軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ ⑧

「―――オレ! フィオレってば!」

「・・・ハッ! な、何!?」

脳内で「ぐぬぬ・・・!」と憤っているのに、私の思考タイムは唐突に破られた。

「着いたわよ!」

「・・・えっ! 着いた!? いつの間に!」

ルナリアの大声に周りを見回せば、進行方向の目の前に、レティアの町よりも低くて薄そうな城壁が有って、アーチの意匠だけはデコレーションされて凝った城門が有る。

街道の石畳の両端に旅装束の人々や馬車が避けて道を空けていて、守備兵らしき武装した兵士たちが姿勢を正して敬礼している。

その真ん中を悠々と進む私たちの馬列は、王都の城門を潜る直前だったらしい。

先触れを出してテレサの帰還を報せたからか、ノーチェック・ノンストップで王都へ入るところだ。

どうやら、私は2時間近くも思考に埋没していたようだ。

背中に乗せている私がボーッとしていても、馬は群れの生き物だから馬列に合わせて勝手に歩いてくれるんだよ。

日本の最先端自動運転システムよりも安全・高性能。

ポックポックと長閑な蹄の音に併せて城門が近付いてくる。

「・・・あ、あれ? そう言えば、王都の手前で馬車に乗り換えるって言ってなかった?」

「窮屈だから、嫌です」

不意に思い出してテレサに聞いたら、即答で、そっぽを向かれてしまった。

「・・・ああ、ハイ」

きっと、この調子で、隊長さんも黙らされたんだな。

テレサもウォーレス領に馴染んじゃったからなあ。

その分、私たちが、しっかりと守れば良いのか。

城門の傍まで近付くと、敬礼している兵士さんたちの後ろに、開け放たれた門扉の細部が見えてくる。

あの観音開きの門扉に貼り付いている金属製の謎生物は、ドラゴンなのだろうか?

いくらか首が長くてスレンダーなオオサンショウウオっぽい生物の背中に小さなコウモリ羽根が付いてるから、きっと、ドラゴンの 彫刻(レリーフ) なんだろう。

うん・・・。

でも、ちょっと待って。

私が思っていたドラゴンと何か違うぞ?

頭のバランスが大きいせいか、ドラゴンっぽく見えないよ。

ツチノコに骨張った細い手脚とコウモリ羽根を付けた感じと言った方が良いのかな。

私の人生目標の一つで有る「ドラゴン見たい!」って気持ちが揺らいでしまった。

デフォルメ画的なものでも無さそうだし、”画伯”的な感じか?

王都の城壁には、一応は歩廊が乗っかっているようだけど、壕も無いし、飾りっ気が無くて殺る気マンマンで質実剛健を絵に描いたようなレティアの町とは随分と雰囲気が違うね。

真面目に防御する気が有るのか無いのか分からない感じだ。

視線を巡らせて隣の馬を見ると、外套のフードを払って素顔を晒したテレサが、手を振る街の人たちに貼り付けた営業用スマイルで手を振り返している。

また護衛の難易度が上がった気がするけど、それで良いのか、テレサ!?

ハッ! ボーッとしてる場合じゃない!

王都だよ!

もう、王都に着いちゃってる!

「・・・何てことだ。王都の外の様子を近くで見たかったのに、ぜんぜん見てなかったよ」

しまったあああ!

魔石を埋めてスライム避けにしている畑の様子を近くで見たかったのに!

私の呟きも虚しく、固まっている私を乗せた馬列はアーチ天井の城門を潜る。

城門の幅はおおよそ10メートルほど。

5メートルぐらいしか奥行きが無いトンネルを抜けると、幅20メートルほどの石畳の通りの両脇をぎゅうぎゅうになった人垣が埋め尽くしていて、正面に見える大きなお城に向かって真っ直ぐに通りが続いている。

その”四角い”お城は、レティアの領主館みたいな砦っぽい造りの建物では無いな。

監視台の役目を担うという一際高い尖塔が真ん中にビョーンと一つ立っている他は、尖塔の半分も高さが無い高層建築物が尖塔を取り巻いているようだ。

妙に窓が少ない、のっぺりとした建物は、私の「お城」のイメージと何かが違って、何かの「施設」みたいに見えるんだよね。

少なくとも、ゴテゴテと飾りが付いた華美な建物には見えない。

縦にも横にも馬鹿デッカいお城の下層階は次の城壁に隠れて見えないから、窓が殆ど見当たらない高層建築物が何階建てなのかは判別出来ないけど、ここから見えているだけでも、窓位置の高さが違う、恐らく4階層分の窓が幾つか見えているのだから、内部の階層は、6階層か7階層は有るはずだ。

でも、日本のビルやマンションを見慣れている私の感覚からすると、あの「お城」の背丈は7階層どころじゃなく、優に10階建て以上の高さが有るように思う。

あれが石材を積み上げた石造りの建物だと考えると・・・、耐震性能、大丈夫?

あの高層建築物の過半を占めるのが“王宮”と呼ばれる行政区画だと聞いている。

その一角に王族の居住区画が有って、そこが王様や王妃様が暮らすテレサの実家。

行政区画も王族居住区画も尖塔も全てをひっくるめた巨大な高層建築物を指して、“王城”と呼ぶのだ。

王都は3重の城壁に囲まれた同心円の中心に王城が有って、城壁と城壁の間に城下町が挟まっている構造だと授業で教わったな。

城壁の東西南北に置かれた城門に向かって王城から放射線状に主要道路が真っ直ぐに伸びていて、私たちが城門を潜って入って来たのは、南側の主要道路のはず。

王都は円形の街だから、主要道路と主要道路を環状の道路が繋いでいて、蜘蛛の巣のような形状の街並み―――、いや、真上から王都を見下ろせば、地球の狙撃手が 遠視鏡(スコープ) を覘いたときのターゲットサークルみたいな街区配置なのだろう。

また思考に没頭しそうになって、騒がしさに現実へ引き戻される。

「・・・おおぅ。何だこりゃ」

みんな、ワーキャーと歓声を上げながら明るい顔で手を振っているのだから、これ全部がテレサファンなのだろうか。

人気なのは良いけど、興奮状態の人垣からの距離が近すぎる気がする。

テレサが居ると聞きつけたのか、脇道の奥から、まだまだ、かなりの人々が駆け出してくるのが見える。

こんなに沢山の人が押し掛けて居て安全上の問題は無いのかと思ったら、ちょこちょこと騎士様や兵士さんが立っていて人垣が前へ出て来ないように牽制していた。

上を見上げれば通り沿いには石と木材と漆喰っぽい素材で造られた4階建てや5階建ての建物がみっちりと建ち並んでいて、上階の窓からもテレサに向かって人々が手を振っている。

超絶、大人気じゃん。

こんなの、日本でもテレビ局でのアイドルの出待ちか大相撲の力士入場かプロレスラーの入場シーンでしか見たこと無いぞ。

赤コーナー、チャンピオン、テーレーサー! って感じのヤツ。

テレサは可愛くて賢そうで優しそうだから人気が有ることに違和感は無いけど、この人たちの中では美化された深窓のお姫様なのだろうね。

喜々として槍でシカを突く姿の方が私たちは見慣れてるけど。

暖かい声が飛んできては、にこやかにテレサが手を振り返す。

テレサが「“保守派”の象徴」って意味を初めて理解した気がする。

この人たちがテレサに求めているのは、レティアの住民がルナリアと私に求めるような「”強さ”の象徴」ではないと感じる。

平和? 国の安定だろうか?

レティアの住民たちが、自分たちを庇護する「直接的な強さ」を求めるのとは、きっと、違うものだ。

もっと、フワッとした抽象的なものをテレサに求めている気がする。

でも、それがテレサの気持ちと合致したものとは限らないし、テレサだって人間なんだから笑っていられるときばかりでは無い。

特に今は、テレサの心の中は一刻も早く王妃様に会いたくて、一刻も早く助けたい気持ちで一杯で、笑っていられる心境では無いはずだ。

それでも、テレサは街の人たちに笑顔で応えている。

応えているんだよ。

自分の本心を笑顔の仮面の下に押し隠して。

偉いなあ、と、思う。

でも、きっと、この後、私たちは、「オホホ~」とか営業用スマイルを貼り付けたまま毒を吐く、テレサの愚痴を聞かされることになるんだろうなあ、とも思う。

これで、王妃様のところへ行くのを王宮の貴族やら何やらに邪魔をされたら、温厚なテレサもキレるんじゃ無いだろうか。

今後のために、おかしな貴族にテレサだと分からなくさせるようなマスクでも、作ってあげた方が良いのだろうか?

覆面レスラーみたいなヤツを。