軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ ⑩

先導を再開したメイドさんに付いていって、6階層の長い長い廊下を歩くと、廊下の両脇に甲冑姿で槍を手にした騎士様が二人立っている。

騎士様たちが立っている手前には曲がり角が有って、廊下が二手に分かれている。

そして、曲がり角のところで、別の新たなメイドさんが一人、私たちを待ち受けていた。

テレサとルナリアと私が進むのは騎士様が立っている真っ直ぐの廊下で、ノーアとピーシーズは角を曲がって直ぐの側近待機用の居住区画へと案内されるらしい。

私たちの先導は新たな先導メイドさんにバトンタッチされ、ここまで先導してくれた先導メイドさんが引き続き、ノーアとピーシーズがお泊まりする部屋まで先導してくれるのだそうだ。

これは、王族居住区画には、基本的に、特別に招かれた者しか立ち入ることが出来ず、王族の安全を守るための決まり事だそうで、護衛要員の側近は「特別に招かれた者」に該当しないと言われてしまうと、私たちに抗う術は無い。

ルナリアと私は、相当な特別扱いを受けているみたいだね。

ノーアのことは心配だけど、それが王城のルールなら、抵抗するだけ無駄だし反論する論理も持ち合わせて居ないから、ピーシーズにノーアの世話をお願いして、ノーアに一時のお別れを説明してからテレサたちの元へと戻る。

「でもやっぱり妹が心配だから」と伝えると、ノーアに会いに来るには、先導メイドさんにお願いすれば、いつでもノーアたちのところへと先導してくれるらしい。

先導してくれるなら、ちょくちょく会いに来られるね。

彼女たちは、まさに先導メイドさんだった。

先導のプロフェッショナルの先導が、一体、どのような先導か、この目で見定めてくれよう。

私たちが廊下を直進すると、テレサが通り掛かる3メートル手前のタイミングで騎士様たちが動いた。

壁を背にして廊下の中心側へと身体の向きを変えた騎士様たちは背筋を伸ばし、両手で捧げ持った槍を胸の前に引き寄せ、踵を鳴らす。

チラリと騎士様たちに視線を遣って小さく頷いたテレサもまた背筋を伸ばし、静々と騎士様たちの前を通り過ぎる。

姿勢は1ミリも動かなかったけど、騎士様たちの視線が兜の面甲のスリットの内側からルナリアと私を見定めていることは、肌に感じる気配で分かった。

面甲って、西洋甲冑の兜の顔を覆う部分で、領によって、また、騎士団によって、若干、スリットのデザインが違うっぽい。

この面甲を頭の上へ持ち上げると顔を顕わに出来るんだけど、面甲を閉めると息苦しいのか、ウォーレス領では面甲を閉めている人を見掛ける方が珍しかった。

王都から来ていたテレサの護衛騎士さんたちも兜を脱いで鞍に引っ掛けたままの人が多かったから、よほど息苦しいのだろうね。

ところが、王城内で見掛ける騎士様たちは、皆、キッチリと面甲を閉めていて、息苦しさを無くすためか、縦スリットが面甲の額から顎までの全面に入っている。

スリットが大きいから面甲の中の視線に気付くことが出来たわけだけど、一方的に見られるのも何か悔しいので、ルナリアと私も騎士様たちの出で立ちを観察する。

お? 面甲だけじゃなく、街中やお城の入口に居た騎士様の甲冑と、全体的に少しデザインが違うような?

所属の違いか何かだろうか。

敬礼の仕方も違うっぽいし?

これは、王城の外と中で警備の担当部署が―――所属する組織が違うのかも知れないな。

そんな王城内警備担当が廊下で通行者チェックをしているってことは、ここが王族居住区画との境界線なのかも。

騎士様たちを通り過ぎてから、廊下に面して設置されている扉の意匠も微妙に変わった気がするし。

また長い長い廊下を歩いて、自分が王宮のどの辺りに居るのか全く分からなくなった頃―――、訂正。

どの辺りに居るのかは、階段を上って4階層に入って幾らもしないうちに分からなくなっていたね。

ノーアたちと別行動になった曲がり角から、どこを、どう進んだのか分からなくなった頃、先導メイドさんが一つの扉の前で足を止めて、ゆっくりとしたテンポでノックした。

十数秒ほど、そのまま待っていたら、本当に静かに、微かな音を立ててドアノブが動き、ほぼ無音で扉が開く。

室内から顔を覘かせたのは、また別のメイドさんだ。

背筋を伸ばした非常に良い姿勢のまま、メイドさんたちが小さく頷き合い、室内メイドさんが振り返って室内に居る誰かに向かって頷いた。

全体的にゆっくりとした所作で扉を大きく開け放ったメイドさんが、扉の横に下がって道を空ける。

先導メイドさんもまた、室内に入って直ぐに扉の脇へ下がって道を譲る。

よくよく見ると、この先導メイドさんたちのお仕着せも、下層階のメイドさんたちのお仕着せと、少しデザインが違う気がするね。

「どうぞ」

「ありがとう」

扉の両脇で礼をして迎え入れるメイドさんたち、それぞれに、頷いて礼を言ったテレサが室内へと入る。

私たちに何も言わずにテレサが進んで、メイドさんたちが礼をしたままと言うことは、私たちも入室しろという意味だろう。

テレサに倣って両脇のメイドさんたちに礼をした私たちが入室すると、殆ど音をさせず背後で扉が閉まった。

「・・・広い」

「本当ね」

つい、出てしまった私の呟きに、ルナリアが律儀に応える。

私たちの目の前に広がっているのは、もの凄く広い居室で、ざっとした目測で30メートル四方は、優にある。

天井の高さも5メートルぐらい有って、天井には太くて木目の美しい梁が何本も走っている。

驚いたことに、この梁、繋ぎ目の無い1本の木材から削り出されたものらしい。

私たちが伐って回った“魔の森”の木も30メートル以上の高さが有ったけど、当然のことながら、木というものは根っこから先っぽまで徐々に細くなっていくもので、梁として加工された後に私たちが3人掛かりで手を繋いで1周しなければならなそうな太さともなると、元の木の高さは私たちが伐っていた木の2倍近くあったのでは無いだろうか。

そこまで巨大な木材が、この部屋だけで7本も使われている。

この木も、きっと“魔の森”の木だよね。

王都の立地を思えば、“魔の森”から少なくとも500キロメートル近くの距離がある。

とんでもなく労力を費やして運んできた木材なのだろうし、どれほどの財を費やしたものなのか。

パチパチと火の粉を散らす大きな暖炉が二つも有る以外は、飾り気が無くて落ち着いた雰囲気の部屋なのに、使われている建材は最高級の贅を凝らしたものなのだと分かる。

日本の最新技術を用いた建築物でも、これだけの広さに柱の1本も無い、自然素材だけを用いて造られた空間は、なかなか作れないはずだ。

天井って、一定間隔に柱を置いて天井を支えないと、天井の自重で弛んで水平な状態を維持出来ないんだよ。

維持出来なければ、そのうち何らかの拍子に天井が崩落して、頭の上に落ちてくる。

その天井の崩落を巨木の梁を用いて防止し、大空間の建築を実現している。

この梁が剥き出しなことで粗野感が残って、上品さが薄れてしまっているね。

オフィスの天井みたいに天井裏の空間を作って吊り天井にすれば、梁を隠すことは可能だろうけど、時代劇の忍者じゃないけど暗殺され掛かった要人を、不審者が潜める天井裏のある部屋に住まわせるわけが無いのか。

いや、逆か?

この巨木の梁の美しい木目を見せることを、部屋の意匠として最初からデザインしていたのかも。

適度な粗野感を出すことで、肩が凝りそうな上品さを薄めているのかな。

現代地球よりも物理面での文明レベルが遅れた世界だと思い込んでいたけど、建築技術的にも、建築デザイン的にも、決して遅れては無いのかもしれない。