軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

解毒魔法 ④

「・・・これ、どう使うの?」

「色々です」

「・・・ふぅん」

随分とアッサリした説明だな。

売り込まないってことは利益が薄いのかな。

押し売られても困るからツッコんでは聞かないけど。

続けて磁石の隣の装飾された箱に並べられているブローチ状の商品の一つを指す。

「・・・こういうのも魔法道具なの?」

テレサが見ているものと同じ装飾品系統の商品だ。

磁石とは陳列している箱の装飾から扱いが違うので値段も違うのだろう。

値段が高ければ同じ利益率でも利幅が大きい。

「簡単な術式ですが、台座の方に刻印が刻まれております」

「・・・どんな魔法?」

宝石っぽくカットしてある石は魔石かな?

そのわりに石から魔力が感じられないな。

「こっちのヤツは“ 光(ルーメン) ”の術式で、こっちは“ 火(フィア) ”の術式です」

「・・・生活魔法なんだね」

食い付きが良くないと思ったのか、店主は苦笑いを浮かべる。

「魔法術式に適性が無い人間も居るもんで、需要は有るんですよ」

「・・・ああ。獣人族の人とか?」

「そうです! よくお分かりで!」

我が意を得たという感じの店主が勢いを取り戻す。

「・・・この、嵌まっている石は、魔石?」

「魔石と言えば魔石なんですが、石の方は安物なので嵌め替えることをオススメします」

「・・・なるほど。付いている石は見本なんだね」

「西方諸国だと魔石も高いんで、こうやって売るんですよ」

へぇ・・・?

魔法道具ってことは、もしかしたら、と、思っていたけど、やっぱりか。

「・・・いつもは西方諸国で商売をしてるの?」

「元々は、そうだったんですが、最近は西方と南方と東方を行ったり来たりですね」

行ったり来たり、ね・・・。

やっぱり、 間諜(スパイ) かな?

だとしても、上手く取り込めたら情報源に使えるかも。

地球でも、ダブルスパイなんてものが成り立ったのは、与える情報を選別して漏れても良い情報と 交換(バーター) で欲しい情報を得るためだったはず。

「・・・そうなんだ。良いものが有ったら、領主館へ見せに来てくれて良いよ」

「領主館へ、ですか?」

「・・・私は、フィオレ・ピーシス。必ず買うとは約束できないけど、それでも良いなら見せに来て」

私の名乗りに店主が瞠目する。

「ふぃ、フィオレ様って言ったら、噂のご息女様じゃないですか!」

「・・・噂がどんなのかは知らないけど、私のことだろうね」

ありゃ?

今さら私の名前を聞いて驚くってことは、スパイじゃなかった?

あるいは、私の容姿すら情報を集められないほど腕が悪い・・・なんてことは無いよね。

私の容姿なんて、この市場で私の話が出れば誰からでも情報は得られたはず。

「私は、ポルロッカ伯爵領の商人で、ハンスと申します! まだ駆け出しの商人ですが、ぜひご贔屓に!」

「・・・ハンスさん、ね。覚えておくよ」

ポルロッカ伯爵領と来たか。

先日、お母様が攻め落とした“融和派”領地だよね。

西部国境地域の小国連合諸国に面した立地だったはず。

魔法道具を扱っているのだから、商品ルートは勇王国か、神教会支配地域か。

どのみち抜ける情報は多い方が良い相手だな。

ウォーレス領へ来て私に会って敵意を見せないってことは、ポルロッカ伯爵領を攻撃したお母様に恨みを抱いている線も無いのか。

刺客の可能性も有るから、ただの商人だと油断するのは早いだろうけど、危険度は低そうだね。

「これが良いですわ!」

素知らぬ顔で物色していたテレサが一つのブローチを手に取った。

「・・・これ、何の魔法のヤツ?」

「光術式の補助術式ですね」

「・・・補助? どういう効果があるの?」

高級品に囲まれて暮らしてきたであろうテレサのお眼鏡に適うだけあって、よく出来た造形の商品に見える。

「気休め程度ですが、コイツを通して術式を使うと効果が上がるって代物です。光術式を使える者が少ないので売れないんですがね」

「・・・そうなんだ。幾ら?」

“謳い文句の効果が事実ならテレサに丁度良いな”、なんて、本音を表に出さないように素っ気なく言う。

余計な一言で値段が上がる、なんてことは、よく有ることだ。

「金貨3枚で売っている物なんですが、お近付きの意味を込めて、金貨1枚でどうです?」

「・・・分かった。オーリアちゃん、お願い」

「了解です」

「お買い上げ、ありがとうございます。ちょっとお待ちください」

金貨を受け取った店主は綺麗そうな布を取りだして、テレサが持っていたブローチを預かって丁寧に磨き始めた。

私の金銭感覚だと食べられもしない飾り物に日本円で10万円相当を支払うのは高すぎる買い物だけど、王女様にとっては安物なんだろうなあ。

店主から受け取り直したテレサが嬉しそうにしているし、記念品だから良いか。

「良いんですの?」

「・・・西方の情報が幾らかでも抜けるなら、出入りさせる価値は有るのかなって」

道具屋を離れた私たちは互いに正面を向いたまま小声で話す。

当然のことながら、しっかり者のテレサも店主に対して私と同じ懸念を持って居たことが分かる。

いや、間諜と疑ったからこそ店に興味を持ったのか。

「分かっているなら構わないのですけれど、情報を抜くということは同時に抜かれることでもあるのを忘れないでくださいね」

「・・・ありがと。気を付けるよ」