軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

解毒魔法 ⑨

心配の色が隠せていない目で、ハインズ様がテレサを見る。

「殿下も、陛下を誤解なさらぬよう」

「思うところが無いではありませんが、理解しておりますわ」

苦笑を浮かべたテレサが頷く。

「・・・そのことを、ご存じなのは?」

「ほんの数人の側近だけだな」

「・・・側近? もしや、宰相閣下も、ですか?」

「うむ。サリトガはオーグストと同世代で、幼少の頃からの側近だった」

「成人する前から謀を好む男でな。陛下の頭脳役だったのだ」

幼馴染みじゃん。

いや、ご学友ってヤツかな。

「子供の頃は陛下が王城を抜け出す手助けをするものだから手を焼かされるだけで済んだのだが、成人を迎える頃には先王陛下の体調が怪しくなってきておったので、先王陛下の代わりを務めるオーグストの政務を手助けするようになっていた」

「・・・それは、良いことなのでは?」

しかも、成人前から王家の政務を手伝えるだけの能力が有った有望株。

ハインズ様がポーションでのうがいをお代わりした。

「遣り方の問題だ」

「・・・やり方とは?」

「先王陛下が王宮を空けることが多いお方だったせいで、目が届かぬのを良いことに文官の汚職が蔓延ってなあ。疑いの有る文官を謀に嵌めては失脚させて回ったのだ」

「儂らは先王陛下に引っ張り回されて他国の戦争に介入して留守にしておったし、子供の身では、オーグストも凡庸を装って直接対決を避ける方が危険が少なかったことは分からぬでは無いのだが、王宮内が疑心暗鬼になって国内派閥の分断が深まる結果にも繋がった」

そういや、以前、言ってたね。

先王陛下はハインズ様やお爺様が振り回されるぐらいの脳筋で、国外あちこちの戦場にまで引っ張り回されたって。

ハロルド様も先王陛下に振り回された被害者の一人だったはず。

「かといって、現王陛下が才能を表に出せば、先王陛下と現王陛下の派閥が出来上がって対立する恐れもあった」

「・・・どのみち分断は生じたように聞こえるのですが」

意識したわけで無く、私の首が傾ぐ。

ルナリアは、静かだと思ったら難しい話に飽きたのか、私との間に挟まっているノーアの両手を取ってダンスっぽい動きで遊んでいる。

遊ばれているノーアの尻尾がユラユラと揺れていて楽しそうだから良いか。

ルナリアとノーアのことは、もちろん、ハインズ様もお爺様も気付いていることは、たまにチラッとルナリアたちの方へ視線が動くことからも分かるけど、お二人が見ないようにしている以上、私も気付いていないことにしておこう。

「その通りだ。先王陛下が選んだ道は他国との軋轢の場を国外に置くことで、現王陛下が選んだ道は国力を落とさず他国の圧力に対抗することだった」

「・・・先王陛下と現王陛下が目指したものは、“王国を守ること”で、同じと」

手法の違い。

方向性の違いってことだ。

「そうだ」

「儂らとしてはオーグストが侮られるのは許し難いのだが、今となっては、どちらの道が正しかったのか分からぬな」

「・・・そうなのですね」

宰相さんって、“融和派”のボスだと聞いていたから、敵かと思っていたけど、そうでも無いのか。

でも、テレサのお兄さんを甘やかしてバカに育つ手助けをしていることを考えると、王国にとってマイナスになることをしてるんだよね。

かと思えば、手下の“融和派”を切り捨てるような動きもする?

なんか、行動がチグハグで何を考えて居るのか分かりにくい人だな。

一貫性の無い人が国政のトップを務められるものだろうか?

「・・・うーん」

「どうした?」

「・・・いえ。宰相閣下は、今回の内戦の直接原因になった人身売買にも関与していなかったみたいですし、宰相閣下の利益って、どこに有るのだろうかと」

「サリトガは生粋の王宮文官だからな。父祖から継いだ領地は持っているが、王都育ちで自分の領地の土を踏んだことも無い男だ。武力を持たぬ文官は、直接的な利益を求めたりはせぬ」

自分で領地経営しない?

代官を置くのかな。

「・・・同じ文官でも、アレイオス叔父様を基準に考えてはいけないのですね?」

「アレイオスは、元々、騎士だからな。サリトガは特に外交交渉に長けておるから、表に見える形での利益を取ることは無いぞ」

「アレイオスが特殊なだけで、文官家系のファーレンガルド家そのものは、“保守派”寄りの“中立派”だからな。現に、先代はサリトガと同様の遣り方を好んでおった」

「・・・文官は、見えない形でしか利益を取らないのですか?」

アレイオス叔父様は、岩塩と干し肉の融通によって立場を固めることで幾らかは利益を得ているはず。

ミリア叔母様が噛んでいて有形無形の利益を取らないわけが無い。

まあ、アレイオス叔父様のことは、万一の際にはミリア叔母様が社交面で守るのだろうけど。

「国外勢力と手を結んで悪事を働いた馬鹿者どもが、どうなった?」

「直接的に利益を食む者は陥れやすい」

「・・・それはまた。癖の強い方のようですね」

外国と結託すれば叛意を疑われて粛清対象だ。

ハインズ様たちの宰相さんの評価は低くないみたいだね。

だとしたら、テレサのお兄さんの問題は、大人の監視の目が届かないのを良いことに、お兄さんが勝手に人生の坂道を転げ落ちてるってこと?