軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

解毒魔法 ⑩

「・・・ふむ」

宰相さんは王様の幼馴染みで、すでに文官のトップの座を手にしているのだから、お兄さんを次の王様にして傀儡にするような「直接的な利益」を狙わないので有れば、現状よりも上の地位は存在しないように思える。

もしかして・・・。

でも、そんなことってある?

「・・・ハインズ様。もしかして、ですが。宰相閣下は、“融和派”にも、テレサのお兄様にも興味が無いのですか?」

「むっ?」

「何?」

「えっ?」

ハインズ様とお爺様とテレサの三人が目を丸くする。

ルナリアはまだノーアと遊んでいる。中でもテレサは、とても驚いたようだ。

ハインズ様とお爺様にとっても予想外なのか。

「なぜ、そう考えた?」

「・・・“融和派”も、テレサのお兄様も、宰相閣下にとっては、利益どころか足枷になる存在に見えるからです」

「“融和派”は兎も角、カレリウス殿下もか?」

「・・・敵かも知れない方と王宮で相対する事態になった場合に、私はどう向き合えば良いものかと考えていたのですが、何が目的かを考えたときに、文官の頂点である宰相閣下にとって、王国の安泰―――、現状の地位を維持することが最大の利益なのでは無いかと」

「現状維持こそがサリトガにとって最大の利益、か」

「有り得る・・・のか?」

ハインズ様とお爺様が、意見を求めるように、互いに目を合わせる。

「・・・はい。だとすれば、早々にご自分から王宮で軟禁されて“融和派”を切り捨てるような態度を取られたことも、“融和派”の領地が防衛を疎かにして武力を持っていないことも、テレサのお兄様の行状を咎めることもせず放置なさっていることも、すべてに説明が付くのではありませんか?」

一国のナンバー2が自分の現状維持だけしか見ないのか、と、驚く気持ちは有るけど、王様の目的と宰相さんの目的は矛盾しない。

宰相さんにとって、王様とご自分の目的以外は、どうでも良いことなのではないか?

その心理を私は日本で嫌と言うほど見てきた。

好意の対極は嫌悪感では無い。

―――そう。無関心だから。

「“融和派”については納得できるが、カレリウス殿下については、何故だ」

「・・・テレサが居ます」

「私ですか?」

言われたことの意味が分からなかったようで、テレサが瞬く。

「・・・テレサのお兄様について、宰相閣下ご自身は見切りを付けて居たのだとすれば、お兄様が何をしようが、どうでも良い些事だったのではありませんか? お兄様のお母様が陛下に嫁いだ時点で、宰相閣下の目的は達せられているように見えます」

「サリトガはカレリウス殿下を推しているのでは無い、と?」

「・・・テレサのお兄様を推すと、宰相閣下は公言なさっているのですか?」

「しては居らぬな・・・」

「では、お兄様本人と周囲の“融和派”が誤解して勝手に踊っていただけ、なのですか?」

「・・・そう考えた方が自然なんだよ。“融和派”を抑えやすい。宰相さんが、そういう方だとすれば、付き合いようは有る」

テレサの目を見て、確信に近いものを持って頷く。

王様が凡庸を装って情報を得たとして、その情報を誰が活かすのか?

協力者―――、裏工作を仕掛ける実行者が居なければ、成り立たないと思うんだよ。

「付き合いよう、とは?」

「・・・宰相閣下の目的と相反しなければ干渉してこない。―――、いや、宰相さんが描いた絵に乗っかる形なら、むしろ派閥に関係無く、裏で協力してくる人なのかも」

「ううむ・・・」

いわば、“融和派”に対する潜入工作員だ。

文官としての手腕も優れた人なのだろうけど、王様の綱渡りを補助する才能が飛び抜けた人なんじゃないかな。

王様がタヌキなら、宰相さんはキツネだ。

「サリトガが“融和派”の旗頭になることで、不埒者どもを安心させて、国力を維持し続けると同時に、いつでも消せる火種にまで弱体化させていると?」

「・・・あくまで、私の想像ですが」

テレサとハインズ様とお爺様が深い溜息を吐く。

「危険視したことも有ったが、陛下がアレを重用し続ける意味が、漸く腑に落ちたわ」

「何を考えて居るのか、よく分からない方だと、常々、思っていましたけれど、敵も味方も騙すなんて、そこまで面倒くさい方だとは・・・」

「・・・行動原理を分かっていないと、何が本当で何が嘘かが分からないから、付き合うのが難しい人、では有りそうだね」

テレサも宰相さんとの付き合い方に困っていたんだね。

私が感じた通りの人なら、宰相さんを排除する意味も必要も無くなる。

いや、居て貰った方が良い。

「・・・ふむ」

王様と宰相さんの目的は、国内外の動向を引っくるめた王国の安定なのだろう。

王様も宰相さんも、国内の反発を収めるためにお母様たちが退くことを認めたとして、それがお二方の目的に沿うとは思えないな。

実際には、お母様たちは健在なのだから弱体化することは無いのだけど、王国やウォーレス家が弱体化したと誤解するバカが現れたとすれば、新たな戦争を仕掛けられるかも知れない。

例えば、カリーク公王国とか勇王国とか神教会とか、王国の周りは、頭のおかしいバカには事欠かない。

お二方は、本心では王国が弱体化したようには見せたくないのだとしたら、これは、アレか?

お母様たちの「代わり」が居れば、多少は気持ちが落ち着くのだろうか。

でも、せっかくお母様たちが身を引いてウォーレス家を目立たなくしようとしているのに、私が足を引っ張る結果にならないかが心配だな。

「どうした?」

「・・・いえ。実情は兎も角、肩書きとして領主になるのですから、女性の作法ではなく、男性の作法で拝謁した方が良いのかと考えまして」

「なぜだ? 作法が身に付いていることと性別は関係無いぞ」

「・・・子供だと舐められて、お母様の顔を潰したくないな、と」

「それだけか?」

目を細めたハインズ様にジロリと睨まれる。

お見通しか。だったら勝負だ。