作品タイトル不明
解毒魔法 ⑧
「・・・西部地域の戦争が終わったのは一週間前ですか?」
「おおよそ、そのぐらいであろう。今ごろは王都付近を移動中であろうな」
「・・・北部へ着くまでは、まだ数日、ですか」
犯罪者の護送馬車を連れた往路では、レティアから王都まで10日間ほど掛かったと聞いている。
その後も連戦続きで馬に余計な負荷は掛けられないだろうし、強行軍は無いはず。
頭に描いた王国に地図で、位置関係的に、レティアから西部までの距離と西南部から中北部までの距離は、大して変わらないように思える。
緊急性が高くないなら、一日二日程度は休息を取らせるだろうし、私の予測スケジュールでは、まだ現地に到着していないはず。
私の予測を聞いたお爺様が頷く。
「到着すれば、早々に全ての戦闘が終結するだろう」
「・・・北部からは、そのままウォーレス領へ戻られるのですか?」
「王都へ立ち寄ってから、だな」
まだ寄り道させるんかい。
ルナリアと私は、揃ってズッコケそうになった。
「国王陛下へ特務魔法術師の任務を返上し、爵位承継の承認を賜らねばならんのだ」
「・・・それでは、お母様たちと会えるのは、まだ先になるのですね」
漏れそうになる溜息を呑み込んだ私たちに、ハインズ様が首を振る。
「フレイアたちには王都で会えよう」
「・・・王都でですか?」
「わたしとフィオレも王都へ行くの?」
「アレイオスの手の者を通じて、先んじて情報が伝わったが、王宮から登城の要請が出たそうだ。王宮からの使者は数日中にレティアへ着くだろう」
「フレイアたちの王都凱旋に併せて、お前たちも陛下に拝謁せねばならぬ。よって、殿下と共に王都へ向かって貰う」
つまり、お母様たちの北部到着と使者のレティア到着が同じくらい。
レティアから王都までの距離よりも、北部の前線から王都までの方が若干近いな。
直ぐに北部が治まるなら、使者の到着から直ぐに私たちがレティアを発てば、お母様たちの王都凱旋と同じぐらいに、私たちも王都へ着けるのか?
てことは、私たちが治癒魔法の練習ができるのは、使者のレティア到着までの数日間だけだな。
今は、それよりも、だ。
「・・・拝謁、というと、特別な作法があるのですよね?」
「いや。授爵ではなく承継だからな。私的、とまでは言えぬが、未成人のお前たちが公に披露されるような形にはならぬ」
「本来、承継で拝謁は必要ないのだが、お前たちに会わせろと、陛下がご所望らしい」
「・・・私たちにですか?」
「フレイアが自慢したそうでな。ルナリアの評価も上がっていて興味を強くされた、というのが表向きだが、本音はどうだかな」
ルナリアが首を傾げる。
「本音って?」
「見極めたいのであろうよ」
ハインズ様とお爺様とテレサの視線が私に集まる。
「・・・どういうことでしょうか?」
「王国内に貴族家は多く在るし、安定的な王国の存続を願うこちら寄りの”中立派”を含めれば、“保守派”、あるいは、それに近しい貴族家が半数以上ではある。だが、真に王家の味方で在り続ける貴族家がどれだけ有るかと言えば、そう多くは無かろう」
「その中で、“王国の剣”を自称し行動し続けるウォーレス家は、王国にとって以上に、王家にとって重要なのだ」
「特に、隔絶した戦闘力を持つピーシス家の動向には、敏感にならざるを得ん」
「・・・それで、私ですか」
しかも、今回の内戦で、ウォーレス家―――、いや、お母様は、その戦闘力の高さを国内外に見せつけた。
そりゃあ、跡継ぎがどんなヤツか気になるよね。私、外国人だし。
難しい顔で目を伏せ溜息を吐いたお爺様が、私に視線を戻す。
「フィオレよ。陛下について、どう聞いている?」
「・・・市井の者が、凡庸な方だと噂していることは知っています」
「その噂を信じるか?」
「・・・信じていません。他人の評価が、どれだけ事実と懸け離れているかは、以前のルナリアに対する評価を見れば明らかです」
「フィオレ・・・」
ルナリアの頭を一撫でしてから、お爺様の目を、しっかりと見る。
「・・・それに、お母様が懇意にされている方が凡庸なわけが有りません」
「それだけ分かっていれば十分だ」
お爺様は、ふっと表情を緩めたけど、ハインズ様は難しい顔のままだ。
「だが、公言はするな。あれはオーグストの手管なのだ」
「・・・国内を纏めるための、ですか」
「リテルダニア王国は古い国だ。長い歴史の中で王家に対する忠誠が薄れ、使命を忘れる貴族が増えすぎた。古い貴族家は、特にな」
「“融和派”のように、ですわね」
「・・・だから、敢えて周囲を騙していると?」
情報を得るため?
それだけのために、そこまでやるのか?
「探らずとも尻尾を出してくれて、何かと便利なのだそうだ」
「探るにも、人の口が増えれば、彼方の情報を得ると同時に、此方の情報も漏れるのが道理だからな」
政敵だけでなく、味方も信用していないのか。
それで、人を介さず、バカを装って不心得者が目の前で尻尾を出すのを待つ、と。
王宮という場所は、それほどまでに油断ならない場所なんだね。
ハインズ様もお爺様も、ポーションで、うがいしたような表情だ。
めちゃくちゃ青臭くてエグ苦くて不味いんだよ。
「企みに気付いていることを悟られていなければ、先手を打てる」
「かつては、止めろと諭したことも有ったが、今、思えば、アレはアレで正解なのだ」
「・・・理に適っては居ますね」
プライドよりも合理性を採ったのか。
王様である自分のプライドを殺せれば、だとは思うけど。
要は、とんでもないタヌキだと言うことだ。