作品タイトル不明
王都へ ⑱
ルナリアが、こてりと首を傾げた。
「でも、演武って、何をすれば良いの? フィオレは“紅蓮”で良いだろうけど、わたしが出来ることって、風ジェットと身体強化だけなんだけど」
ああ、確かに。
実際、やると、凄いんだけど、物理攻撃が主体のルナリアの演武って、派手なようで魔法ほどの派手さは無いだろうから、ルナリアの凄さを分かって貰うのが難しい気がするね。
凄さを理解できるマニアックな人が、どれだけ居るんだろう?
目立たせるために、って、あんまり無茶をルナリアにさせられても困るよ。
「王宮で―――、と言うよりも、アレイオス卿が案を練るらしいですわ」
「そうなのね! じゃあ、叔父様にお任せするわ!」
私も頷く。
アレイオス叔父様が王宮を抑えた上での話なら無茶は言ってこないだろう。
ルナリアがヤル気になっているなら、それで良い。
どのみち、私のやることに変わりは無いし、予定通り、全力で王都の人たちの度肝を抜いてやるだけだ。
アレイオス叔父様なら観衆の中に間諜を紛れ込ませて大袈裟に騒がせるとか、宣伝効果を倍増させるぐらいは考えるのだろう。
日本で言うところの“サクラ”だ。
使い古される手には使い古されるだけの実績が有るものだ。
特に、軍人は不確実性が残る新しい技術よりも確実な効果が見込まれる“枯れた技術”を好むと聞く。
叔父様は、今は文官だけど、元はハロルド様の同僚の騎士様だったと聞いている。
だったら、世界は違っても、軍人としての考え方は近いのでは無いだろうか。
アレイオス叔父様が間諜を使っていることは、何となく私も気付いている。
叔父様と叔母様が“王家の目”の一つになっている気配も有るしね。
自由に王家居住区画へ立ち入れるミリア叔母様の特別扱いも、職務上の関係が有るなら納得が行く。
事前情報を集め、確実性を好み、根回しや工作で確実性を更に伸ばす?
敵に回したくないタイプだなあ。
詰め将棋みたいに追い詰められそうだ。
いつの間にか逃げ場が無くなってそう。
その手の遣り口ってミリア叔母様の好みな感じもする。
叔母様夫妻が味方で良かったよ。
そのミリア叔母様の背中―――、正確には先導メイドさんの背中に付いて階段を降りる。
この階段で3つ目の階段だ。
私の記憶違いで無ければ、私たちが泊まったのは6階だったはずだから、この階段を降りれば3階のはず。
もうね、上階から下階へ降りる階段さえも階ごとに位置が違って、先導メイドさんが居なかったら、私は上階へも下階へも行けず、遭難するに違いない。
そりゃあさ、攻め込んできた敵を困らせるために迷路のような街並みを作った例や、敵兵を集中させないために城内の通路を何度も曲げたり狭くしたりした例は有るよ。
小豆島だったかの街並みや松山城だったかの城内が、それだ。
でも、屋内で階ごとに違う迷路になっている巨大建築物なんて、マニアックな日本人ですら作らなかった。
敵に不便を強いるのは非常時の常だから、それは理解できる。
非常時に備えて常時に自分たちが不便を強いられるところまでやるのは、やり過ぎというものでは無いだろうか。
うーん。いつだったか、レティアの町で同じような話をお母様とした記憶があるなあ。
私の感覚がおかしいのか?
階段を下りきると、やっぱり3階層だった。
階段下の踊り場というか、ホールのような空間には槍を持った数人の騎士様たちが居て、上層階へ上がるときに預けたルナリアの短剣と私のナイフを詰所のような小部屋から持ってきて、返してくれた。
小物入れを付けた剣帯ごと預けていたので、剣帯を腰に巻いてから返してもらったナイフを提げる。
ルナリアと向き合って、剣帯や小物入れの位置がおかしくないか、チェックし合う。
待っていてくれていたテレサとミリア叔母様のところへと、ルナリアと二人で駆け寄った。
「・・・あれ? なんだかスッキリ・・・」
「行政区画に入りましたからね」
視界が開けた気がして見回すと、真っ直ぐ見通せる広い廊下が左右に伸びていた。上層階に較べて廊下の幅も広くなっているけど、何よりも、廊下の先が「真っ直ぐに見通せる」ところが上層階と違う。
「・・・ややこしいのは、上層階だけなのか」
「職務に差し障りますから」
「・・・だよねえ」
溜息雑じりに言ったら、先導メイドさんが肩を震わせている。
ほらぁ。先導メイドさんも、ややこしいと思ってたんじゃん。
恐らく、この先導メイドさんと私は良き友人になれるはずだ。
機会が有れば、ややこしい廊下の是非について語り合いたい。
また暫く廊下を歩くと、さらに下階へ下りる階段が有って、今度は1階層まで一気に下りることが出来た。
先触れの件は王宮全体に伝わっているらしく、明らかに官僚っぽい人たちや、お仕着せを着た多くの男女だけでなく、派手な装飾の衣服を着たオッサンたちまでバタバタと慌ただしくやっている。
「・・・おや? お城の出入口って、こんな感じだったっけ?」
「来たときと何か違うわね!」
ゴテゴテに装飾が多いわけじゃ無いけど、天井にも壁にも柱にも、記憶に有る出入口よりも装飾が多い気がする。
「王城へ入ったときは南出入口でしたからね」
「・・・違う場所なの?」
「ここは正面出入口ですから東側ですわ」
「・・・東?」
私たちが入城したのって、南出入口だったよね。
いつの間に、というか、廊下を曲がりまくって私たちの方向感覚は麻痺しているし、かなりの距離を歩いたから、自分たちが王城のどの辺りに居るのか全く想像も付かなかった。
それを言えば、王妃様のお部屋が王城のどの辺りに有ったのかも、私たちが泊まった部屋が王城のどの辺りに有ったのかも、全く把握できていなかったね。
入る出入口と出る出入口が違うぐらいで驚く方が筋違いだ。
「何か違うの?」
「王城の大手門は東側なのです」
「・・・大手門が? 敵国は西側と南側に居るのに、なんで、東?」
「「んん?」」
私が首を傾げたら、テレサとルナリアも首を傾げた。
「敵国の方角って関係あるの?」
「わたくしもお聞きしたいですわ」
あ、痛。しまったな。
ルナリアの疑問とテレサの疑問は興味の対象が違う気がする。
テレサの前で余計なことを言わないように、って、考えていたのに。
こっちと地球では、考え方が違う可能性が有るから本当に気を付けないとだけど、自分で口火を切ってしまった以上は仕方ない。
「・・・王都が建てられた頃って何も無い原野だったんだよね? 大手門って軍隊が出入りするから、出やすい方向へ向いていることが多いんだよ。この王都みたいに、出入りの邪魔になるものや移動に使う街道なんかが何も無い状態で建てたのなら、敵が居る方向へ向けたんじゃないかと思ったんだよ」
「ほえ~。そういうものなのね!」
素直に納得してくれるルナリアに対して、テレサは言葉の意味を反芻して吟味するような仕草を見せてから、ニコリと笑みを浮かべた。
「そういった意味でしたら、開拓すべき土地が東側だったからでしょうね。この王城は、統一国家時代に建てられたものですから」
「・・・ああ、そっか。当時は西側も南側も同じ国内だったのか。納得した」
うんうん、と、頷いて見せる。
ヤッバ。いよいよ本格的にテレサの中で疑念が確信に変わりつつ有るような気がする。
何の、って、私の記憶に付いてのだよ。
全力で、とぼけるしか無いんだけど。
すべき話が一段落したと見て取ったのか、ミリア叔母様が歩きながら後ろの私たちへと顔を振り向けてきた。