」

「・・・そっか。制限すれば良いのか」

私たちが王都に入ったときも、騎士様や兵士さんたちが交通整理に出て来てたね。

あのときの人の多さや道幅を思い起こして、馬車の擦れ違いや右左折で立ち往生しないのかと疑問に思ったんだけど、交通規制でこの馬車しか通りを走っていないから、多少、馬車が馬鹿デカくても、街中を走るのに支障は無いのか。

馬車が動き出し、アプローチの左側道を走る。

点々と立つ彫像が右側の窓の外を前から後ろへと流れて行く。

馬車で移動するのは、ほんの数百メートルほどだけど、窓の外の景色を指し示してノーアに王国語を教えつつ、私は胸を高鳴らせる。

もうすぐ、お母様たちに会えるんだ。

王国語が随分と達者になったノーアにも「お帰りなさい」の挨拶を教えてあるから、出迎える準備は万端だよ。

これで、ようやく、戦争が終わるんだ。

お母様に相談したいことが、いくつも有るし、お母様なら、一緒に検証したがるだろうことが、たくさん有る。

家族がみんな揃って、エゼリアさんたちも居て、新しい明日に向かって、色々なことが始まるだろう。

それは、きっと、楽しいことで、わくわくする毎日になるはずだ。

私も頑張ってきた甲斐が有ったよ。

レティアへ帰るのに、テレサとは、一旦、お別れになるけど、きっと、また直ぐに会える。

テレサと私たちは、新しい計画を立ち上げたのだから、必ず、直ぐに会える。

レティアで生み出された新しい何かは、テレサにフィードバックされて、王国中に広がって行く。

それは、きっと、レティアの町のように王国中を豊かにして、活気と笑顔を増やしてくれるはずだ。

良いことだよね。

みんながお腹いっぱいにご飯を食べられて、安心して暮らせれば、王国内で争わずに済むはずだ。

みんなが幸せになることは、きっと、私にとっても嬉しいことのはずだから。

はああ・・・。

何から手を付けようかな。

やりたいことが多すぎるよ。

大切な人たちと一緒になら、どんなことだって出来る気がする。

車窓の外を眺めるノーアを撫でながら、ガラスに映るユルユルに緩んだ自分の顔を私は見ていた。

この時点の私たちは、第1城門で起こる事件を、誰も予測しては居なかったから。