作品タイトル不明
解毒魔法 ⑮
毒が抜けて全身麻痺が解けるにしても、あんなに一気に動けるようになるとは予想していなかった。
「急に動けるようになったということは、解毒―――、いいえ、毒を分離することに成功したと考えて良いのでしょうか?」
気を取り直して近付いてきたテレサがシカの体に両手を翳したので、私も、もう一度、シカの体に魔力の手を潜り込ませてみる。
「・・・どうだろう? シカの体からヘビの魔力は感じ取れなくなってるようには思うけど」
「本当ですわ。でも、これって、毒が分離できたかどうか、どうやって確かめればいいのでしょう?」
「・・・うーん」
そうだねえ。
シカは、もう死んでるし、生きていたとしてもシカは「体調が良くなったよ!」とか、人間の言葉を喋ってはくれない。
毒が抜けたら体の色が変わるとかしてくれれば分かりやすいのに、なんて気が利かないシカなんだ。
「・・・確かめようが無いな。死刑囚にでもお肉を食べさせてみる?」
「なかなか、エグいことを言いますね」
テレサが苦笑する。
すでに人体実験は治癒師さんに行わせているし今さらだよ、とは、ちょっと言いづらいな。
凶悪犯罪者なんてものは人の道を踏み外した野獣だと思っているし、命の最期に人の役に立てば良いよと思ってはいるけど、人間の形をした生物を明け透けに実験動物扱いは、さすがに聞こえが悪いってことぐらいは私にも理解できる。
テレサやルナリアに怖がられて避けられたら、さすがの私も、泣く自信が有る。
「・・・で、でもまあ、何らかの成果は有ったっぽいから続けてみよう」
「そうですわね」
私たちには時間が無いんだよ。
シカで確かめようが無いなら、自分の体調を言葉にして喋れる「実験動物」で試すしか無い。
今は、私が手応えを感じた方法をテレサに伝授して技量を引き上げる方が先だ。
「どう、やりましたの?」
「・・・ヘビの魔力を意識しながら、魔力の手に“集まれ”って念じながら掴んだ・・・のかな? 確信が持てないから、もう一度やってみるよ」
テレサと話しながら私が目で合図すると、ピーシーズが次の牡ジカを全身麻酔状態にする作業に取り掛かった。
今度は目を覚ましても身動き出来ないように、昏睡状態のシカの足を縛るだけじゃ無く、キャットウォークにも縛り付けて厳重に対策する。
2度目、3度目と回数を重ねるごとに、混じった魔力からヘビの魔力―――毒成分だけを掴み取る感覚は明確に感知できるようになり、私の所感をテレサに説明する。
真剣に聞き取って脳内でシミュレートを重ねたテレサは、一発でヘビの魔力を掴んで見せた。
どこまで毒を抜けたのかは分からない。
でも、汚く濁った液体を引き抜いたシカは例外なく目覚めて再び毒を嗅がされる羽目になったのだから、きっと、動ける程度にまで毒が抜けたことには違いないのだろう。
また、シカでの実験を繰り返す中で確信に変わってきたことが一つ有る。
「質」を似せてシカの体内魔力の中に私の魔力の手を潜り込ませることが出来ても、魔石の魔力を扱うようにシカの魔力を私の意志で動かすことは出来ないのだ。
これが、どういうことなのかは分からないけど、どうにか治療に活かせないものだろうか?
色々と試していたら、意識が有る相手の体内魔力には、「質」を似せた魔力の手でも弾かれて潜り込めないことと、拒まずに受け入れてくれる人の体内魔力には、魔力の手を潜り込ませられることが分かってきた。
森の中が暗くなってきて、日没の時間が近くなって来たことで、今日の特訓は終了となった。
手応えは有るから、治療経験を重ねれば精度は上がってくれるんじゃないかな。
問題は固有の魔力を纏っていない無機物の毒をどうやって判別して抜くかだなあ。
何か見落としているようでスッキリしない。
基礎的な感覚は掴めてきていると思うから、どうにか応用して無機物に対応できないものだろうか。
ピーシーズと騎士様たちが実験体のシカを囲いの底へと戻す作業を始めている。
殺さずに済んだ実験体は、囲いの底に戻しておけば、いつも通り勝手に回復して、明日の朝にはケロッとしているだろうし、大自然の不思議を信じるとしよう。
最初に殺処分してしまった牡ジカのお肉は、毒が完全に抜けているか確信が持てなかったのと、棄てるのも勿体なかったので、他のお肉とは判別出来るような形で干し肉加工して“融和派”領地向けか国外向けの輸出用に回して貰おうっと。
王国の未来のためだ。
“融和派”領地の人たちや外国の人たちも、喜んで人柱となってくれることだろう。
あ、そうだ。
商人のハンスさんに頼んだら、勇王国か神教会勢力圏の西方諸国で売り捌いてくれないかな。
あの辺の連中なら、万一、お肉に毒が残っていて誰かが死んだとしても、私の心は痛まない。
食べられるはずだったお肉を無駄にする方が、私の心は痛むからね。
安く卸せばお願いを聞いて貰えないか聞いてみよう。
セリーナ様に私たちだけでの接触を禁じられているけど、セリーナ様を通じてハンスさんに聞いて貰うのは有りかな。
体内に蓄積して“三年殺し”的に遅効性で効く毒が開発できたときに備えて、散布経路を構築できていれば、戦わずして勇王国や神教会に勝てる未来が開ける可能性もゼロでは無いはずだ。
“三年殺し”っていうのは、私がイジメに遭っていた頃に、アイツらを何とかバレずに始末できないものかと図書館のパソコンで検索していて辿り着いた日本の暗殺術(?)だよ。
フィクションなんだろうけど、何とか実用化できないものかと人体の内臓を調べて、私が“脾臓”という器官の名前を覚えた記念すべき伝説の必殺技だ。
イジメの方は、誘い込んだ山でククリ罠に掛けて逆さ吊りにしてやったら、よほど怖かったのかピタリと止んだんだけどね。
その事件で私は抵抗することの大切さを学んだ。
“三年殺し”なあ・・・。
「死ぬ」まで行かなくても、因果関係を掴めない程度の迂遠さで「男女を問わず禿げる」とかでも良いよ。
西方諸国が「スッキリした頭部に性的興奮を覚える特殊な性癖」の人だらけで無ければ、出生率が下がって、そのうち勝手に滅んでくれるかも知れない。
どこかに無いかな? そんな毒。