作品タイトル不明
解毒魔法 ⑯
採掘場内に新設された食堂での夕食時、同じテーブルを囲むテレサと私からの報告に、セリーナ様とお婆様が目を丸くしている。
今日はお二人とも、監督役と先生役を兼ねて来ていたはずなのだけど、いくらでも食べるノーアの餌付けが楽しくて熱中していたらしい。
王国語を教えながら餌付けしてくれていたそうで、ノーアの滑舌が良くなっていて驚いた。
「体内の”毒を抜く”、ね・・・。まさか、本当に出来るとは思わなかったわ」
「素晴らしい成果ですよ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
はにかんでお礼を返すテレサの喜びに水を差すつもりは無いけど、行き詰まっている現状を考えれば喜んでばかりは居られない。
お皿に山盛りに盛られたシカ肉とお芋とタマネギのソテーをフォークの先で突っついて苛立ちをぶつける。
このお料理、ボリュームが有るし、なかなか美味しいね。
お肉の肉汁とタマネギの甘味を活かしたソースがお芋に染みてホクホクだよ。
パンにも合うし、あっさり目のスープにも合う。
「・・・ただ、体に入ったばかりの、他の生き物の毒―――、特有の魔力を持った毒しか認識できそうに無いのです」
「十分な成果でしょうに」
お婆様は宥めるように言ってくださるけど、それでは足りない。
採掘場は移住民の就職先にもなっているので、食堂にも給仕係が雇われており、ピーシーズもテレサやルナリアの給仕で食事の時間をずらす必要が無く、一緒にテーブルに着けているので食堂はとても賑やかだ。
だから私も喧噪に負けないように大きめの声で喋るようにする。
「・・・それはそうなのですが、時間が経つと、毒が纏っている魔力―――、特定の痕跡は薄れるものなのですよね?」
「ええ。例えば、人が死ぬと、時間の経過と共にその人の体内魔力も失われるものです」
「・・・だとすると、体に入って時間が経った毒も徐々に魔力を失って、そのうち鉱物の毒のように判別出来なくなると考えた方が良さそうです」
「それではダメなのかしら? 固形物の毒ならば吐かせることも出来るわよね?」
セリーナ様の目を見て、しっかりと頷く。
「・・・今、テレサが目指しているのは、王妃様の治療ですから」
「フィオレ・・・」
「そうだったわね」
目を潤ませるテレサにも頷くと、セリーナ様は痛ましそうに溜息を落とした。
王妃様の毒殺未遂事件が起きたのは今から1年ほど前。
私がムーアの町まで運ばれて来たであろう去年の年末よりも、さらに前のことらしい。
夜会の場で飲み物に毒を仕込まれて王妃様と、他、数人のご婦人方が倒れ、毒を入れた実行犯と見られるメイドは、行方不明の末に、翌朝、王都の下町で他殺体となって発見されて事件の真相は分からず仕舞いなのだと。
それって普通に考えて口封じだよね。
つまり、真犯人は、まだ、のうのうと生きているはず。
事件現場となった夜会に居合わせた魔法術士団の治癒魔法を使える魔法術師が応急処置を施したお陰で、王妃様は一命を取り留めたけれど、処置が間に合わずに亡くなったご婦人も居られるそうだ。
話を聞けば聞くほど、テレサに治癒魔法を修得させておかなければ、という思いが強くなる。
2度目、3度目が起こらない保証など、どこにも無いんだよ。
事件の真犯人だって捕まっていないし、テレサたちを狙うのが、その真犯人だけとは限らない。
私の本音を言えば、怪しい奴は片っ端から追い出してテレサたちの安全を確保したいところだけど、お母様たちでさえ手を出せていないのだから、私に出来ることはテレサの防衛力と対処能力を引き上げることだけだ。
ノーアを挟んだ私の隣の席でノーアとお肉の食べさせ合いをしていたルナリアが首を傾げる。
「ねえ、フィオレ」
「・・・何?」
「そもそも、毒って何?」
「・・・うーん? 体に悪いもの、かな。ほんの少ない量でも人の体を壊したりするもので、一見、毒じゃないように見えても、量が多くなると体に悪くなる物もあるよ」
「ふぅん? それこそ“体に悪いもの”じゃダメなの?」
「・・・ふむ。“体に悪いもの”・・・か」
ルナリアが言っているのは、物質的な意味では無く、概念的な意味だろう。
今日、私が試みていたのは“異物”を探すことで、それは、物質的な意味になっていなかったか?
「・・・概念的な“異物”であれば、掴まえられる?」
意識せず、私の目が宙を彷徨う。
そっか。検索方法の違いだ。
何か見落としてる気がしていたのは、私自身の視野が狭まっていることに対する違和感だったのだろう。
インターネットの検索エンジンに検索ワードを入力した場合、単語一つで検索するのと、複数の単語を同時に検索するのと、複数の単語の並び順の違いでも、検索結果は違うことが有った。
ルナリアの言う“体に悪いもの”の意味の違いは検索ワードの違いに成り得るのでは?
デフォルト位置を“健康体”だと仮定して、“体に悪いもの”を概念検索すれば、どういう結果になるのだろう?
案として悪くないかも。
「ねえさま」
「・・・えっ? あ。ありがとね、ノーア」
ノーアの声で現実に引き戻されて、口元に差し出されていたフォークに刺さったお肉を食べる。
もぐもぐもぐ、ごっくん。
お返しのお肉をフォークに刺してノーアに食べさせながら隣を見る。
「・・・ルナリアも、ありがと。それ、明日、試してみるよ」
それにしても、一日中、お婆様たちが干し肉を与え続け、その上、食事時には私よりも多くの量を食べて、まだ食べるノーアの胃袋は、ブラックホールか何かなのだろうか?