軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都へ ③

そんなわけで、ご機嫌なテレサと私たちは、井戸端会議ならぬ馬上会議で世間話中である。

「アレースとアスクレーは王都へ戻らないのですね」

挨拶したときには周りに人が居たからか、今になって、テレサが首を傾げる。

分かる分かる。許婚に定められたアスクレーくんでさえ、いきなり相手方の家へ置いていくの? って思うけど、更には、そのお兄ちゃんまで置いていくと言うのだから、私も驚いた。

「・・・アレースお兄様はファーレンガルド家へ帰るけど、アスクレーお兄様は、そのままレティアに残るんだって」

「アレースは帰らないとファーレンガルドのお婆様がうるさくて、アスクレーはシェリア様や叔母様の授業を受けられる方が王都に居るよりも嬉しいそうよ!」

「お二人とも、ご両親やご兄弟と離ればなれで寂しくないのかしら?」

テレサが傾げている首の角度が深くなった。

そう思うよねえ。でも、平気らしいんだよ。

「アレイオス叔父様もミリア叔母様も普段から留守がちだし、今までと大差ないらしいわよ!」

「・・・アスクレーお兄様は、図書室に籠もったら出て来ないし」

ミリア叔母様によると、引っ張り出すのが面倒だから、よほどの用事以外では、気が済むまで放置しておくのだそうだ。

「ファーレンガルド卿やミリア様も、子供たちが居なくても平気なのかしら」

テレサが微妙そうな表情になった。

ところが、その答えも、ミリア叔母様の口から、私は聞いている。

「・・・まだ、アンリくんが手元に居るし。だって」

「赤ちゃんって可愛いものね!」

おっと。ルナリア、それは聞き捨てならないな。

「・・・ノーアも可愛いよ?」

「ノーアはノーアよ!」

「どちらも可愛いですわ」

「・・・そうだったねえ」

はあ。良い天気。

風は少し冷たいけど、澄み渡った青空は、冬晴れってやつだ。

私に釣られてか、テレサも青空を見上げる。

「ある意味、ファーレンガルド家は、自由な家風なのかしら?」

「・・・そうかもね」

ミリア叔母様の家庭はフリーダムな家族というか、アレイオス叔父様とアレースお兄様は普通っぽいのかと最初は思ってたんだけど、しばらく観察していると、それぞれに自分のやりたいことに全力というか。

食事時に家族が揃っていなくても、あまり気にする様子が無い。

アレイオス叔父様はお仕事で、貴族家間の調整に走り回っている。

ミリア叔母様は社交で、派閥の拡大と維持に走り回っている。

アレースお兄様は叔父様のような万能型の文武両道を目指して、あれも、これもと、奮闘している。

アスクレーお兄様は学ぶことそのものに喜びを覚えるタイプらしく、興味の有るものに片っ端から手を出している。

結構、みんなバラバラで放っておかれても、平気みたいなんだよね。

それでいて、サッパリとしたミリア叔母様の影響か、家族仲は悪くない。

私としては、前世の毒親と今のウォーレス家系しか家族の在り方を知らないから、ファーレンガルド家の家族の在り方を、どう評価すれば良いのか分からない。

でもまあ、アスクレーくんは私のお婿さんになるのだから、「私が巻き込んでアスクレーお兄様をウォーレス家系の色に染めてしまえば良いのだろう」ぐらいにしか考えていない。

私の周りの脳筋たちと適度に戯れさせて、アスクレーくんを脳筋風味にしてしまえば良いのだ。

脳筋に混じって違和感が無いぐらいに馴染んでくれれば、脳筋慣れした私の心理的負担が少なくなる。

アスクレーくんがハマるネタを見つければ、簡単に引っ掛かってくれる気がする。

ハロルド様みたいな感じに育ってくれればベターかな。

アスクレーくんは頭が良いから、ハロルド様ほど書類仕事を嫌がらないかも知れないし。

戦争だけじゃなく事務仕事にも頭が使えるインテリ脳筋・・・。

私がルナリアとウロウロ外出している間も領内の運営管理を進めて置いてくれるなんて、それだけで愛おしさを感じてしまいそうだよ。

そう言えば、アスクレーくんにも側近を付ける必要が有ると思うんだけど、どうするんだろう?

セリーナ様とお婆様でアスクレーくんの教育をすると聞いているのだから、あのお二方が側近を付けないわけが無い。

あのお二方の教育方針だと”側近たちも同じ教育を受けさせる”はずだし、ピックアップ中なのかも。

誰を付けるのか聞いていない、と言うよりも、ルナリアと一緒に居るせいか、私、アレースお兄様とアスクレーくんの他に、同年代の男の子はアリアナさんの弟さんしか紹介されたことが無いんだよね。

王都から帰ったらピーシーズ増員でピーシス領へ行くことになっているから、そこで紹介されるのだろうか?

私でも上手くコミュニケーションを取れそうな子たちだと良いなあ。

そんなことを考えていたら、馬列が速度を落とし始め、手綱を引かなくても乗馬は馬列に併せて自分で速度を落とし始めている。

そろそろ休憩かな?

街道の傍は、馬車で踏み込んでも平気そうな、広くて平坦な平原だし。

普通、街道近くに宿営地を置ける広さがあって清浄な水場がある場所となると、限られるものらしい。

ところが、元々、魔法術師の比率が高いウォーレス領軍の場合、人馬の飲用水の確保はそこまで重要では無いし、リテルダニア王国は温帯気候の内陸地で、乾燥帯らしく草地が多い。

つまり、騎馬部隊が主体のウォーレス領軍は、結構、どこででも野営できてしまうのだ。

歩兵もおらず、進めるだけ進んで野営だから、普通の軍隊と較べても圧倒的に進軍速度が速い。

それはもう、事前通達が無ければ各領地の貴族たちが付いて来られないぐらいに速い。

イレギュラーな事態に対する心構えが甘い“中立派”では、通過地点と通過時間の情報が領主に届いてテレサと会いに来ようとした頃には、とっくに通り過ぎているぐらいには速い。

歓迎されざるお客様が来ない野営地は、長閑で静かなものだ。

当然、警戒監視態勢は厳重極まりなく、ローテーションで不寝番を立ててはいるけど、日没から日の出までの約12時間を4交代制で9時間も休めるので、個々の負担は軽微なものだった。

将たるテレサも、騎士と同じように3時間の警戒任務を共にこなしていたので、騎士団での人気と忠誠は、うなぎ登りだよ。

“保守派”というよりも“テレサ派”なる新派閥ができたかの勢いだ。

ただでさえ可愛くて、賢くて、血筋も良いサラブレッドだからね。

森で一緒に過ごしていた護衛部隊の騎士様たちは、一歩間違えばテレサ教狂信者だし、口は固いけどテレサが治癒魔法を修得していることも目の当たりにしている。

自分たちの命が危ういときに治癒魔法で助けてくれるテレサを、女神のように崇め奉るのも無理は無いだろう。

彼らが強くなろうと森で懸命に頑張っていたのも、この辺りの心理が影響しているんじゃ無いだろうか。

もう、 王女殿下親衛隊(ロイヤルガード) でも結成すれば良いんじゃないかな。

どのみち、テレサの身辺を守る側近を育てる必要が有るし。

そっちも、セリーナ様から言われているし、どうするか考えないとなあ。

女性のテレサの側近には、みんなが、エゼリアさんたちのように屈強な女性騎士の必要性を感じているけど、ルナリアと私も、簡単にピーシーズを手放すわけには行かない。

ただでさえ、ピーシーズの増員が計画されているぐらいに人員不足なのだ。

心情的に抵抗感を抱いている自覚が、私には有る。

「誰かを出せ」と言われても、出せない。

出された、その「誰か」が、苦労する未来しか思い描けないから。

でも、「出せ」と言ってきたセリーナ様の心情も分かるし、必要性は私だって理解しているんだよ。

今回の護衛騎士さんたちのように、王都から送られてくる女性騎士をウォーレス領で鍛えることは出来るだろう。

しかし、それには、最低ラインで初顔合わせ当時のピーシーズ並みに鍛え上げられた子たちでないと、鍛える私たちの負担が大きくなりすぎるように思う。

一口に「女性騎士候補」と言っても、ほぼ一体のウォーレス領の本領とピーシス領でも、力量の差が隔絶していると聞いている。

戦闘民族ウォーレス家系の中でも、ピーシス家系は特殊の中の特殊らしいのだ。

実際、エゼリアさんたちも、ピーシーズも、一人の例外もなくピーシス領出身者だからね。

平凡に生きようと思えばウォーレス領だと仕事に困らないし、危険の無い仕事に就こうと思えば就ける。

そのせいか、ウォーレス領出身という女性騎士を見た記憶が無い。

じゃあ、ピーシス領には仕事が無いのかと言えば、普通に有るらしい。

ピーシス領の女性は、“自らの意志”で騎士という命懸けの職業に就いているわけだ。

幼少期から、日々、鍛える側の力量が飛び抜けているから、育つ子供の基礎値が高い、“虎の穴”のような存在がピーシス領だよ。

「虎だ! お前は虎になるのだ!」と言い聞かされながら、脳筋サラブレッドに育ったのがピーシス領出身者。

この脳筋特別養成所のような特殊環境は、そうそう簡単に作り上げられるものでは無いよね。

周りの環境の全てが脳筋だから、育てられる側も、何の疑問も無く脳筋に育つなんて、特殊としか言い表しようが無い。

そんな脳筋育成システムを、王都で一から構築する時点で、真の脳筋が携わる必要があるはずだ。

思考が袋小路に陥る。

ピーシーズから人は出せない。

私の大切な人たちを出したくない。

でも、テレサも大事だ。

簡単に片付く折衷案が有れば良いけど、そんなものは思い付かない。

必要に迫られていることは理解していても心が拒絶する。

やっぱり、一番ベターなのは、王都から女性騎士を呼び寄せて、信頼できる側近に育つまでテレサがウォーレス領に居てくれることだけど、テレサの立場が、それを許さない。

今、この瞬間、王都へ向かっている状況が、如実に現実を表している。

どうしたものかなあ・・・。

などと、答えが出ない問題に頭を悩ませている間にも、数日が過ぎ去り、とうとう王都が見えてきた。