軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ ⑮

2時間ほど経って、お茶を飲んでいたら、先触れが着いたとメイドさんから報された。

思ったよりも早くに届いた朗報に三人で大喜びだよ。

服装チェックを受けた上でミリア叔母様に連れられた私たちは、王族居住区画を出て長い長い廊下を歩いて王宮内を移動する。

「・・・また曲がり角」

迷う素振りも見せない先導メイドさんの後ろに付いて私たちも角を曲がる。

当然のように、角を曲がった先も、長い廊下が延びていた。

このメイドさん、本当に迷ってるわけじゃないんだよね?

「今、どこを歩いてるのか分からないんだけど!」

「そうでしょうね」

眉尻を下げるルナリアに、テレサがコロコロと笑う。

私の眉尻も下がっていると思う。

右へ左へと何度も廊下を曲がった上に四つ角も何度か有ったので、王族居住区画を出てから自分たちがどう歩いてきたのか、ルナリアが言うように、すでに分からなくなっている。

ルナリアと私は、そもそもの王城内の配置を知らないわけだけど、数分も歩かない内に分からなくなるなんて、どうなってるんだ。

ここから王族居住区画へ戻れと言われたら、確実に迷う。

前を見ても後ろを見ても特徴の無い同じような廊下だし、直ぐに現在地が分からなくなるんだよ。

先導メイドさんたちは、こんなに複雑な構造の建物の中で、よく迷子にならないな。

「気付いているとは思いますけれど、意図的に複雑な構造になって居るのですわよ?」

「・・・何で、そんなことを」

ええ・・・? 家の中で意図的に迷わせてるの?

そんな気はしてたけど、本当にそうだったのか。

食事のときは先導メイドさんが迎えに来るし、おトイレやお風呂は居室内に有るから不便は無いんだけど、迷子になるのが怖くて一人では部屋から出られなかったんだよ。

備え付けの呼び鈴を鳴らすとメイドさんが来てくれるから、ノーアに会いに行くときも、ちゃんと先導メイドさんにお願いしていたし。

「下層階には何がありましたか?」

「・・・行政区画。―――ああ。王宮貴族も信用していないのか」

下層階に勤める王宮貴族は許可無く上層階へ上がることを許されて居らず、上層階へ向かう階段の手前で警備の騎士様に追い返されるんだっけ。

上層階はブラックボックスで、それは、王宮に勤める貴族たちを警戒しているからに他ならない、と。

王族居住区画に招かれた賓客も、勝手にウロウロして欲しくないってことかな?

廊下の配置が複雑になっているのは、侵入者を自由に行動させないためだったとは。

意図は理解できたけど、そこまでするものなのか。

「秘密ですよ?」

「分かったわ!」

冗談っぽく言うテレサに私も頷く。

王宮貴族すら警戒する上層階へ顔パスで出入りして王族居住区画への立ち入りを許されている、ミリア叔母様の信用の高さが窺えるね。

当のミリア叔母様は、と言えば、先導メイドさんに従って私たちの前を歩きながら、私たちに顔を振り向けてパチリとウインクを飛ばして来た。

「この王城って、東西の奥行きも、南北の奥行きも、1キロメテル近く有りますのよ」

「・・・一つの建物で?」

「増築を繰り返して、幾つもの区画に分かれては居ますけれど、一つの建物ですわ」

テレサからもたらされた情報に頭の中で暗算する。

南東の角から北西の角まで対角線に建物内を移動したら、建物内の移動で単純に2キロメートル。

大人の足で1分間に80メートル歩くと仮定して、ええっと、25分間も掛かる計算だ。

同じ建物の中で1枚の書類を届けに行って帰って来るだけで、50分間も掛かるの?

「・・・デカすぎ」

「そうでしょう? でも、王国内に王城は一つで、王国全土の権力と統治の全てが王城に集中しています。さらには、王都騎士団も王城内に本拠地を構えていて、国の食料庫も王城内に有ります。これでも、王城としては、決して広くは無いのですわ」

「・・・はえ~。スッゴい」

まさに王国の中心なわけだ。テレサの言う「権力」とは「政治」、「統治」とは「行政」かな?

そこに「武力」と「備蓄」も一緒に集中していると。

あれ? でも、テレサとお兄さんみたいに、仲が良くない場合は、どうなるんだろ。

地球の君主制の国だと、どうだったかな?

君主制が続いている国なんかだと、家族単位で住む家が違ったりしたんだっけ?

よく分かんないな。

日本の天皇家だと、皇太子様やご親戚の宮家は、それぞれの離宮を持っていたんじゃ無かったかな?

テレサのお兄さんを警戒しておく必要が有るなら、お兄さんが王都のどこに住んでいるのか聞いて置いた方が良いのか。

「・・・そう言えば、王家って離宮みたいなものは有るの?」

「6階層がそうですよ。他国のように、別々の建物になっていないだけですわ」

「・・・そっか。王族だけで住むなら6階層だけでも広さは十分そうだもんね」

「必要なら、5階層も使えますし」

テレサと話していたら、袖口をくいくいとルナリアに引かれた。

「りきゅう、って何?」

「・・・王城とは別の、王家の家、かな」

「ふぅん?」

良く分かっていないのではなく、ルナリアは興味が無い感じかな。

「国によっては、王族一人ひとりが離宮を与えられるそうですけれど、お金も人も無駄ですからね」

「・・・そういう考え方も有るのか」

家族仲が良くて、相互の危険が無いのなら、ひと纏まりで居てくれた方が、護衛する側も楽だよね。

建物を維持するだけでも、お金と人手が必要になるだろうし、確かに、無駄と言えば無駄だ。

「・・・その割に、王都の防御は薄そうだよね」

「元々の、立地が立地ですから」

立地? ああ、「攻めるに易く守るに難い」の、アレか。

「・・・王都単体での防衛は最初から棄てている?」

「そのための領地貴族です」

「・・・領地貴族を信用している、と―――、いや、そうじゃないよね?」

さっき、テレサは、王宮貴族を、―――、いいや、“王宮に出入りする貴族”を信用していないから、王城内の構造を複雑に作ってあると言っていたはずだ。

かなり 繊細(センシティブ) な話題に踏み込んでいるけど、ミリア叔母様は何も言わない。

テレサが勝手に喋っていると言うよりも、何らかの政治的意図を疑ってしまう。

何せ、裏で政治を動かす現在の社交を統べているのはミリア叔母様だ。

疑いながらもテレサとの会話へと意識を戻す。

「領地貴族は王都防衛のための城壁であり、壕なのです」

「・・・各領地貴族に自領の防衛をさせることで、王都防衛の代わりをさせている?」

「その通りです」

それって、防衛体制として成り立つのか?

信用できる家臣ばかりなら成り立つのだろうね。

けど、「王宮貴族も信用してない」って話をしたばかりじゃん。

「・・・でも、今回みたいに、領地貴族が王国の法を破って他国の影響を受けたら―――」

そこまで言葉にして、思い至った。

「・・・あっ。だから、特務魔法術師なのか」

「正解です。王家の治世を揺るがす貴族の存在を、王家は許しません」

「・・・そういうことか」

お母様の役目に思い至って、驚くと同時に納得が行った。

「そういうことって、どういうこと?」

「・・・お母様の権限が強すぎるんじゃないかと思って、不思議だったんだよ」

「強すぎるの?」

ピンと来なかったらしいルナリアが首を傾げる。

お母様から特務魔法術師の権限と裁量権を聞いて、以前、私は、「まるで地球で言うところのゲシュタポだ」と感想を持ったはずだ。

「・・・特務魔法術師ってね。貴族でも逆らえない、とんでもなく強力な捜査権と、私刑とも言える裁判権まで、国王陛下から直々に与えられている。それって、“人間の形をした権力”だよ」

「上手く言い表しますね」

「・・・そう? ありがと」

テレサの苦笑に、一応、お礼を言っておく。

しかし、ルナリアは納得が行かない様子を見せた。

「権力が強くちゃダメなの?」

「・・・お母様は、そんなことしないけど、遣りようによっては無実の人でも恣意的に陥れて、有罪だと決めつけて処刑することだって出来る。政治的な相違どころか、単純な好き嫌いで誰かの命を奪えてしまうんだよ」

「叔母様は、そんなことしないわ!」

私の言い草にルナリアはムッとしたようだ。

地球での良くないイメージも有って、私の言い方がアレだったかも知れないけど、事実は事実だ。

「・・・うん。しないよ。でも、考えてみて? お母様が国王陛下から与えられている権限って、極端に言えば、“アイツの顔、好みじゃない”って理由だけでルナリアを殺しても、“アイツは悪いことをした”とか、それっぽい理由をでっち上げれば、王国の法律に関係無く罪に問われないんだよ。そのぐらい強い権力を持ってる」

「むぅ・・・。それは怖いわね。確かに強すぎるかも」

自分に当て嵌められた具体的状況を挙げられて想像できたのか、ルナリアも微妙な表情になる。

「・・・でもね。初めて会った日から、私はお母様が悪い人だと感じたことは一度も無い。強くて優しくて賢くて綺麗で、曲がったことを嫌う、とても公正で、とても正直で、とても素敵で、とても格好いい人だと思った」

「そうよね!」

「・・・うん」

パッと表情を明るくしたルナリアと二人で笑い合う。

責任感が強いお母様は、人の道を踏み外す人じゃないと信じられる。

きっと、王様は、”だから、お母様”に任せたのだろう。

王様は、お母様の良心と自制心の強さも見込んで、職務を与えたのだと想像できる。

恐れられ、気持ち悪がられ、異物として扱われる疎外感は、日本で体験してきた私も知っている。

アレ、気にしていないつもりでも、結構、傷付くんだよ。

だからこそ、お母様の心の強さにも、尊敬の念を抱かずにいられない。

何せ、たかが原始人生活で爪弾きにされた私と違って、悪人の命を本当に奪ってきたお母様に対する風当たりは、私なんかの比では無かったはずだから。