作品タイトル不明
王都へ ④ ※アンサンブルキャスト面
本陣の天幕へ駆け込んできた伝令の騎士に、指揮官たちの視線が集まる。
「騎士団長閣下! ご報告いたします!」
「報告せよ」
ドネルクの重々しい声に、伝令の若い騎士は背筋に鉄芯が入ったように緊張したままだ。
直接話せる機会が少ない武官最高指揮官の前へ出れば、この緊張も致し方なかろう。
「降伏の使者が参っております!」
「ふむ。誰が来ている?」
「ザフカース伯爵、ティフリス子爵、並びに、カレロ子爵、それぞれ当主本人です!」
ドネルクの視線が天幕の下を見回す。
軍議机を囲む床机に着いているのは、バルトロイ、セクト、ハロルド、フレイア、そして、ドネルクだ。
それぞれの背後には側近たちが立ち、誰からも声は上がらない。
「会おう。通してやれ」
「はっ!」
命令を受諾した伝令が敬礼を残して駆け出して行く。
しみじみと言った顔でハロルドが深く息を吐く。
「漸く終わったか」
「ウォーレス卿、ピーシス卿、礼を言う。来てくれたお陰で、余計な血を流さずに済んだ」
「なに。早くレティアへ帰れるなら協力は惜しまんさ」
コキコキと肩を鳴らしながら軽く言うフレイアに、バルトロイは苦笑する。
ハロルドが現場指揮官となるネルドへと視線を移す。
「この後の仕置きは、どうされる?」
「叛乱軍を武装解除した上で、各本領へ監視部隊を向かわせる。各領の当主は王都へ移送。陛下の裁きを戴くことになろう」
本来ならば、派閥の首魁で有る宰相閣下の庇護下に有るため軽微な処分で済まされる恐れもあるが、宰相閣下が見捨てる素振りを見せている現状、奴等が許されるかどうかは不透明だ。
許されたとしても、小者程度、どうとでもなる。
よって、現状の仕置きとして、ネルドの判断に異議を唱える必要性は感じられない。
「妥当だな」
「では、さっさと片付けて王都へ向かうとしよう」
ハロルドが頷いたのを受けて床机から腰を上げたフレイアをドネルクが見る。
「当主どもに会うか?」
「私は特務だぞ? 陛下に代わって国賊を討つのが仕事なのだから、顔を合わせて生意気な口を利かれたら、陛下に代わって斬らねばならなくなる」
「それもそうだな」
叛乱に与した当主たちの投降を受けて武装解除は速やかに進められた。
叛乱軍側陣地の真ん中に武器・防具が積み上げられ、鎧下と下着と靴だけの姿になった騎士・兵士たちがぞろぞろと故郷へ向かって帰らされていく。
身柄を拘束されるのは領主一党と側近たちぐらいだ。
これが敵国の侵略軍だったら、こんな甘い処置では済まされないが、どこまで行っても王国の同胞なのだ。
王国民として見れば“融和派”も“保守派”も無い。
自らの意志で叛乱を画策したわけでも無い下級騎士や徴用兵士まで意味も無く拘束したところで、無駄に兵站を消耗するだけで誰の利にもならない。
当然ながら、隊長のセクトが率いる王都騎士団北部方面隊が進駐軍として各領地へ残り、反動勢力の洗い出しと処分を行うことになるが、新たな統治者が決まった際に労働力となる領民を残しておく必要が有る。
この北部地域での叛乱は、西部地域と違って、ほぼ、睨み合うだけで実際の戦闘は起こっていなかったので、主導的な役割を果たした一部の者が処分されるだけで終わるはずだ。
領主が代わっても王国に忠誠を誓うのであれば処分は軽いもので済むだろう。
つまり、これで内戦は終結したのだ。
王都騎士団の残留戦力の決定が済めば、王都へ引き揚げだ。
ウォーレス領軍とクローゼリス領軍は速やかに撤収作業を進め、後をネルド率いる北部方面隊に任せたドネルクを伴って帰途に就く。
王都での後始末を終わらせれば、レティアへ帰れる。
馬列の上空をピチュピチュと鳴き声を残して横断していく小鳥を見上げながら、ディーナが間延びした声を上げる。
「今回は長かったですねぇ・・・」
「冬の間だけで済んだのだから、まだマシでしょうに」
「ああ。夏まで続くと鎧は蒸れますからね」
はっはっは、とディーナが笑い飛ばし、その状況を想像できてしまった側近たちの間からも笑い声が上がった。
強い日差しに炙られた金属鎧の中は蒸し風呂よりも酷いのだ。
受けた衝撃を緩和する分厚い鎧下も着るのだから、 汗疹(あせも) が出来るのも当たり前だし、何より、汗を吸った鎧下は臭う。
切った張ったの戦場で気にする余裕なんて無いが、未婚女性としては嘆かわしい事態ではある。
今回の戦争に費やした期間は、おおよそ1ヶ月半。
王国領土の南端から西端へ、取って返して北端へ、と、2000キロメテル近い行軍を行いはしたが、一般的な遠征に較べれば短い。
短い間に色々なことが有りすぎて、ディーナは「長い」と感じてしまっているだけだ。
晩秋から始まって、まだ新年も迎えていないのだから。
普通、歩兵部隊を伴う戦役ともなれば年単位の軍事行動が当たり前のところを、本隊さえも置き去りにする異常な進軍速度と撃滅速度で走破し、2ヶ月も掛からず戦争を終わらせたウォーレス領軍の常識が非常識なのであって、その非常識が常識の側近たちは非常識さに気付かない。
気楽に雑談しながら馬列は進む。
戦が終わった後の凱旋ともなれば気が緩む。
気が抜けているのはエゼリアも同じだから、皆が軽口を叩くのを咎め立てることも無い。
残る仕事は、王都での、終戦・戦勝報告だけだ。
西部地域を片した時点で王都とレティアに早馬を出してあるから、王都へ帰り着く頃にはウォーレス家の次代たちも王都に着いているだろうか、と、エゼリアは冬晴れの青空を見上げた。