作品タイトル不明
解毒魔法 ⑫
はてさて、いよいよタイムリミットが見えてきた私たちは解毒魔法の追い込みで有る。
1分1秒も無駄にしたくない私たちに、可愛い姪孫のためならば、と、お付き合い頂けることになったセリーナ様とお婆様まで一緒に同行しての、第二次採掘場泊まり込み強化合宿を行うことになったのだ。
この強化合宿を提案したのは、何と、セリーナ様で、ここのところ私たちの生活リズムが乱れがちで、引き締めを図ろうとする意図も見える気がするので、乱れている自覚が有る私としても―――、というか、連日の夜なべで生活リズムを乱している元凶の私としては、ご指摘を受け入れて、出来る限りご指導に沿いたいと考えている。
仕方ないんだよ!
時間も無いし、ヒントが欲しいし、夜なべして文献を漁ってでも情報が欲しいんだから!
集団行動は個人行動の制限と同義でも有って、テレサとルナリアの邪魔をしない形で読書をしようと思ったら、二人が眠りに落ちた後になるんだよ!
レティアの町では、午前0時に“1の鐘”が鳴って、午後9時の“8の鐘”まで3時間ごとに領軍が管轄する鐘楼で鐘が鳴らされている。
この鐘の音に準拠して、直近の私たちの生活スケジュールは、早朝、“3の鐘”が鳴る、日の出直前の頃に起床したら、少し体を動かしてから身支度を整え直して、朝食を摂り、直ぐに森へ。
町に近い街道周辺は領民がワナを仕掛けているので素通りし、小グループに分散して採掘場周辺のワナに掛かった獲物を回収しつつ血を摂って、ワナの獲物と採掘場で囲いのシカの回収分を併せて出荷した頃には、“4の鐘”が鳴る時間になっている。
昼食前後の数時間ずつを各自の目的である訓練に取り組んで、“7の鐘”が鳴る少し前の日が暮れるギリギリに領主館へ帰還する、と言うものになっていた。
獲物を馬車まで担いだりもするから、魔力も体力も消耗する、かなりの脳筋スケジュール。
領主館へ帰ったら夕食の時間も近いので、直ぐに浴室で洗浄され、成果や出来事を報告しつつ夕食を摂った後には、くたくたになっている日が殆どだから、座学に充てる時間が取れていないのが実情で、お婆様たちは、特に、この点がご不満だったのだ。
ルナリアたちの就寝後に私が自分の勉強や読書に充てる時間が取れていないぐらいなので、ルナリアやピーシーズが、どんどん脳筋化を加速させている現状には私も危機感を覚えているし、お婆様たちの危惧も、もっともだ。
このままではテレサと私も含めて全員が、頭の中まで筋肉の塊になってしまう。
テレサに残された残り時間とレティアで学べるものの大きさを比較して、お婆様たちも苦言を言うに言えず、頭を悩ませた結果、せめて、町との往復時間に掛かる数時間を座学に充てようと、メイドさんたちまで引き連れて、採掘場での第二次強化合宿が開催されることになった。
すでに斬り傷程度なら治癒できるようになっている私とテレサは、治癒魔法の練習だけなら街中でも出来るようになっている。
私は採掘場へ来れば、いつでも練習できるし、王都へ帰ったテレサはケガ人が頻繁に出る騎士団や守備隊で練習を重ねられるらしい。
よって、今、この場でしか出来ない練習と言えば、ヘビの毒を使った解毒魔法となる。
これが、感覚が掴めなくて本当に難しいんだよね。
何度、チャレンジしても、スッキリと自信を持って達成したと言えない。
こうしてはどうか、ああしてはどうか、と、互いに案を出しながら、試行錯誤を繰り返す。
今日も今日とて、ピーシーズの半数を連れたルナリアは剣術と身体強化魔法の練習に向かい、私の周りに居るのは、テレサとテレサの護衛騎士とピーシーズの内の、魔法を得意とする面々だ。
そして、私の手に握られているものは、念のため領主館のメイドさんに道具屋のハンスさんの店へと買いに走って貰った“雷石”―――、磁石である。
私の知らない間に届けられていたようで、私はハンスさんの顔を見ていないけど、磁石だけが私の手元へ届いていた。
「・・・良い? 見ててね」
掘り起こして解した土に磁石を押し付けて、ズズズと横滑りさせる。
地中に全く鉄分が含まれていない、なんてことは無いだろう、との予測の上での実験だ。
解した地面に、殺人現場の現場検証のような人型が描いてあるのは、「人体を模していれば視覚情報として認識しやすいのではないか」という仮説によるものだ。
紙と磁石と一握りの砂鉄が揃っていれば“磁力線”を視認させられてイメージしやすくなると思うのだけど、まだ手元に砂鉄が集まっていないから、そちらの実験は後回しにしている。
「・・・おっ。採れるね」
土の上を滑らせた磁石に、それほど多くは無いけど赤茶けたヒゲが生えてきている。
砂鉄集めなんて珍しい物では無いはずだけど、治癒魔法の修得に意欲を示している護衛騎士さんたちも、子供の遊びと笑わずに私の手元を覗き込んでいる。
「・・・魔石の魔力を扱うように、患者さん本人の魔力と違う異物を集めて引っ張ってくる感じだよ」
「集め終わったらどうするのかしら?」
「・・・口でも鼻でもお尻でも、どこでも良いから、空いている穴から引っ張り出せば良いんじゃないかな。―――あ、痛」
仕方ないことだと思うけど、言い方が下品だと思ったのか、隣りにしゃがみ込んでいるテレサに背中をペチンと平手打ちされた。
だって、仕方ないじゃん。
傷口が有れば、そこから引っ張り出せるけど、傷が無ければ元から空いている穴から出すしか無い。
人の命が掛かってるのに、下品も何も有ったものじゃ無いよね。
何よりも大事なのは、より具体的にイメージすることで、取り出す方法も具体的で有れば有るほど良いに決まってる。
「・・・まだ体に吸収されていない固形物なら、大量に水を飲ませて吐き出させたり、排泄させたり出来ると思うよ。でも、体に吸収されて血に雑じっちゃった毒だと逆に絞り出すしか無いんじゃないかな。内臓の肉を浸透して吸収できるのなら、取り出すときも内臓の肉を浸透できない道理が無い」
「ちょっと良いでしょうか」
「・・・はい。どうぞ」
手を挙げたのは、テレサの護衛騎士の一人だ。
騎士様らしく筋肉モリモリでゴツい感じに見えるのに、知性的な目をしていて、ハロルド様みたいな印象を受ける人だね。
「その、“内臓の肉を浸透して吸収”というのが、今ひとつ想像しにくいのですが」
「・・・ふむ」
物理法則や化学反応を用いた医療の概念が浸透していない、こっちの世界だと、仕方ないだろうね。
騎士様たちには囲いの底からシカを吊り上げる手伝いもして貰って居るし、私も真っ直ぐ向き合って彼らに応えるべきだ。
第三者への説明を聞くことでテレサの理解が深まる一助になる可能性だってある。