軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ ⑦

足りないもの、だらけだよ。

通信方法とか、欲しいものなんて言い出したら、主たる移動手段が、丸1日で80キロメートル移動するのが精一杯という、「馬」なのが最大の問題なんだよね。

80キロメートルなんて、高速道路なら1時間で走破できる距離だけど、大量の飼い葉と大量の水と頻繁な休憩時間が必要な馬だと、強靱なウォーレス領産の軍馬でさえ、下手すると命懸けの全力疾走で走破する距離なんだよ。

持久走に最も向いていると言われる人間でも、フルマラソン2周分の距離を金メダル級のオリンピック選手が走破するには、疲労を度外視した単純計算で4時間以上。

何ひとつ待たない手ぶらでコレだ。

重い荷物を背負って歩くなら数日は掛かる距離。

そう考えると、自動車製造技術って、もの凄い超高度技術だったんだなあ。

何たって、自動車は休憩が要らない。

燃料さえ有れば馬車数台分の荷物を積んで延々と走り続けられて、その燃料も極めてコンパクト。

大量に・速く・遠くまで運べる。

もっと大量に運搬するなら自動車よりも鉄道の方が勝るけど、鉄道なんて、資金的にも労働力的にも国家的事業になるし、どのみち、鉄道だって”動力源”が必要になる。

それなら、もっと小規模に始められる自動車開発の方が、私のニーズに合っている。

鉄道は線路が敷かれた場所しか走れないけど、自動車は刻々と移動する戦場へ物資を届けられるのだから。

自動車製造技術が欲しいなあ。

物流(ロジスティック) は軍隊の生命線だよ。

何かの本でも、地球上で最も強いとされていたアメリカ軍は桁違いの 兵站能力(ロジスティック) こそが、その強さの根源だと書いていたはず。

もしも、魔法道具で自動車を作ることが出来たら、大陸全土をアッと言う間に征服できてしまうんじゃないだろうか。

いやまあ、世界征服したいわけじゃ無いけど、1発の強力な魔法よりも脅威度は遙かに高いはず。

それだけ脅威度が高いということは、戦略兵器並みの戦争抑止力に成り得るってことだよ。

こう言った考え方を持っている時点で、私自身の“恒星”の価値を、きっと、私自身が一番低く評価しているのだろうね。

地球で日常レベルで用いられている技術を知るからこそ、自分の「不足」を感じてしまうんだよ。

同じように地球から来たら、私よりも上手くできる人なんて、山ほど居るはずだ。

こっちの世界で自動車のエンジンを作れそうな技術って何が有るかな?

やっぱり魔法道具だろうか。

対魔族大戦当時の日記的な文献の記述によると、高度な魔法道具に使われている魔法は“刻印術式”らしいし、私が欲しい魔法道具を作るには、間違いなく“刻印術式”が必要になる。

“刻印術式”の基礎知識だけでも得られれば魔法道具の研究ができるのに、この魔法技術こそが、神教会がエルフ族を滅ぼして独占秘匿しているものなんだよなあ。

だから、神教会支配下の地域でしか魔法道具は生産できない。

お母様とお婆様の二人が二度にわたって、王宮と魔法術式学術研究院の蔵書を調べて情報を得られなかったのだから、王国に“刻印術式”の情報は、 ほぼ(・・) 入ってきていなかったのだろうね。

唯一、王家が秘蔵していた”高度な魔法道具”は、お母様が愛用しているサーベルだよ。

茶飲み話でお婆様が補足情報を教えてくれたところによると、お母様のサーベルの刀身に刻まれている記号のような文字こそが“刻印術式”で、古代文字と呼ばれる、古い時代のエルフ族が用いていた文字そのもの。

ここまでは、以前にも聞いたことが有ったけど、その続きが有ったんだよ。

あのサーベルは、本当にエルフ族の王様から、大昔のリテルダニア王族が、直接、贈られたものらしい。

そして、そのリテルダニア王族こそが、500年前の大戦に参戦していた臣籍降下してウォーレスの家名を名乗り始める前の、若き日の―――、成人したばかりの頃の王女、レティア・リテルダニアだという。

一族の始祖の形見として、また、“刻印術式”の研究資料として、武勲の恩賞でいただいたというのに、お母様は、その国宝級どころか世界遺産級の歴史的“遺物”を今回の戦場でも振り回している。

お母様の「道具は使ってこそ」という言い分には同意するけど、私には、到底、真似の出来ない度胸だよ。

私だったら壊したり無くしたりが怖くて触るのも躊躇う。

探究心に溢れるお母様だったら、サーベルを分解するくらい、するのかと思ったら、刀身そのものに刻まれている術式だからか、「分解して調べる」という発想が無かったようだ。

刀身を分解する方法なんて私も思い付かないけど、ご先祖様の形見が無事で良かったよ。

お母様は、あのサーベルについて、「魔力を通すから杖の代わりに使える」と言っていた。

杖とは、お婆様が使っている 指揮棒(タクト) のような媒体のことだ。

あの杖はあの杖で、魔法道具では無いけど、「魔力の通りが良い」素材で作られていて、道具としての機能は「魔法の発現位置を指定しやすいように補助する」というもの。

目測だけで発現位置を決めるより、指差し確認で決めた方が正確に発現位置を決めやすいと考えれば、きっと効果は有るのだろう。

実際、私も”恒星”を使うときに、攻撃目標に向かって無意識に魔石を持った腕を伸ばしてるし。

お母様のサーベルの場合は、その魔力の指向性に「切れ味が良くなる」魔法道具としての効果が上乗せされて、金属鎧ぐらいなら一刀両断出来てしまう代物なのだそうだ。

ルパ〇三世に出てくる斬鉄剣かな?

そんな超技術の便利グッズを常用していたら、ただの剣なんて使いたくなくなる気持ちは分からなくも無い。

現に私は、火魔法が使えるようになって以降、火打ち石を使うことが無くなったし。

私個人に限っては、火打ち石を使わなくなっただけでも一つの文明、あるいは技術の進歩だ。

”刻印術式”なあ。

分解してみたいなあ。

日用品レベルの簡単な魔法道具なら、ぼったくり価格で輸入できる。

私がテレサにプレゼントしたブローチのような、”簡単な魔法道具”ならね。

お婆様が言っていたけど、あのブローチの低品質な魔石を取り外して台座を確認したら、古代文字1文字の”刻印”が有っただけだったそうだ。

その1文字の”刻印”だけで、商人のハンスさんが言った通り、本当に治癒魔法をほんの少しだけ増幅する効果が有ったらしい。

ハンスさんは「気休め程度」って言っていたし、話半分ぐらいにしか考えていなかったから、ちょっとだけ驚いた。

そして、その”刻印”。

お婆様が色々と試したけど、紙に書き写した文字では何の効果も発現せず、他の魔法にも増幅効果は見られなかったんだって。

今回は治癒魔法の効果しか持たないらしい”刻印”で危険は無さそうだし、何らかの発動条件が有るのかと、お婆様は検証を続けてみる、おつもりらしい。

古代欧州のルーン文字みたいに、1文字1文字に呪術的な意味でも有るのだろうか?

呪術的意味に魔力が作用して、何らかの物理現象を起こすの?

だとしたら、意味も分からずに発動させたら事故に繋がる恐れが有って、文字の研究が命の危険に繋がりかねないよね。

しかも、発動条件が謎で、どんなタイミングで発動するか分からない?

研究と検証のハードルが上がるなあ・・・。

でも、それだと、「紙に書き写した文字」だと何の効果も無かったことの説明にはならないか。

わけが分からないよ、“刻印術式”。

期待して居なかったから買っていなかったけど、分解研究用の魔法道具を、もう1個、ハンスさんから買った方が良いかな?

魔法道具の解析と複製は、お母様も挑んだことが有ると言っていた。

お母様は鍛冶工房に持ち込んでサーベルの複製を試みたそうだけど、刀身の”刻印”を真似ても機能を複製することが出来ず、失敗に終わったらしい。

お婆様の「紙に書き写した文字」と同じく、「複製できなかった」のだ。

あれ? 待てよ?

つまりそれは、表面上の”刻印”だけで無く、刀身の内部にも何らかの回路が仕込まれているのでは無いだろうか?

現代日本の技術で言えば、半導体に刻まれた電気回路のようなものなのでは無いかと想像できる。

コンピュータのROMみたいなもの。

半導体の構造や概念を知らなければ、ROMだって金属の足が生えた人工物の黒っぽい石コロにしか見えないだろうからね。

もしも、私の想像が正しかったとして、複製できるのかと言えば、まず無理だろう。

剣やナイフは、熱した金属を叩いて延ばして整形すると同時に、分子配列まで変質させて引き締めたものだから、硬くて切れ味の良い刃物になるもののはず。

金属に含まれている炭素や不純物を物理的に”叩き出す”んだっけかな。

鉄の中からポロポロと炭素が出て来る様子でさえ、私の貧しい想像力ではイメージが難しいよ。

”刻印”が精密な回路であるならば、金属の分子配列まで変えるほどに、叩いて、延ばして、鍛えて、変質させる過程で、回路が無事なまま残るとは思えない。

鍛造工程で回路が壊れてしまうからこそ、複製できない“ 失われた超技術(ロストテクノロジー) ”なのでは無いだろうか。

そもそも、内蔵されている回路が見えなければ、回路の複製ができず、中身が空っぽの“ 実物大模型(モックアップ) ”にしかならない。

“刻印術式”が、そういった技術なのだとしたら、回路の設計だけでなく、回路を刻む技術と、高度な鍛冶技術も必要になってくるはずだ。

いや、素材技術も必要か?

鉄の上に鉄の回路を載せても、ただの鉄にしかならない。

鉄の上に魔力を通しやすい別の素材で回路を刻んでいるからこそ、回路として機能するはずだ。

魔力を通しやすい金属って何だろう?

ファンタジー系コンテンツなんかだとミスリル銀だっけ?

そんなの実在するの?

うん。分からん。

銅や金の通電率みたいに、色々な金属に魔力を通して確かめれば、魔力を通しやすい金属は探せるかな?

合金みたいに鉄と別の金属を混ぜ合わせて作っていた可能性も有るよね。

その手の 冶金(やきん) 技術って日本が世界一だったんだっけ?

日本という国が世界一だとしても、私個人には何の関係も無かったけど。

日本で暮らしていた当時に興味を持たなかった分野の知識は、当然ながら、私は持っていない。

考えれば考えるほど自動車製造技術が遠くなる。

足りない知識と、足りない素材と、足りない技術が多すぎる。

結論、絶望的。

ああ、もう!

神教会のバカ!

エルフ族の知識と技術を奪おうとして文明レベルそのものを衰退させて、どうするんだよ!

人間の欲深さと間抜けさに私の頭まで痛くなる。