軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ ⑲

「ここから先は、私から説明するわ。殿下、ここまでのご説明、お疲れさまでした」

叔母様の労いにテレサが不安そうな表情を浮かべる。

「いえ。上手く説明できていたでしょうか?」

「十分です。気分を損ねさせることなく、要点は伝えられていましたよ」

安堵を顕わに、胸に手を置いて息を吐いているテレサと、叔母様を見比べる。

「・・・やっぱり、国王陛下からの指示だったか」

「気付きましたよね」

申し訳なさそうに言うテレサに、私は首を振る。

「・・・そりゃあ、まあ。叔母様が口を挟まないんだから、そうじゃないかな、と」

「あら。失敗したかしら?」

チラッと叔母様を見ると、叔母様は小さく笑った。

「大丈夫よ! 私は気付かなかったわ!」

「自慢することでは有りませんよ」

「あぅ」

フォローしようとしたルナリアのおでこを、叔母様はツンと指先で突っつく。

「・・・どうして、そんなことに?」

「アレイオスが、陛下と貴女たちを会わせなかったから、かしら」

「・・・そんな気はしていました」

やっぱりか。

叔父様は、よほど上手くガードしてくれていたのだろう。

それはもう、回りくどく間接的に、テレサにお願いしなければならないほどに。

それって大丈夫なの? と、心配になるけど、そこが叔父様の手腕が優れているところなのだろうね。

「これって、陛下の心遣いなのよ。いきなり“演武を行え”と言われるよりも、心の準備が出来るでしょう? それで、今朝、殿下から貴女たちに上手く伝えるように仰られてね」

ふむ。王様は私たちに対して、かなり好意的に接しようとしてくれていると考えて良いかな。

お母様たちとの関係性を思えば当然なのだろうけど、協力できるところは協力するよ。

「・・・王都行きを伝えられた時点でハインズ様から言われていましたから、心の準備はしていましたよ?」

「そうだったの? さすが叔父様、よく分かっていらっしゃるわ」

目を細める叔母様に、グッと拳を握ってみせる。

「・・・全力でブチかましてやりますから、期待していてください」

「加減しなさいね?」

「・・・あぅ」

私もおでこを突っつかれた。

王様は全力をご所望なんじゃないの?

「ねえねえ、叔母様。北から帰って来るのに、何で東なの?」

「討伐軍の凱旋ですからね。大手門を通って正面から王城へ入るものなのよ」

仕来(しきた) りかな?

儀礼的なものとか、そういうの、分かんないな。

「・・・正面から入る理由があると?」

「国賓が王城へ入るときも正面よ」

そう言いながら、叔母様は私たちの背後を指した。

指された方向を見ると、エントランスを入った先に、真っ直ぐに広い廊下が続いている。

「正面から入って真っ直ぐに進むと謁見室が有るのよ」

「・・・謁見室、とは?」

単語のイメージ的には、王様とか偉い人に会う 儀礼(セレモニー) なのだろうけど、拝謁と、どう違うのだろう?

「公式な謁見を行う広間ね。公式客との謁見や公式行事で使う部屋よ」

「・・・へえ」

「はえ~」

ルナリアもイメージ出来たっぽい?

公式ってことは、あれだ。

よく有る赤絨毯で王様の椅子が置いてある部屋だ。

レティアの領主館で、テレサが王命を伝えに来た使者の騎士様と会うのにやった赤絨毯の、常設豪華版の部屋。

よく、王様が“玉座の間”? とかで、ずっと座っているシーンがあるけど、そんなわけ無いんだよね。

様々な執務で忙しい総責任者が何も無い広間でボケーッと座っていられるはずが無いし、今みたいな冬の季節だと、石造りの建物の駄々っ広い広間なんて、寒くて長時間は座っていられない。

玉座にヒーターが仕込んで有るとか、膝に毛布を掛けるとかしないと、底冷えして直ぐに風邪で寝込むことになるだろう。

よほど、大勢の人間がギュウギュウに詰まっているとか、書き入れ時の市場みたいに人の行き来が激しい場所なら兎も角、人の熱気は上へ逃げる。

異常な人混みになる特殊なイベントだと、コンクリート造りの駄々っ広くて天井が高い室内でも、天井近くにまで上がった人いきれが水蒸気の飽和状態を創り出すことがあるそうだけどね。

ネット掲示板で、スチームサウナでも無いのに屋内で雲が発生する”コミケ雲”とかいう特殊現象の書き込みを見て、そんなことが起こり得るのかと感心したものだけど、普通は、物理法則に従って暖気は上へ昇り、冷気は下へ降りる。

為政者の仕事は「決断すること」なのだから、業務内容は、ほぼ、書類の決裁という事務仕事なんだよ。

ハロルド様やハインズ様やお爺様が、執務室に缶詰にされているのが、それ。

王様だって、事務仕事は、当然、暖かい暖炉がある執務室でやるに決まっている。

そんな謁見室が有るという最奥が遠くて見えない廊下の先を眺めているルナリアと私に、くすりと笑った叔母様が、パチンと一つ手を打つ。

「さあ。そろそろ移動しますよ」

「ここで待つんじゃないの?」

叔母様の指示にルナリアと私は首を傾げる。

「今回の出迎えが行われるのは第1城門なのよ」

「・・・なんで第1城門?」

出迎えるなら、普通、ゴール地点じゃないの?

「見せるためよ」

「見せるって、何を?」

叔母様が、セリーナ様そっくりに、にんまりと目を細める。

これは企み事だな。

叔母様たちが考えそうなこと・・・。

「・・・ああ。演出?」

「正解」

ピッと私を指しながら、ウインクを飛ばしてきた。

第1城門ってことは、内側の貴族家居住エリアと外側の上級平民居住エリアの境目か。

王都の住民たちの前で凱旋してきた官軍司令官と家族の感動の再会を見せつけて、戦勝気分を盛り上げようって魂胆だな。

王様の”お願い”に沿うなら、演武に耳目を集めて宣伝効果を高めるための 地均(じなら) しってわけだ。

「だから、私たちは馬車で第1城壁まで移動して、城門前で出迎えるわよ」

「へ、へぇ・・・」

「・・・なんだかなあ・・・」

意外と俗っぽい演出というか、民心掌握を企図した 謀(イベント) の裏側を見せつけられて、というか、家族の帰還を喜ぶ気持ちに水を差されてルナリアでさえ冷静になってしまっている。

馬車まで先導してくれるつもりらしい先導メイドさんに付いて、王城の 出入口(エントランス) から 進入路(アプローチ) へと出る。

冬とは言え、数日間、ずっと屋内に慣れていた目に屋外の明るさが染みる。

屋外に出て照度の差違に目が慣れると、私たちの前には南側の出入口とは違った景色が広がっていた。

出入口から数段の階段を降りた先の広場と言った方が良いほどに広い前庭の真ん中に、幅100メートル近くは有るだろう通路があって、通路の両脇には、綺麗に刈られた芝生の植え込みが有って、植え込みの中には、一定間隔で台座に載った大きな彫像が幾つも配置されている。

台座の高さも合わせれば5メートル以上は有りそうな彫像は、槍を持つ騎馬や剣と盾を翳した勇ましい騎士ばかりで、武力を重んじる王国の在り方が現れているように感じる。

芝生の植え込みの更に両脇にも100メートルぐらい幅が有りそうな通路? 側道が、左右対称に有る。

野球場のグラウンドが5つ6つはスッポリと入ってしまいそうなぐらいに広い前庭の先、数百メートルの向こう側に、城門であろう建物と、城壁よりも一段低い城壁が見渡せる。