作品タイトル不明
猫耳ニンジャ爆誕 ㉒
「ええっ!?」
もの凄い勢いで蹴り飛ばされた枝が、どこかへ飛んで行き、反作用の力を得た涙目のノーアが弾丸のような勢いで私目掛けて素っ飛んできた。
空中でアクロバティックに軌道を変えるなんて、本当に忍者みたいだよ。
外国人―――、いや、異世界人だし、ニンジャの方か。
真下へ向けて落ちてくるはずのノーアが予想しないベクトルで飛んで行き、ノーアを受け止めようと両腕を伸ばしてスタンバイしていた体勢のまま、目と口を目一杯に開いたアリアナさんがノーアの動きを顔の向きで追いつつ固まっている。
スローモーション映像で残しておきたくなる絵面だなあ。
急速に迫るノーア。
避けるわけにはいかない。
私が避けたらノーアがケガをする。
反射的に風ジェットカッターを霧散させた私は、ゴールキーパーのように両腕を広げていた。
絶対に受け止める!
しかし、ノーアは私の予想を超えてきた。
『ねえっ!』
「・・・げふぅっ!?」
イメージの中では上手く受け止めるはずだったのに、落下速度も加わって想像以上のスピードを得ていたノーアの体を私の腕は空振りし、鳩尾でまともにノーアを受け止める結果となった。
衝突の衝撃で呼吸が詰まり、私の筋力では殺しきれなかった運動エネルギーで、私よりも小さなノーアの体に押し倒されて尻餅をついた私は、ノーアを抱きかかえたままで、ごろんごろんと後ろ向きに、でんぐり返りした。
「・・・ぐはっ」
「「「「「フィオレ様!?」」」」」
大の字になった私に向かって、血相を変えたピーシーズが駆け寄ってくる。
『ねさま!』
『・・・ケホ! ケホ! の、ノーア?』
見事に2回転した私の上にノーアが乗っかっている。
私が「大丈夫」と手で制したものだから、心配顔のピーシーズは地面に寝転がっている私たちを取り巻いておろおろしている。
「・・・ああ~、ビックリした」
驚いたし痛かったけど、それだけだ。
軽く目が回ったけど、こんなの直ぐに治まる。
私が下敷きになっているから、ノーアに大きな怪我は無いはず。
ただただ、ノーアが無事だったことが私は嬉しい。
抱き付いている小さな背中を優しくトントンと叩いていると、私の胸にギュッとしがみ付いていたノーアの緊張が解けてきて体から力が抜けてくる。
『・・・ヨシヨシ。怖かったね』
『こわかった・・・』
『・・・でもね。魔獣は怖いけど、お肉になるんだよ』
ペタリと伏せていたネコ耳がピッと立ち上がり、私の胸元に押し付けていた顔をノーアが上げる。
泣いたせいか、私にぶつかったせいか、涙目のノーアの鼻が赤くなっている。
『おにく?』
『・・・そうだよ。美味しいよね? お肉』
『にゃ』
『・・・ほら。見てごらん』
こくんと頷くノーアの頭を撫でる。
ルナリアとオーリアちゃんが血を飲んだ後、緊急的に適当な長さにブツ切りにされて、大きな革袋に押し込まれている触角ヘビを指し示す。
無力化されて断片化していく触角ヘビをじっと見ているノーアの目に、理解の色が見て取れる。
『おにく』
『・・・だから、お腹いっぱい食べられるように、お肉にする方法をノーアも覚えようね?』
『おぼえる!』
期待感かな?
くりくりの金色の目がきらきらしている。
メリーナさんがノーアの両脇に手を差し込んで私の上から退けてくれ、ヨッと上体を起こすと、ノーアを追い掛けて飛んできていたアリアナさんが手を差し出してくれた。
「大丈夫なんですか?」
「・・・へーき。へーき」
引っ張り起こして貰って立ち上がると、みんなして私たちの体や衣服に付いた土や枯れ葉を叩き落としてくれる。
心配したお婆様も馬から降りて来てくれていたようだ。
「フィオレちゃん。怪我は?」
「・・・問題ありません。ノーアも問題無いと思います」
「そう。良かったわ」
「・・・ご心配をおかけしました」
「良いのよ」
ニコッと笑って頭を下げると、安心した様子のお婆様はご自分の乗馬へと戻っていく。
「・・・さてと。ノーアは・・・」
メリーナさんに連れられたノーアは、皮を剥がれてブツ切りにされる触角ヘビの処理をしている様子を興味津々な様子で見ているようだ。
飛び上がって泣くほど怖かった巨大なヘビも、「アレも、お肉」だと教われば興味の方が勝るんだなあ。
あの様子を見ると、私がそうだったように、違法に奴隷として生かされていたノーアも食べ物に対する執着が強いみたいだね。
売り物とは言え奴隷にお腹いっぱい食べさせるとは考えにくいし、あれだけ食べるノーアだ。
きっと、ひもじい思いをしていたのだろう。
「ひもじさ」と言う感覚は、私にとって、最も許されざる、最も忌まわしい記憶だ。
ノーアに、ひもじい思いをさせるなんて、到底、許容できない。
どこに居ても食べ物を自分で調達できるように、お姉ちゃんの私が、しっかりと教えてあげなければ。
そう時間も掛からずに、獲物の処理待ちで待機していた馬列の雰囲気が変わる。
ヘビの切り身が詰められた革袋は複数の馬の鞍の後ろに分散して積まれたようだ。
そろそろ出発かな?
「バジリスクの積み込み、終わりました!」
「総員、騎乗!」
再出発の準備が整ったのを確認したアリアナさんが号令を発する。
私たちも急がないと。
『・・・おいで。ノーア』
『にゃ』
アリアナさんに手伝って貰ってノーアを鞍へと押し上げた私も、よじ登るように自力で鞍へと跨がる。
機嫌良く尻尾を揺らしているノーアが落ちないように、お腹へと腕を回した私は空いている手に手綱を握り直した。