軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ ⑥

ぜんぜん近付いて来ない王都の遠景を眺めつつ脳内タスクリストに追記していると、横っ面に視線を感じた。

「フィオレ。また何か企んでる?」

「あら。そうなのですか?」

疑わしげなルナリアにテレサも乗っかってくる。

「・・・企むとか酷いな。まあ、ただの思い付きだから、お母様に相談してから話すよ」

「「ふぅん?」」

ジトー。×2。

「・・・な、なに。その目」

「「別に~?」」

二人に、そっぽを向かれてしまった。

信用無いなあ。

半ば、からかわれているのは分かるけど、私だって適当なことは言えないじゃん。

テレサの手柄に関わる話だから話してあげたいけど、もしも、お母様のストップが掛かったら必要以上に残念な思いをさせてしまうから、今はまだ話せない。

私の思い付きで事が大きくなるケースを何度も経験していれば、いくら私でも学習するよ。

ハインズ様やセリーナ様の圧力に晒されながら「どうなってんだ?」と問い詰められるのは、私の精神衛生上、よろしく無いんだからね?

仕方ない。話を逸らすか。

「・・・ねえ、テレサ」

「どうしました?」

「・・・王都が大きな街なのは分かったけど、周りに大きな川とか無いように見えるよね。生活用水とか、どうしてるの?」

「川が無いわけではないのですけれど、王都の周りに大きな河川は有りませんの。その代わりに、地下水が豊富なのですわ。数メテルも掘れば、どこからでも水が出ます」

「・・・ははあ。盆地だからか」

「ぼんち、とは?」

テレサが首を傾げる。

こっちの世界では盆地って呼ばないのかな?

分かりやすく形状を表している言葉だと思うけど。

あんまりにも緩やかすぎてパッと見では分かりにくかったけど、周囲の地形から見て、王都の街並みは巨大な窪みの底に有るように見える。

すり鉢状に窪んだ地形を堆積土が埋めた土地の上に建てられた街が、王都なのでは無いだろうか。

王都の全景が見える直前には、緩い傾斜の丘陵地を上ったし。

「・・・お盆―――、トレイの形をした地形のことだよ。平たくて周囲よりも低い土地だから、地下水が集まって来るんだよ」

要は、地下に馬鹿デカい水溜まりが有るのだろう。

水は高きから低きに流れる。それは地上で有っても地下で有っても同じ。

「ああ、なるほど。地面の下に、水が溜まる器が有るのですね」

初めて聞く、目に見えないものの知識でも、テレサは直ぐに理解する。

単に地頭が良いと片付けるよりも、思考の柔軟さがテレサの賢さの根源なのかも知れないな。

盆地かあ・・・。

王宮で英才教育を受けてきたテレサも知らない知識なのに、何も無いように見える大平原のド真ん中で、よくもまあ、昔の人は、巨大な地下水脈が有る場所を見つけ出したものだと感心する。

大昔の勇者なら、水源地の在処を予測できる人が居ても、おかしくは無いのだろうか?

地形学? 地質学? そんなに古い学問ってイメージは無いな。

こっちの世界の人たちが、自然科学に熱心になるイメージも無い。

魔法なんて便利なものが有れば、他の探求や技術革新が置き去りになるのは理解できてしまう。

だって、質量保存の法則だとか完全に無視したような魔法って、本当に便利なんだもの。

もしかしたら、水源を見つける魔法とか有るのかも知れないなあ。

ファンタジー系フィクションに出てくる、いわゆる探知系の魔法ってヤツ。

以前、森でルナリアから対人レーダー的な魔法は無いって聞いたけど、水を操る水魔法なら、地下水脈の水を捕まえて地上へ噴き出させるとか出来ても、不思議はない気がする。

地下水を捕まえるのなら、探知系では無くなるのかな?

地形条件から「地下水が有る」と確信が持てる状況なら、アクセスは出来なくもないのかも。

王都の立地には関係無いけど、水魔法にも可能性を感じてしまうなあ。

水の確保は、生きていくための必須項目だし。

水が有って土地が有れば人間の居住地として最低条件は満たす。

どうやって食料や燃料を確保するのか、別の問題は有るけど、この場所に居住地が置かれたということは、戦略的な目的以外に人間の営みを支えられるだけの何かが有ったのだろうね。

でも、何も無いド平原の真ん中にポツリとお城が一つ?

「・・・なんで、この場所なんだろう?」

「何がですか?」

「・・・ああ、いや。水源は有っても、要衝ってわけでも、要害ってわけでも無さそうな場所に見えるなあ、と思って」

お婆様の授業でも、どうして、この場所に王都が置かれたのかは言っていなかったよね。

街が形成されるにも、便利だとか特別なものが有るとか、何らかの理由が有るものだ。

王様が住まう一国の首都ともなれば、「なぜならば」という理由が有るものでは無いだろうか?

ふふふ、と、テレサが笑う。

「何も無いから、らしいですよ」

「・・・えっ?」

予想を裏切られた私の表情に、テレサは笑みを深める。

「私も同じことを考えて、アカデミーから授業に来られた教師に訊いたことが有るのです。用兵術に照らせば、包囲が容易くて、守るに難く攻めるに易い場所を、さして強固でもない城壁で囲んだところで大して意味が有るとは思えませんでしょう?」

「・・・そうだね」

「元々、この王都リテルは東方領域開拓のための物資集積地で、ナーガ川以北の東部領域各地へ物資を運ぶのに、平均的に距離が近くて、水源が有って、物資を積み上げるのに邪魔になるものが何も無いことが利点だったそうです」

ええ? マジで?

「・・・馬車の荷物を積み替えたり、各地へ発送するのに便利な、荷物置き場だったと?」

「今は政治の中心地ですけれど、土地や立地には価値が無いそうです」

その相続人候補者のテレサが苦笑する。

「・・・おおぅ。辛辣ぅ」

言葉を飾らず自分の考えを開陳するのは学者さんらしいと言えば学者さんらしいけど、その土地の地主さんの娘に「お前の資産、無価値だぞ」と言うのは、どうなんだろう?

その地主さんこそが自分の雇い主なのに。

王都の土地には政治的な価値しか無くて、何かが採れたり価値の有る土地は遠くて他人に任せるしか無い?

通信手段も早馬に頼るような技術レベルだから、出来るだけ各地に目が届く国土の中央に居て、どこへ行くにも出来るだけ近い場所、として、この場所に王都を置いているのか。

これだけ見晴らしが良ければ 狼煙(のろし) 的なものは意味がありそうだけど、強力な魔法が有れば一日で戦争が終わってしまうような世界だから、国土の偏った場所に居ては、現場へ急行して到着したときには手遅れってことも有り得るもんね。

もしかして、王様が各地の貴族に強く出ずに、“融和派”みたいな貴族でも野放しにしていたのは、この辺の事情かな?

無線機みたいな遠距離通信の手段が生まれれば、地方の領地貴族に弱腰で接する必要が無くなって、この場所に王都を置く必要も無くなるのかも。

通信手段か・・・。

何か方法を考えたいなあ。

王都に居るテレサとウォーレス領に居る私たちの間で簡単に連絡を取り合えれば、緊急事態の際に間に合わせることが出来るかも知れない。

お肉を獲るしか能の無い私には、無線機を作るのは無理そうだな。

どうすれば作れそうかの想像も出来ない。