軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ ⑫

「聞いていた以上ね。フレイアの娘でなければ、テレサの側近に欲しかったわ」

んん? 急に口調が砕けたぞ?

警戒しつつも、真意を問わないわけには行かない。

「・・・お母様の娘で無ければ、ですか?」

「フレイアが貴女を手放すわけが無いもの」

「わ、わたしも手放さないわ!」

膝に置いていた私の手をガシッと握ってきたルナリアの手を、ポンポンと叩く。

「・・・ルナリア、どうどう。王妃様の前だよ」

「あっ! も、申しわけございません!」

いくら親戚だとは言え、相手は王国を代表する立場のお方だ。

いつもの調子での行動は不味かったと気付いたルナリアが慌てて頭を下げたけど、王妃様はゆっくりと首を振る。

「良いのよ。私的な場では、自然な貴女たちのまま、話してちょうだいな」

「・・・寛大なご配慮、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」

「ありがとうございます! アマリリア叔母様!」

「ふふっ。ハロルド兄様が女の子に生まれていれば、貴女みたいに元気な子だったのかも知れないわね」

太陽みたいにニッと笑うルナリアに、王妃様もニッコリと笑い返す。

正確には、ルナリアは王妃様の 従姪(じゅうてつ) で、王妃様はルナリアの 従妹叔母(いとこおば) に当たるのだけど、王妃様はルナリアの呼び名を受け入れてくれたようだ。

というか、王妃様も従兄妹のハロルド様のことを、ミリア叔母様と同じように「兄様」と呼んでるんだね。

王妃様の口調の変化は、私たちを受け入れてくれた、と、いうことだろうか?

今の口調が、王妃様の自然なお姿なのだと、理解できてきた。

私たちをテレサの傍に置いて良いかどうかを、王妃様に試されていたと考えた方が良さそうだね。

ルナリアも一時は評判が良くなかったし、私なんて、どこのシカの骨か分からない浮浪児だったし。

「そう言えば、フレイアから聞いたのだけれど、貴女たち、“魔の森”で狩りをしていたのですって?」

「はい。罠を使った狩りですから、危険なものでは無かったのですけれど」

王妃様の問いに、躊躇いがちにテレサが頷く。

テレサの様子を見て、そりゃあそうか、と、世間の認識を思い出す。

“魔の森”というだけで、あのお母様でさえ、ルナリアの身の安全を心配していたんだから。

“魔の森”をよくご存じでは無いだろうし、ここは一つ、王妃様の心配を和らげておくべきか。

あわよくば、治癒魔法術師量産計画にご協力いただいて、ムキムキの健康体になっていただきたい。

「・・・テレサも槍で獲物を仕留めてたし、ハインズ様に筋が良いと褒められてたよね」

お追従ではなく、私がお爺様に褒められていたように、ハインズ様にテレサも褒められているところは何度か見掛けた。

王位継承権を持つ姪孫が相手だと言え、ハインズ様が、お追従のようなことを言うとは思わない。

「あのハインズ様に? それは凄いことだわ」

「そ、そうでしょうか」

武勇で鳴らしたハインズ様の名声も有効か。

目を丸くする王妃様に褒められて、テレサは照れくさそうにする。

こうして見ると、テレサも普通の女の子だよね。

大好きなお母様に褒められて、嬉しくないわけが無い。

我が子が体験してきたことに、王妃様も目を細める。

「もっと聞かせてちょうだいな。私も興味あるわ」

「はい!」

身振り手振りを添えて、ウォーレス領で体験してきたことをテレサが話し、優しく目を細めた王妃様が楽しげに聞く。

母娘の暖かい触れ合いに変化が生じたのは、例の話題だ。

「血液を飲むの? 狩った魔獣の?」

「あー・・・。何と言いますか・・・」

お? 私の手助けが必要かな?

一般的に普通では無い行為で有ることを思い出してしまったテレサが目を泳がせた末に、視線で私に助けを求めてきた。

良いとも。

ウォーレス領民強化計画立案者として私が力を貸そうじゃないか。

「・・・詳しい研究が出来ているわけでは無いけど、現実的な結果として、体内魔力保有量の明確な増加効果と体調の改善効果が見られます」

「まあ。体内魔力が増えて、体調が改善するのですか?」

半ば、口が開きっ放しになっているところを見ると、王妃様は本気で驚いたみたいだね。

もう一押ししておくか。

「・・・セリーナ様は、剣を振って痛めた腰が治ったそうです」

「セリーナ大叔母様とシェリア様は、血を飲み続けてみると仰っていましたわ」

「叔母様と先生が・・・。そうなのね?」

ナイスアシストだよ、テレサ。

やはり、よく知る人たちの名前が出ると、信憑性が増すものなのか。

「体調が良くなったら、アマリリア叔母様もレティアへいらっしゃい、と、お婆様が言っていたわ!」

ルナリアも、ナイスだよ。

セリーナ様は、確かに、テレサに、そう言っていた。

「ふむ・・・」

細い顎先に指の背を添えた王妃様が思案する様子を見せた。

焦点が合っているようで合っていない王妃様の目には、理知的な光が有る。

身を乗り出したルナリアの肩を抑える。

王妃様に良かれと考えたのだろうルナリアの気持ちは解るけど、弱った体で数日間も、狭っ苦しい馬車で缶詰になるのは体に負担が大きいかも知れない。

「・・・ルナリア。無理強いしちゃダメだよ。長旅になるからね」

「うん・・・」

そして、短気は損気だ。これは口には出せないけど。

営業(セールス) というものは、単に押せば良いというものでは無い。

昔、営業職の男性社員たちが、ガミガミと発破を掛ける上司に対しての愚痴で、そんなことを言っていた。

小さく頷いた王妃様が私たちの顔を見回した。

柔らかい表情だけど、確たる意志を秘めた目をなさっている。

「貴女たち。拝謁のときに、このお話をしてはいけませんよ?」

「・・・あ。はい」

「分かったわ!」

「はい。お母様」

静かな圧に押された私たちが了承すると、王妃様は悪戯っぽく、立てた人差し指を唇に当てる。

「ミリアとアレイオスが色々と動いているそうだから、近いうちに状況は整うでしょう。それまでは、内緒ね?」

「「「はい!」」」

これは、王妃様もウォーレス領へ行く気になったかな。

王妃様が血を飲んで元気になるなら、私としても嬉しいし、何より、王妃様の快復はテレサが喜ぶ。

アレイオス叔父様とミリア叔母様の名前が出たってことは、お二人が根回ししてハロルド様とお母様が押し切る、そういう作戦と見た。

そうでもしないと、王妃様という国家最高レベルの重要人物の療養が目的とは言え、王都を離れて悪目立ちしている特定の貴族領へ行くことを、快く思わない連中が居るのだろう。

さっきの社交の考察に照らせば、王妃様なら、その辺りを考えるに違いない。

王妃様の心の裡は私の想像に過ぎないけど、たぶん、大きく違っていないはず。

なんて面倒くさい。

お母様やレティア卿が王宮を良く思わないわけだ。

やっぱり、外野の黙らせ方を考える必要が有るよね。

テレサの「弟か妹」計画のためにも、王妃様ご自身のためにも、外野の邪魔は許せない。

叔母様たちの動きも気になるけど、治癒魔法術師量産計画を絡めての動きのはずだ。

だったら、相乗効果を狙った方が良いのかも。

巻き込む? いや、理解を広める程度に抑えるのが良いのかな?

お婆様から「加減しろ」って釘を刺されていたけど、加減が分からないな。

これも、要・相談案件か。

お母様たちと王様に掛け合って、私も全力でサポートするよ。