軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ ⑯

テレサも明るい表情で微笑む。

「一般の王国民もフィオレと同じように感じているようで、特務魔法術師は貴族の横暴に掣肘を加える“正義”を体現する存在ですから、立場の弱い平民層からの支持が、とても高いのですよ」

「・・・だろうね」

権力を笠に着て横暴を働く貴族は、やはり、とても多いらしい。

平民から見て、そんな貴族を懲らしめる正義の味方だと、特務魔法術師への国民の支持は非常に高いと以前にも聞いた。

そりゃあ、何の抵抗手段も持たない平民層から見れば、横暴な貴族なんて恐怖の対象でしか無くて、権力を持つ悪党から自分たちを守ってくれるヒーロー、―――ゲフンゲフン、ヒロインなんて、諸手を挙げて大歓迎するに決まってる。

だからこそ、心配にもなる。

「・・・もう一方で、お母様は貴族や騎士様から、総じて怖がられてるよね? お母様を快く思っていない貴族の方が多いんじゃないかな」

「えっ? そうなの?」

ルナリアよ。なぜ、そこで驚く?

「お母様は爵位―――、家格の差なんて存在しないかのように振る舞うよね? 典型的なのが、バルトロイ様だよ。貴族最高位の公爵家次期当主のバルトロイ様に対して、子爵家当主でしかないお母様が横柄な態度を示して、バルトロイ様もお母様に暴言を吐かれても、何も言わないよね?」

「ああ、それはそうよね。結構、酷いこと言ってると、わたしも思ったわ」

指摘されて、思い当たったルナリアも納得した。

他の人に対しては、そこまででも無いのに、バルトロイ様に関しては、お母様は当たりが、とてもキツい。

私たちも困惑する、というか、ちょっと可哀想に感じるぐらい。

「・・・あの態度って、お母様がバルトロイ様の弱味でも握っているのかと思っていたけど、特務魔法術師のお母様が仕えているのは国王陛下ただお一人で、国王陛下の権力の執行者がお母様だからと考えれば、貴族たちの態度も納得が行くんだよ」

「あら。バルトロイ叔父様の場合は惚れた弱味ですわよ」

「・・・えっ!」

「そうなの!?」

サラリと投下された爆弾発言に、コロコロと笑うテレサを私たちは二度見する。

傍観の姿勢を崩さないミリア叔母様もコロコロと笑っているということは、叔母様も知っていたのか。

先導メイドさんは、いつの間にか、これ見よがしに自分の両耳を自分の手で塞いでいる。

知ってはいけない情報や関わってはいけない情報に触れてしまいそうになったときは、こういう反応をするらしい。

ノーアのところへ連れて行ってくれるメイドさんを困らせたいわけでは無いから、私の気遣いが足りなかったね。

「私が知る限りでも、三度、求婚して、毎回、手ひどくフラれていますもの」

「三回も!?」

「・・・それを全部知ってるんだ?」

ルナリアと私の背筋を戦慄が駆け抜ける。

プロポーズって、人生を左右する大勝負だよね?

挫けないバルトロイ様の鋼の心と、プライバシーの深いところまで掴んでいる情報力と、反復爆撃を敢行するテレサの、全てに 戦(おのの) いた。

「王家にも、その程度の情報収集能力は有りますのよ。バルトロイ叔父様には知っていることを伝えていませんけれど」

「・・・おおぅ・・・」

何気にバルトロイ様の扱いが酷い。

私の表情から心情を察したのかテレサは首を振る。

「フレイア卿が特務魔法術師の任に就いていて、さらには南部国境の要であるウォーレス家の主戦力に求婚して引き抜こうとしたのですから、この程度で済ませていることに感謝していただかないと」

「・・・ああ、なるほど」

お母様のバルトロイ様に対する当たりがキツいのには、プロポーズに王家が抱いた心情に因るところも影響しているのか。

「叔父様が爵位継承を投げ棄ててピーシス家に婿入りすると言うのなら、王家も後押ししたのですけれど、クローゼリス公爵家のお家事情も有って、叔父様もそこまでは踏み切れなかったようですわ」

「・・・それでも、お母様を諦めきれずに求婚を繰り返したと?」

お母様は才女だし、美女だし、バインバインだし、分からなくも無いな。

「それは、どうでしょうか。叔父様の場合、フレイア卿ご自身に懸想されたのかどうか、怪しいと私も思うのですよね。酷い言われようをしても、大して気にされていないと思いますし」

「・・・んん? バルトロイ様には、何か、別の目的が有ると?」

お母様自身を好きになってプロポーズしたわけでは無いのなら、何かを企んでいる?

悪人っぽい感じの人では無いと思っていたけど、私の目はフシ穴だったか。

困った顔でテレサは首を振る。

「いえ。そうでは無く、叔父様は―――、その、”魔法術式バカ”ですから。根底の部分で人間の恋慕の情を理解しておられるのかどうか・・・」

そう言えば、血の効果や魔石使用法のときに、バルトロイ様に教える必要は無いとお母様が言ってたね。

教えたら王都へ帰らなくなるって。

「・・・お母様の魔法に対する興味を恋愛感情と誤解している可能性が有る、のかな?」

「可能性、では無く、王家では、そういう認識をしていますわ。一人の魔法術師として実力を認めているフレイア卿を独占したいから求婚したのだろう、と。そういう部分で、結構、ズレていらっしゃるのですよ」

えええ・・・。

恋愛感情ではなく、魔法の独占欲でプロポーズするの?

バルトロイ様は、学者さんタイプと言われれば、そう見えなくも無いか?

学者さんタイプは浮世離れしていて、ちょっとズレている、と、どこかで聞いた気がするけど。

「・・・それほどまで、なんだ?」

「考えてもみてください。あの見た目で、家柄も良く、陛下から直々に魔法術士団団長を拝任するほどの、フレイア卿に次ぐ実力者ですよ? それほどの超・優良物件が、三十路に乗っても浮いた噂の一つすら無いなんて、普通だと思いますか?」

「・・・納得した」

バルトロイ様って、少女マンガに出てくる王子様っぽいからね。

次期公爵様って言っていたし、モテないわけが無い。

それでも浮いた噂が出ないとしたら、バルトロイ様自身が結婚に興味が無くて、モテている自覚も無い?

しかし、有るのか? そんなこと。

「次期」公爵様ってことは「現」公爵様がご健在なのだろうし、普通に考えれば、嫡男に三十路を過ぎるまで許婚の一人も宛がわないわけが無いだろう。

私とアスクレーくんの例に照らせば、許婚を宛がうなら歳が近い御令嬢だったはず。

その許婚さんは、どこ行ったの?

バルトロイ様は30歳を大きく超えているはず。

普通に考えれば、お相手の御令嬢も三十路に乗っているはず。

公爵家の嫡男と釣り合うほどの御令嬢が、三十路に乗るまで待っていられるとは思わない。

てことは、破談になったと考えるのが妥当だろうね。

ほんと、どうなってるんだろう? あの人の常識。

エゼリアさんたちみたいに、旦那様を力尽くで矯正する気概と実力を併せ持った御令嬢しか、バルトロイ様との結婚で幸せになれる女性は居ないんじゃないだろうか。

公爵家の人たちも、ビックリしただろうね。

ようやく結婚に興味を示したと思ったら、お相手の女性にでは無く、魔法に対する興味だったとか。

「王家の認識」ということは、王様だけじゃなく、王妃様も、テレサも、そう言う認識なんだろうね。

王家はバルトロイ様のプロポーズに怒っているのでは無く、呆れている、と受け取った方が良さそうかな。

うーん。悪人では無くても常識人でも無いんだな。

バルトロイ様を常識人っぽく認識していた私の目は、どうやらフシ穴だったようだ。

アスクレーくんも学者さんタイプっぽいし、ヤバいか?

いや。アスクレーくんは矯正すれば、まだセーフなはず。

アスクレーくんの教育にセリーナ様やお婆様が乗り出した理由は、バルトロイ様の件が影響してる?

現代の日本社会みたいに、結婚相手を自分で見つけてこい、みたいな文化じゃないことに、フシ穴の私は感謝すべきだろうか。

お婆様たちが教育に関わるなら、悪い方向には育たないはずだ。

ともあれ、ギスギス、ドロドロした話じゃ無くて良かったよ。

王家とその親族の内輪揉めになんて巻き込まれたくないものね。

それが自分を巡ってのことともなれば、お母様の当たりがキツくなるのも当然だなあ。