作品タイトル不明
解毒魔法 ①
ルナリアの触角ヘビ討伐劇で盛り上がった夕食後、ティールームでの雑談タイムに、私とノーアはセリーナ様の隣りに座るように指定された。
セリーナ様を挟んだ私の反対側のソファーにはお婆様が座る。
満腹になったノーアは私が腰を下ろしているソファーで一緒に居て、私に抱き付いて眠そうにしている。
このパターンは、アレだ。私に尋問―――、聞きたいことが有るのだろう。
「ノーアの身体能力は大したものだったわね」
「・・・アリアナさんは、身体強化魔法だと言っていました。誰に教わるでも無く自然に身に付ける子が、たまに居ると」
「そのようね。3歳で、というのは、些か早いけれど」
「ほう? もう身体強化術式を使えるのか」
「私も馬上から見ていましたが、大人顔負けの跳躍力でしたよ。馬上からでも手が届かない高さの枝へ一足飛びでしたから」
「才能は有りそうだな。刺客か、あるいは間諜に向いているか?」
お爺様とお婆様の遣り取りにハインズ様も参戦する。
「間諜が務まるかどうかは性格にもよるが、獣人族は身体能力が高い。トリアかマキアナに指導させるのが良いかも知れぬ」
「・・・無意識だったのでしょうけど、よほど、触角ヘビが怖かったようです。触角ヘビを見付けたのはノーアだったのですよ?」
「目も良いのか。勘が良ければ斥候にも向きそうだな」
どういう方向性でノーアを教育するか、って話なのは分かるけど、全部、 隠密(スパイ) 系なのが気になるな。
こっくりこっくり船を漕いでいたノーアを撫でていると、私のお腹に抱き付いたまま本格的に寝息を立て始めてしまった。
びっくりするほど身軽なノーアが、暗器の扱いが上手いトリアさんと刃物全般が大好きなマキアナさんに師事するのか。
いよいよ忍者みたいになりそうだなあ。
猫耳ニンジャとか、特殊な嗜好の一部の人たちに大ウケしそうだよ。
あんまり危険な役目には就いて欲しくないけど、その内、私もお母様のように戦場で戦う日が来るし、ノーアも一緒に戦ってくれるのなら、戦場でのノーアの役目は斥候で確定しそうかな。
刺客も間諜も斥候も忍者の仕事だったはず。
「しかしまあ、ほんの数日で、よく懐かれているな」
「ミリアやルナリアも甘えん坊でしたが、ここまででは無かったですね」
「積極的な性格では無い様子だし、もう少し自立を促した方が良いのかしら?」
お爺様とお婆様は笑っているけど、セリーナ様は思案顔で頬に他を当てた。
無関心こそが最も残酷で辛いことを知っている私としては、どんな形でも心配してくれている状況は見捨てられていないと理解できるけど、まだ3歳のノーアには重たいんじゃないかな。
「・・・今まで、安心できる場所が無かったのではないでしょうか。私がしっかりと躾けますから、出来れば、いま暫くは、このままでお願いします」
「不自由ではないか?」
ハインズ様の心配は私の方だったか。
セリーナ様もそうだったのかな。
大人たちの判断がどうなるかは分からないけど、私の考えだけは伝えておくべきだろう。
「・・・いいえ。私たちと同じ体験をして学ぶことでノーアが成長できるなら、私は、ぜんぜん不自由だとは思いません」
「フィオレに付いて学ぶのが教育にも良いか。他人の歩幅に合わせて歩くことは、暴走しがちなフィオレ自身の経験にもなろう」
「そうね。何事も経験ですから、頑張りなさいな」
おや? 私に対する心配って、そっち?
ということは、私の暴走がノーアの負担になると心配されていたのだろうか。
反論する気は無いけど、心当たりが有るだけに、反論が難しいな。
でも、私が良くても影響を受ける人たちは居る。
「・・・テレサもルナリアも、ごめんね」
「良いわよ! ノーアは、わたしにとっても妹だもの!」
「ええ。構いませんわ。ノーアは私にとっても妹ですから」
「・・・ありがと。二人とも」
迷惑にならないように気を付けなきゃ。
テレサは特に、時間の制限が有るだけに私の勝手で負担を掛けるのが心苦しい。
私たちの様子を見ていたセリーナ様が目を細める。
「それで? 採掘場では随分と考え込んで居たけれど、何か思い付いたのかしら」
「・・・解毒魔法ですか。具体的には、まだ」
本題が来たか。
テレサの訓練の進捗はセリーナ様にとっても関心事だろうから、きっと来るだろうと思っては居たけどね。
セリーナ様は誤魔化しても何かに気付くだろうから、本音で話した方が良いはずだ。