作品タイトル不明
王都へ ⑭
テレサのお友だち枠で、お客様扱いの私たちは、本来は、ファーレンガルド家の王都邸にお世話になるか、一応は今でも存在するという、昔、ハロルド様が使っていたウォーレス家の王都邸に泊まるかの二択だと思っていたのだけど、テレサの鶴の一声で王宮に泊まることになってしまった。
何というか、ゴテゴテと派手な客室に泊まることになって、レティアに居たときのように、3人で一緒に寝る、なんてことは許されなかった。
許されなかったのではあるが、すくすくと逞しく育ったというか、レティアで生活している間に何やら思うところが有ったらしいテレサに、そんな王宮の常識は通用しなくなっていたようだ。
先導メイドさんに先導して貰ってノーアたちの様子を見に行った後、私が押し込まれた部屋に、パジャマ女子会的にテレサとルナリアがお喋りに来て、そのまま寝落ちするものだから、現実的にレティアに居た頃と同じように3人で川の字になっていた。
レティアへ来る以前のテレサからは考えられない行動様式の変化でメイドさんたちが混乱している内に、お小言を口にしたメイドさんにテレサが不機嫌に見える対応を取ったものだから、メイドさんたちは言論封殺されてしまっている。
完封だよ。
元来、テレサは不平不満を表に出すタイプでは無いので、テレサの変貌がメイドさんたちに与えたインパクトは強烈だったようだ。
おろおろと狼狽えている間に部屋から追い出されているのだから、きっと、強烈だったのだろう。
当のテレサはメイドさんたちの反応など歯牙にも掛けておらず、怒っても居ないのだけど、一撃で全てのメイドさんたちを黙らせてしまったテレサに、私は戦慄を覚えざるを得なかった。
「我が儘の使いどころは考えませんと」と可愛く微笑むテレサ、恐ろしい子!
王都到着初日に私たちを放置してどこかへ行ってしまったアレイオス叔父様とミリア叔母様は、翌日には現れて、現れたと思ったら直ぐにどこかへ行ってしまったりと、本当に忙しそうにしている。
この調子で育ったのだから、アレースお兄様やアスクレーくんがマイペースに育ったのも、理解せざるを得なかった。
両親ともにフリーダムなんだから、そりゃあ、自分の好きなことに没頭するようになるよね。
私は本気でアスクレーくん矯正計画を練る必要が有りそうだ。
一族の団結力が特色のウォーレス家で、あのフリーダムさはアスクレーくんにとってマイナスになる恐れが有る気がする。
エゼリアさんたちじゃないけど、アスクレーくんが戦場で孤立して早々に未亡人とか勘弁して欲しいからね。
鍛えるし、矯正するよ。
私もウォーレスの女になったわけだから、未来の旦那様を物理的に矯正するのは未来の妻の使命なのだろう。
大義は我にあり!
覚悟しておけ、アスクレーくん!
そんな感じでお忙しいミリア叔母様は、3人娘が朝食を摂っているダイニングルームへ唐突に現れて、澄まし顔でお茶を飲んでいる。
食堂じゃないよ!
ダイニングルームだよ!
違いは、装飾品の数かな。
食堂ってイメージでは無く、ダイニングルーム。
どうでも、いっか。
ちなみに、王様から、まだ拝謁のお声が掛からないのは、アレイオス叔父様の仕業らしい。
おかしな言質を取らせないために、あれやこれやと理由を付けたり王様に急ぐ案件を持ち込んでは、王宮官吏たちが設定しようとする拝謁のスケジュールを先延ばしにしていたそうだ。
叔父様も、とんでもないな。
テレサも朝食前に、王様に呼ばれていたけど、30分間ほどで帰って来た。
温かいお茶で一息つけたのか、手にしたティーカップをソーサーに置いた叔母様が私たちの顔を見回す。
「恐らく今日―――、遅くとも明日には、姉様たちが帰って来そうよ」
「本当っ!?」
「・・・おおっ」
おっと、ルナリア?
嬉しい驚きだったのは私も同じだけど、ナイフフォークを両手に握ったままで、椅子を蹴倒して立ち上がるのは、止めようね?
テレサは、もう、ほぼ食べ終わってるし、私は椅子が倒れたぐらい気にしないから良いけど、ルナリア自身は2周目の朝食が、まだ、半分ぐらい残ってるじゃん。
この場にセリーナ様が居たら、お説教コースだったよ?
「ご無事そうですね」
「ええ。特に大きな問題も無く」
ミリア叔母様も安堵している様子で、安堵した様子のテレサに向かってニッコリと微笑む。
北部地域へ向かう前に王都周辺の反動勢力を片付けていたというテレサの叔父様―――、王都騎士団団長閣下は、しっかりとお仕事を終わらせていてくれたらしい。
ハインズ様とお爺様が直々に鍛えた人というだけ有って、評判通りの有能な人なんだね。
「王都へ入る1~2時間前には先触れが到着するでしょうから、いつでも出迎えに出られるように準備しておきなさいな」
「はい」
「分かったわ、叔母様!」
「・・・承知しました」
私たちの、三人三様のお返事に、ミリア叔母様がニコリと微笑む。
用意と言っても、ルナリアと私は腰に提げていたナイフと剣を、上層階へ上がるときに預けさせられているから、下層階へ降りるときに自分の武器を返してもらうだけなんだけどね。
王都へ戻ってからドレス姿がデフォルトに戻ったテレサは、起床後の湯浴みを終えた時点で完璧に身繕いされている。
ルナリアと私は正規の場では無いから乗馬服のままだ。
そうそう。”武器”で思い出したよ。
森での頑張りが評価されて剣術の訓練が進んでいるルナリアは、レティアから旅立つ前にナイフを卒業して、短剣の帯剣をハインズ様に認めて貰ったんだよ。
”短剣”や”長剣”という分類は、刃渡りの長さで変わるらしい。
ざっと聞いた感じ、確定的な分類の定義は決まっていないけど、刃渡りが片腕の長さ未満ぐらいだと”短剣”って呼ぶみたいだね。
まだまだ体が未熟で体格が小さいから、ルナリアが与えられた剣は短めの短剣だけど、一端の騎士様ぐらいに剣を振れる実力は有るらしい。
まあ、身体強化魔法を使う大人と剣で打ち合えば地力の差で負けるんだけどね。
そこで一計案じた負けず嫌いなルナリアは、前に見た“ 縮地(しゅくち) ”のような瞬間移動っぽい突進を使ったヒットアンドウェイ戦法で戦うんだよ。
私の“恒星”のデモンストレーションのときにルナリアが見せた移動距離は5メートルほどだったけど、今では身体強化魔法に慣れて、20メートル以上の間合いを一足飛びに詰めることが出来るようになっているらしい。
正面から真っ直ぐに突っ込んでくるだけなら、距離感が分からないだけで見失うことは無いけど、1回2回とフェイントや回避を入れられると、離れた場所で見守っていても、ルナリアの姿を、一瞬、見失う。
マーミナさん・マーリカさん姉妹と森で訓練していたのは、コレだったそうだ。
剣を突き出すスピードに瞬間移動ばりの移動速度が乗って、その運動エネルギーが一点に集中された剣先は、金属鎧なんて紙みたいに貫いてしまう。
それを実証して見せたのが、お披露目のときのデモンストレーション。
甲冑の中の丸太まで刺突が貫通していたもんね。
全てを薙ぎ倒すパワータイプのハインズ様やお爺様とは対極に在るような、神速の一撃。
なかなかに格好良いし、私にアレを真似できるかと言えば、極めて怪しいと感じている。
やるなあ、ルナリア。
やっぱり、コトコトと500年間、筋肉を煮詰めて生まれた脳筋界のサラブレッドは天才だった。
お爺様たちの話では、ここまで速度を突き詰めたタイプは、エゼリアさんたちお母様の側近の中にも居ないんだって。
ルナリアの動きは、身体強化魔法で強化した目で追えても、体の反応速度が追い付く前に懐に入られる。
今は体が小さいから剣を振っても軽い攻撃にしかならないけれど、全体重と運動エネルギーが乗った刺突なら大人相手にも十分に通用する、と。
お爺様たちが、そこまで評価するだけ有って、朝の運動時に領軍の騎士様を捕まえて手合わせしても勝ってしまったらしい。
私は考え事をしながらジョギングしていたから見ていなくて、ルナリアに膨れられた。
5歳児に負けた騎士様が受けた衝撃は並大抵のことでは無く、目の色を変えて訓練に没頭し始めたそうだよ。
そこで前のめりに頑張ろうとするところが脳筋の巣窟・ウォーレス領らしくて笑ってしまった。
魔法が一段落ついたら、私も剣術の訓練に力を入れるつもりだけど、遙か先を行くルナリアに追いつけるかな?
いや、無理に横並びに追い付こうとするのでは無く、私は私の得意分野を伸ばすのが先なのだろうね。
ルナリアは、そう考えて剣術を優先したのだろうし、”紅蓮”をはじめとした魔法の修得を諦める気なんて、これっぽっちも無いだろう。
私もルナリアが言っていたように、よく分かっている友人に後から教わればいいのだ。
私たちは互いに支え合って、互いを伸ばし合って行けば良い。