軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

解毒魔法 ⑬

騎士様の顔を見上げる。

「・・・お酒、飲みますか?」

「酒ですか? 一応、嗜みますが」

「・・・カップに口を付けて飲んだお酒は、どこへ行きますか?」

「胃、ですよね。その後は、腸ですか」

うんうん。合ってるよ。

合ってるけど、その先の生物的な知識を得られていないのだ。

ケガも病気も治癒魔法や回復薬で理屈を素っ飛ばして治っているように見えるのだから、人体の構造に関する知識が広まっていないのだろうね。

この辺りは、魔法が便利なせいで物理面や科学面の知識が浸透していないのと同じ。

こっちの世界の風潮なのだろう。

だったら、身近な現象を挙げて理解を後押ししてあげれば良い。

「・・・でも、夏の暑い日にお酒を飲んだら、汗がお酒臭かったりしませんか?」

「あっ。なるほど。酒が肉を浸透しているんですね」

「・・・そんな感じです。もう一度いうけど、体に入るときに浸透するなら、取り出すときに浸透出来ないわけが無い」

騎士様だけでなく、テレサも大きく頷く。

正確に言えば、「浸透」しているわけでは無いし、そのぐらい、医療に詳しくない私でも知っている。

でも、内臓で吸収された成分が血液に乗って全身に運ばれて―――、なんて説明するよりも「浸透」と言った方がイメージしやすいはず。

「そうですわね。こうやって、毒が体に取り込まれる過程を理解すれば、逆回しで浸透する前の状態に戻すように、想像することができるかも知れませんわ」

「・・・毒を集めるのと、併用できそう?」

テレサの横顔を覗き込むと、思案顔のテレサは知識を反芻するようにしている。

「一つの効果の内だと認識できるかどうか、ですわよね?」

「・・・そうだね。経験上、“そういうもの”だと認識するのが手っ取り早いはず」

最終的に、それが難しければ、解毒と治癒で分けて魔法を掛けるしか無い。

考えるだけでは前へ進めないと結論したのか、テレサはシカの体へと手のひらを翳す。

「先ずは、異物を認識するところから始めて見ましょうか」

「・・・ヨシ。やろう」

と、話した後、すでにテレサと私は2時間近く唸り続けている。

「むむむ・・・」

「・・・むむむ」

結論、“異物”と定義して毒を集める方法は上手く行っていない。

外側からだと“異物”もシカと同化していて判別できなかったのだ。

だったら、内側からならどうだ? というわけで、全身麻酔状態のシカの体に両手を翳して魔力を伸ばすと私のものとは異質なシカの魔力が感じ取れる。

このままだとシカの魔力に阻まれて、体の表面を撫でるだけで体内まで探ることは難しい。

そこで、魔石の魔力を扱うときと同様に、自前の魔力の質を変化させてシカの魔力の内側へ潜り込むのだ。

シカの体に入っているのは魔力だけだから、骨も内臓も筋肉も関係無く透過して魔力の手は動かせる。

当たり前の話だけど、内側に入り込んでしまうと360度すべてがシカの魔力一色に塗り潰されてしまう。

感覚的に表すと、目隠しされて初めて入った他人の家を手探りで家捜ししているようなものだ。

テレサが言っていたように、確かに、シカの魔力の中に触覚ヘビの魔力が薄く雑じっているように思えるな。

恐らく気のせいでは無いはずだ。

異物と言えば、今、シカの体内魔力にはテレサも同時にアクセスしているはずだから、質を似せているにしても、理屈上は、テレサの魔力も感じ取れるはずなんだよね。

それが感じ取れていないってことは、感知精度の―――、感度の問題なのかも知れない。

もっと微細に、もっと集中して感じ取れ。

「・・・あ」

「あら」

なんか、馴染みの有る魔力に触れたような気がして、テレサと私は同時に声を上げた。

確かめるためにピトピトと魔力の手で馴染みの有る魔力に触れてみる。

向こうも私の魔力を確かめるようにツンツンと突っついているようだ。

「・・・やっぱりこれ、テレサの魔力だ」

「ですわね。フィオレの魔力ですわ」

似せているにしても、似すぎというか、分からなさすぎだろ。

ここまで分かりにくいってことは、これって、やはり感度が低すぎる状態なのか。

テレサの魔力に意識を集中しても、目隠しで手探りしているような状況が改善することは無かった。

もう一手、何か必要だなあ。

目で見ても分からない時って、地球だと、どうやってたんだっけ?

ソナー的なもの?

ソナーって音波だっけ。

非破壊検査も音波だな。

目的からして、ちょっと違うか。

視覚フィルター?

サーモグラフィー的な。

それを言ったら電波望遠鏡も一種の視覚フィルターだよね。

電波の波長を変えることで、何かの分子だったか特定のものだけを可視化できるものだったはず。

とはいえ、魔力に目玉が付いているわけでも無いのに魔力が見えるわけも無く、行き詰まる。

「・・・くそぅ。上手く行かない」

休憩中のテレサは、ぐったりしている。

いつもの魔力切れだな。私も魔力切れ寸前だけど。

しばらく休憩しないと復活しないんだよ。

自前の魔力で上手く掴めないものを魔石を通しては、もっと掴めなくなるのは明白だからね。

さて、どうしたものか。

タイムリミットが近いせいで気持ちが焦って発想が硬直してきている気もするし、これは良くないな。

少し向こうを見渡すと、ルナリアがマーミナさんとマーリカさんの二人を相手に1対複数の立ち回りを教わっている姿が見える。

ルナリアは剣術優先で魔法を後回しにしては居るけど、コツコツと頑張って、日々、成長している。

ノーアはセリーナ様とお婆様のお二人に餌付けされている最中。

王国語が話せるようになってきて、セリーナ様もお婆様もノーアに構う時間が増えてきている。

文字学習の時に私が与えていたものと同じサイズにカットされた干し肉を、与えられれば与えられるだけ食べているけど、あれで朝昼晩の食事もペロリと食べて、ぽっちゃりする気配も無いのだから、ノーアは間違いなくアンリカさんみたいなバインバインのお色気ナイスバディに成長するはずだ。

ピーシーズのみんなも、今日はアレができるようになった、明日はアレだ、と、日々、成長している。

テレサだって、光魔法だけじゃなく、ルナリアと一緒に早朝から素振りしていたり、風ジェットカッター魔法の練習をしていたりで、今だって、立ち上がるのも億劫になるぐらい解毒魔法の練習に打ち込んでいて、挫けずに頑張っている。

私も負けていられないよ。

胸元に手を当てて体内魔力の回復具合を確かめる。

昼食の時間まで、もう一回は頑張れそうだな。