作品タイトル不明
解毒魔法 ⑪
ハインズ様の目を、しっかりと見据える。
私に覚悟がなければ、ハインズ様やお爺様の許可は得られない。
このお二人の許可を得られない程度の案なら、王様たちだって安心しないだろう。
「・・・陛下と宰相閣下にとっても、お母様とハロルド様が揃って退いてウォーレス家が弱体化したように見えるのは、喜ばしくない事態なのでは無いでしょうか」
「ドネルクも騎士団長の任から退くと言っておるようだしな」
「・・・でしたら、尚更ですね」
「何をするつもりだ?」
「・・・いえ。お母様は国王陛下から“白焔”の称号を賜ったのですよね? でしたら、お母様が退いても“白焔”は―――、ウォーレス家は健在なのだと内外に示せられれば、国王陛下と宰相閣下の不安を幾らかは払拭できませんか?」
数秒間、私の顔を見つめたまま動きを止めたハインズ様とお爺様が、顔を見合わせる。
お二人が同時に私へと顔を向け直してきた。
ほんと、息があっているというか、仲良しだよね。
「お前も“紅蓮”を身に付けているとなれば、演武を命じられる可能性は有るな」
「武威を示して内外に睨みを利かせ続けようというわけだな?」
「・・・そうなりますね。本当に、するかどうかはお母様たちのお考えを仰ぎます」
軍事演習(デモンストレーション) だ。
戦争の抑止に繋げるための示威行動なら、お母様は、きっと許可をくれると私は考えている。
全力の“恒星”で王都中がビビりまくるような花火をブチかましてやる。
お母様たちが西部の城塞都市を半壊させたばかりなのだから、効果は覿面だろう。
とはいえ、魔石使用法はあんまり王都で見せたくないなあ、なんてことを考えていたら、ハインズ様が面白そうなものを見る目で笑みを浮かべている。
「お前はレティア卿のようなことを言う」
「・・・初代様ですか?」
予想外のお名前が出て来たな。
「レティア卿には逸話が有ってな。剣を取って国の守りに就いたとき以来、公の場でドレスを身に付けることは無かったそうだ」
「庶子とは言え、王女のお一人だったにも関わらずな」
ご自身をビジュアル的に強く見せるため?
ご自身に対する戒めなのかな?
「・・・覚悟、でしょうか」
「いや。婚姻外交のために王都へ戻れと言って来るくせに、兵を率いて国防に資するわけでもなく、安全な王都から御兄弟を出したがらない王宮に対する当て付けだな」
「真の思惑は分からんが、儂らは、そう感じておる」
「・・・おおぅ・・・」
王宮に対して「お前たちとは違う」と態度で示すためだったか。
お母様そっくりな人が、軟弱な王宮貴族を鼻で笑って蹴り飛ばす姿を幻視してしまった。
相当に気の強い女性だったことが窺える逸話だ。
「もっとも、その当て付けで王宮の反発を買って、臣籍降下の際に公爵ではなく侯爵の爵位に留められたそうだが、レティア卿の心意気こそが我らの誇りだ」
「フレイアのように、面倒だからドレスを嫌ったという説もあるのだがなあ」
うわあ・・・。
いよいよ、初代様とお母様の姿がダブって見えてきたよ。
楽しそうにテレサが微笑む。
「男性式の作法で拝謁すれば、お父様も驚かれると思いますわ」
「そうしたければ、シェリアから作法を教わると良い」
「・・・良いのですか?」
おや、意外。
この手の話で、お爺様からすんなりと許可が出るなんて。
「フレイアも、承継の折は男性式で拝謁したのだ」
「・・・お母様もですか?」
「王宮の腰抜けどもに舐められて堪るか、とな。本音はヒラヒラしたドレスを着るのが嫌だっただけだろうに」
お母様は、剣や魔法だけじゃ無く、口が立つからなあ。
たぶん、お爺様が言い負かされたのだろうね。
そこで気付いた。
「・・・・・・あ。でも、乗馬服で国王陛下に拝謁するわけには行きませんよね」
こっちの世界では、日本みたいに、その辺に低価格スーツ屋さんみたいな既製服を売っているお店が有るとは思えない。
ところが、ハインズ様は何のことも無い感じでティーカップに口を付ける。
「衣装なら、フレイアがドレスと併せて男装の衣服も作らせていたはずだ」
「使うことが有るかも知れぬと言ってな。お前たちのどちらかが、真似ると言い出すことを予想していたのだろう」
「フレイアの予想が当たったな」
さすが、お母様。
すでにお母様のお許しが出ているということだ。
だったら遠慮なく甘えさせて貰うとしよう。
「・・・では、そうさせていただきます」
「私も! 男性式で拝謁するわ!」
「それで構わん」
ノーアと遊んでいながらも、ちゃんと聞いていたらしいルナリアも参戦してきた。
目元を柔らかくしたハインズ様がルナリアに頷く。
お母様に憧れていたルナリアは、カッコイイのが大好きだからね。
剣に入れ込み始めてから筋肉に脳を侵食されつつ有るように見えるルナリアだけど、地の頭が良いから、難しい話でも、ちゃんと付いて来られている。
ハインズ様の判断を見届けた上で、お爺様の視線が私へと戻ってくる。
「ただし、無様を晒さぬよう、しっかりと作法を身に付けよ」
「ちゃんと出来るかどうか、王都へ発つ前に見せて貰うぞ」
「分かったわ!」
「・・・承知しました」
出された宿題に、ルナリアは元気に頷き、私は頭を下げて受諾した。
早速、お婆様を掴まえて作法を教えて貰わないと!