作品タイトル不明
解毒魔法 ⑰
翌朝、ワナの巡回をルナリアたちに任せた私たちは、早速、実験に取り掛かっている。
いよいよタイムリミットが迫って私たちの焦りもピークに達しているから、この強化合宿期間内に限っては、ルナリアが率いる剣術班に獲物の回収から出荷作業までを丸投げすることになったのだ。
合宿中も私たちの起床時間は変わらない。
周囲が開けた町でも薄暗い日の出前に起床するのだから、森の木々に日照を遮られた採掘場ともなれば、周りはまだ真っ暗だ。
徐々に明るさを増してくる中でキャットウォークから囲いの底を覘けば、昨日、十数頭まで減らしたはずのシカは、40頭近くまで数を増やしていた。
本当に、どうやって増えているのだろう?
夜通し観察すれば何かが分かると考えて、就寝時間に毛布を抱えて囲いへ向かおうとしたら、メイドさんに見つかって、夜の森は危険だからと、お婆様にお説教をいただいてしまった。
よって、お母様のレティア帰還まで、シカの増殖は原因を突き止められずに謎のままとなっている。
ナンナちゃんの手で麻痺させられた牡ジカが、投げ輪で角を吊られてキャットウォークに引き上げられた。
数人掛かりで速やかに四肢を縛られたシカの周りへと、テレサたちと一緒にしゃがみ込む。
毎日、繰り返していれば、みんな、手慣れた作業だ。
翳した両の手のひらから魔石を通して伸ばした魔力の手を、シカの魔力の「質」に同化させる。
シカの魔力に混じって、ヘビの魔力が感じ取れる。
潜り込ませた魔力の手の中に引き寄せて掴むイメージで、“体に悪いもの”を集める。
基準点は“健康体”だ。
体調が良い日の自分を思い浮かべて“健康体”の基準とし、“健康体”を脅かす毒など、“体に悪いもの”を差違として、魔力の手の中に掴み取る。
意識するのは「概念」で、個別の物質ではない。
「・・・お。イケそう」
昨日、ウナギみたいにニュルニュルと逃げようとした“体に悪いもの”が、今日は「掴めている」感触が有る。
シカの体内を潜らせたままで顔へと向けてズルズルと引っ張り、一気に引き抜く。
「・・・ていっ」
「ゲボッ」
イケた!
目・鼻・口の5箇所の穴から液状となって吐き出された“体に悪いもの”は、宙に浮いた魔力の手の中に留まっている。
イメージしている当人の私から見れば“手の中”だけど、周りで見守っているみんなからすると、シャドーボクシングしていた私の拳の先に、汚い色の液体が浮いているようにしか見えないだろうね。
「「「「「おおー!」」」」」
濡らした手ぬぐいで覆面しているテレサだけでなく、治癒魔法に取り組んでいる騎士様やピーシーズからも感嘆の声が上がった。
一方で、待ち構えていたオーリアちゃんが、目を覚ましたシカの鼻先にヘビの毒を染み込ませた布をサッと被せて、シカは再び昏睡状態に陥らされる。
昨日と違ってシカの角までキャットウォークにロープで縛り付けて有るので、分厚い革手袋を着けた麻酔担当のオーリアちゃんも安全に作業できている。
殺さずに済んだ実験体のシカは角に目印の布を縛り付けてあるので誤って出荷されることはない。
シカもリボンみたいに布切れを縛り付けられて、ワンポイントのお洒落みたいで気に入っていることだろう。
牡だけどね。
両手に拳を作って見守ってくれていたテレサが、期待に満ちた目差しを投げてくる。
「どうでしたの?」
「・・・昨日よりも、めっちゃ楽」
「そうですのね!」
テレサの表情が、パァッと明るくなった。
MVPはルナリアだな。
「毒が~」とか「鉱物系が~」とかでは無く、“体に悪いもの”をシカの体内から引き抜けた実感がある。
脳筋的発想での大雑把さが魔法技術のファンタジーパワーを呼び起こし、問題点を乗り越えさせてくれた。
身体強化魔法のときも突破口はルナリアの脳筋ムーブだったし、何気に魔法と脳筋は親和性が高いのかも知れない。
あとでルナリアと、ついでにノーアも撫で撫でしてあげよう。
「・・・これなら、時間が経って判別出来なくなった毒でも引っこ抜ける気がするよ」
「私もやってみますわ」
「・・・概念だよ。概念」
「直接的に毒の魔力を探すのではなく、“体に悪いもの”を手の中に集める・・・でしたわよね?」
「・・・そう。シカの体全体に魔力の手を染み渡らせてから、キュッと握る感じで」
「ええ。―――、んん。・・・むむむ」
眉間に皺を寄せて集中するテレサが“引っこ抜き”を成功させたのは、数度のチャレンジの末だった。
そして、タイムリミットが、やって来る。